第16話・起きてはいけない事件・・・
【あの~失礼ですが…】とそのスーパーの定員に声を掛けられ雫は定員の方へ振り向くと、とても優しそうな青年がそこに立っていた。
その定員は雫に【先週の日曜日に旦那様と買い物にいらした時に、忘れ物をしてまして・・・来られるまで事務所の方で保管していたので、お手数ですが一緒に来て頂けないでしょうか?】と言われ、実際に先週ココに買い物に来たのも事実だし、何処かで落としたかもしれない探していたモノがあった為、何も疑う事も無く雫はその青年について行った。
あんな事が起こってしまうなんて思ってもいなかった…。
結構奥まで連れて越された時、雫は怖くなって店員さんに尋ねてみた
『あの〜何処まで行くんですか?やっぱり主人と来た時で良いので…』と伝えた瞬間に青年に手首をグインと引っ張られ、頭が痛くなるくらいの音が響き合っている部屋に引きずり込まれ、常に動いていたその機械の音で雫の声もかき消された。
今日一日の仕事が終了した由樹は足早に仕事場を後にし、何故か分からないが昼過ぎ頃から変な胸騒ぎがして止まらずにいた、嫌な予感しかしなかった。
マンションに着くと部屋は真っ暗だった、マンションの住人の女性は海外本社へ異動命令が出ていた為、今このマンションに住んでいるのは俺達二人だけ。
雫が、居るはずなのに部屋が真っ暗というのが不自然だった。由樹は、彼女を呼び何故か凄くドキドキしていた、「雫?居るんだよね~雫?....」そう叫んだ直ぐ後で、物置部屋の方から物音がしたような気がした、凄く気になり雫がそこに居るような気もしていた事もあり、そっと物置部屋の戸を開けてその部屋の電気を付けた。
部屋の戸を背にして座り込んでいる雫の姿を目にした由樹は息を呑んだ。
彼女の直ぐ横に座り「どうしたの?何があったの?ゆっくりで良いから俺に話してくれないかな?雫の気持ちが落ち着いてからで良いから」と由樹がリビングへ連れて行こうと、肩に手をまわした途端、か細く消えそうな声で由樹へ発した言葉…
『ごめんなさい』…『私は、必死に抵抗したの!でも相手の力が強くて…この子の事もあったし逃げなきゃ!って由くんの名前呼びながら、必死だった!由くんとの子を守らなきゃって頑張ったけど…頑張ったけど‥‥。』と声を荒げて必死に叫ぶ雫の身体を強く抱き締めながら「分かったから、もう良いから信じてるから。だからもう”言わなくて良い”」…”言わなくて良い”の言葉と重なりながら、雫の言葉が”ボソッ”とこぼれ落ちた『ごめん…』…『ごめんなさい....。』その言葉で、二人して声を出しながら泣いた……涙が無くなるまで泣いて泣いて泣き続けた。
何分経っただろうか、取り敢えず夜間の救急病院へ行き処置をしてもらった、その時の女医にお腹には我が子がいる事を告げてた。
数時間後、女医から告げられた言葉に由樹は、「良かった…」と呟きながら病院の廊下にあるソファーに座りながら、我が子の生き運の強さに感謝したと同時に、雫の精神的に傷ついたダメージで、これから変な事を考えないように常に、誰かと居られる様にと由樹は考えた。
会社の社長に、昨日、妻に何が起きて一人でマンションに、居らせられない事を素直に告げた。
会社の方針でもある、【社員の家族も皆家族】という事もあり、従業員全員にも社長から黒枝の奥さんの事に付いて伝え、『自分達の仕事と同時進行と成ると大変だと思うが、考えて欲しいと言うか、社長のワガママだと思って受け入れて貰えないだろうか?』と社長自ら、頭を下げてくれたのだ。
何処からか自然と拍手が起こり、由樹は、会社関係者全員に感謝してもしきれないぐらい心から感謝していた。
必ず誰かが雫と一緒に居る環境で由樹も安心して仕事にも集中できるまでに成っていた。雫にも笑顔が戻って来ていたので、会社の人達も安堵していた。
数か月経ったぐらいだろうか、トイレに行った雫の帰って来る時間が、いつも以上にかかっていた事に従業員達ほぼ全員が嫌な予感しかなく総動員で雫を探した。
会社内外、探しまくっていた時、誰もが聞きたくなかった音だけが響き渡っていた。
音が聞こえてきた方へ従業員の二・三人が恐る恐る行くと、分かっていたような.....皆思っていたが認めたく無かった事が目の前で起きていた。
その光景を見た従業員の頭の中に浮かんだ…その答え合わせが当たった時、従業員の中の一人に由樹も入っていたが彼の心の中の何かが崩れ落ちた。
四つ這いにながら雫の傍まで行き、震える手で雫の頬にそっと当てた時、ほのかに温かかった事に、あの事件…あの日は由樹の誕生日だった…あの日に産まれた事に…何とも言えない思いだけが…時間だけが・・・去っていた時の悔しさと、
雫に自殺という選択させてしまった事に対しての悔しさだけが由樹の中に残った。
会社の屋上に沢山ある機械の裏側に、雫の靴と1枚の手紙が置いてあった。
多分この手紙を書く時、雫も泣いていたのかな?と伝わるぐらい手紙の紙が、かなりウネッていた事がそれを教えてくれていた。
【由くん、ありがとう。幸せだったよ】
その言葉を見た瞬間に、由樹の中で以前にも感じた似たような感情とが混ざり合い憎しみという形で由樹の中に熱いモノが沸き上がってきた。
雫は、救急車で病院に運ばれたが”即死”で、お腹の子供も”内臓破裂で即死”だった。女性従業員の一人が声を震わせながら『雫ママ、パパの事を想ってベビーちゃん連れて行ったのね』と言いながら、皆…声を揃えて涙した。
雫の葬式は、会社全員が挙げてくれた。
一応、ダメもとで雫の両親にも知らせたが、誰一人来る事は無かった。
分かっていたとはいえ、(最後ぐらい)....と由樹は思ってしまった。もう1人に手紙を送り、直ぐ手紙の内容を読みながら日本へ帰る準備をしていた。通夜、葬式全て済んだ頃に、マンションの持ち主の斉藤絆さんが急いでマンションへ、由樹が居る部屋の戸をノックした、力が抜けたような声で「はい、どうぞ」と、絆が由樹に近づき優しく由樹の肩にそっと手をのせた、由樹は絆の掌から伝わる懐かしいような…昔に感じた事があるような思い出せないけど、その時の…何かと何かが重なった気がしたが、それが何なのか分から無かったが、絆の胸で泣き叫んでいた。
・森瀬雫…19歳・飛び降り自殺。
雫の事に付いて書かれた手紙が着く頃、何かを察した母親もまた雫が飛び降り自殺をしたあの日と同じ日、ほぼ同じ時刻に娘と同じ死に方で命を落としていたのだ。
その光景を、会社から帰って来たばかりの雫の父親が目にしてしまい気が可笑しくなり、妻を追うように由樹が学生の頃に友達と、たむろっていたあの倉庫で首を吊って自殺をしていたのだ。
・雫の両親(40歳)…母親・飛び降り自殺。父親・首つり自殺。
‥‥
由樹に悲劇が起きてる同時期頃…。
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