第1話 夏休みの始まり

 学校の近所にあるデパ地下で、僕と隆史と町子は夏休みの課題をどう片付けるか延々と語りあっている。僕たち三人は互いに得意科目が違うこともあり、担当する教科も苦労することなく決まった。

 でも、課題の内容をそのまんま写すのはさすがにまずい──夏海先生はああ見えて物凄く勘が鋭い──ので、ひとまず不得意なところもある程度やっておくという作戦をとることにした。


「これで決まったな! 今年の夏休み、俺は海で思いきり泳ぐ!!」

「はいはい、担当の部分をきちんとやりきったらね」

「わかってるって! 数学と化学は俺たちさっぱりだからさ、頼りにしてるぜ秋生」


 そう言って僕の肩を叩く隆史。ちょっと乱暴なやつだが、頼りにされるのは悪い気はしない。


「じゃあ夏休みの計画表も辻褄合わせねえとな」

「あら珍しい。隆史、少しは賢くなった?」

「うるせえ! 秋生はまぁ言わなくてもわかるか」


 僕は隆史たちのやりとりを横目にしながら、夏休みの計画表をゴソゴソと取り出して──


「あれ?」

「どうしたの秋生君」

「夏休みの計画表がない……学校に忘れてきた」


 僕の青ざめた顔を見て、隆史が普段見せないぐらいの真顔になった。


「おいおい……それはシャレになってねえぞ!?」

店内の時計を見る。まだ夕方4時を過ぎたところだ。


「……まだ間に合う。取りに行ってくる!」


 僕は勢いよく椅子から立ち上がり、早足で店を出た。


「あんなに慌てるなんて、秋生にしちゃあ珍しいな……」

「ねぇ、今日は確か天気予報で夕立が降るって」

「そういやそうだった! あいつ傘持ってたっけ……って、もう居ねえ!?」

「そんなに長い時間降らないって言ってたから大丈夫だと思うけど……」

「そうだな……まぁなんとかなるか」


 顔を見合わせ、やれやれという顔になった二人だった。


───────────────────


 デパ地下と学校が近いといっても、バスで15分かかるぐらいの距離はある。間の悪いことに、僕の目の前で学校行きのバスは通り過ぎてしまった。


 こんな時に限って、悪いことは重なるものだ──凄く暑くてダルいなと思ったけど、僕は仕方なく中学まで歩くことにした。学校へ続く大通りを歩きながら、僕はこれから始まる夏休みで何をするか考えている。


 僕の両親は今、家にいない。とはいっても悲しむようなことではなく、二人とも僕が高校に入学するまでの間、海外の仕事で家を空けているだけだ。


(なんだか空が暗くなってきたな……)


 僕はふと空を見上げ、最近の自分のことを考えていた。


 寂しいかと言われたら、全く寂しくないなんて答えることはできない。それでもうちにはおばあちゃんがいてご飯は作ってくれるし、時々僕の話し相手にもなってくれている。


 でも最近はおばあちゃんと話す時間がだんだんなくなってきていて、「秋生も大きくなったねぇ」というおばあちゃんの一言で話がおわってしまうことも少なくない。僕が小さい頃は一緒にテレビを見ることもあったぐらいなのに、いつのまにかそういったことはしなくなった。


(作ってる途中だったプラモの続きをするか、それとも最近やろうと思っていた日記を始めるか──)


 ついこの前、おばあちゃんが買ってきてくれた日記帳と万年筆。毎日手を動かす習慣をつけておかないと将来苦労するよ、とおばあちゃんが言ってたっけ。


(まぁプラモ以外にやる事もないか)


 僕にしてはなんだかやる気が出てきたなぁ──そう思った瞬間、僕の鼻にポツリと水のようなものが当たった。


(雨!?)


 気がつけば空は真っ黒にかき曇り、近くで雷の音も響き始めている。


「ヤバい」


 学校はすぐそこだ。走れば本降りになる前に走れば間に合う。そう思って僕は走り始めた次の瞬間。


 物凄く大きな雷鳴が響き渡り、大通りが一瞬物凄く明るくなったように見えた。それから僕の周りを照らし始めていた街灯がチカチカと点滅し── 一斉に消えた。


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