【TS転生ファンタジーバトル小説】アステラルダ・コンバット! ~転生美少女(※中身おっさん)が強すぎて、倒した敵が全員仲間になっちゃいました!(※男女問わず)~
番外編「華麗なる闘花祭での激闘(?)」
番外編:戦乙女は華も嗜む!? ~不本意だらけの闘花祭~
番外編「華麗なる闘花祭での激闘(?)」
風見の高原都市アネモスでの滞在は、拳聖祭での激闘で疲弊した俺の心身を癒すには、ちょうど良い穏やかさに満ちていた。仲間たちは相変わらず騒がしかったが、それも日常のBGMとして受け流せる程度には、俺もこの奇妙な共同生活に慣れてきていた。右拳の調子も良好で、そろそろ次の目的地へ……と考え始めていた矢先のことだった。
街の中心広場が、やけに華やかな飾り付けで彩られ、多くの人々(特に女性)で賑わっている。何事かと尋ねてみると、アネモスで年に一度開催される「華麗なる
「闘花祭?」
カイが興味津々で尋ねる。
「ええ。ただ強さを競うだけでなく、『戦いの華麗さ』や『観客を魅了するパフォーマンス』も重要な評価基準となる、アネモス独自の伝統的なお祭りなんですのよ」教えてくれたのは、通りすがりの貴婦人だった。
「優勝者には、アネモスの風の精霊女王様から、特別な祝福と、『万病を癒す』と伝えられる秘薬『エルフの涙』が授与されるとか……」
「「「!!」」」
その言葉に、俺以外の仲間たちの目の色が変わった。特に、ジン爺さんが目を見開いている。
「エルフの涙……まさか、あの伝説の秘薬が、まだこの世に存在したとは……」ジン爺さんが驚愕の声を漏らす。聞けば、それはどんな傷や病も癒すと言われる、非常に希少価値の高い秘薬らしい。俺の右拳の古傷(完治はしたが、時折僅かに違和感が残る)や、あるいはジン爺さん自身の古傷(彼も何か抱えているのかもしれない)にも効果があるかもしれない、と。
「姐さん! これは出場するしかありやせんぜ!」ゴルドーが息巻く。
「アステラルダ様、あの秘薬があれば、あなたの御身体も完全に……!」エリアが期待を込めて言う。
「そうよアステラルダ! 出ましょうよ!」シルフィも同意する。
「うむ。アステラルダ様の回復のためならば……」(ゼノン)
「面白そう! 華麗な戦いのデータも取れるし!」(ルルナ)
「アステラルダ! あんたなら余裕だろ!」(カイ)
「へへっ、優勝賞金もたんまり出るんじゃねえか?」(ジャッカル)
……仲間たちが、完全に乗り気になってしまっている。
だが、俺は猛烈に嫌な予感がしていた。「華麗さ」? 「観客を魅了するパフォーマンス」? そんなものは、俺のMMAとは最も縁遠い要素だ。
「断る」
俺は即答した。
「そんなふざけた大会、出る気はない」
「まあまあ、アステラルダ。そう言わずに」ジン爺さんが、なだめるように言った。「確かに、お主の戦い方は質実剛健。じゃが、たまには違う趣向の戦いを経験するのも、武の幅を広げる良い機会じゃと思うぞい? それに、あの秘薬は本物じゃ。儂の古傷にも効くやもしれん」
……爺さんにそう言われると、無下にもできない。
結局、俺は仲間たちの(半ば強引な)説得と、ジン爺さんの期待(と俺自身の回復へのわずかな期待)に押し切られ、不本意極まりないながらも、「華麗なる闘花祭」への参加を承諾する羽目になったのだった。
*
大会参加を決めたはいいが、問題は山積みだった。「女の武器」……もとい、「華麗さ」や「パフォーマンス」とは、具体的にどうすればいいのか、皆目見当もつかない。俺が首を捻っていると、仲間たちが口々に(的外れな)アドバイスを始めた。
「まずは見た目からですわ、アステラルダ様!」エリアがどこからか持ってきた、ひらひらの付いた戦闘服(?)と化粧道具を広げる。「この可憐な衣装で、舞うように戦えば、観客はイチコロです!」
「いいえ、美しさで油断させるなら、もっと露出度の高い衣装の方が効果的よ。それに、動きの邪魔にならない軽やかさも重要」シルフィが、エリアとは対照的な、身体のラインが出る軽装束を差し出す。「そして、戦いの合間に、こういう流し目とか……どうかしら?」実演してみせるが、普段のクールさとのギャップで逆に怖い。
「違う違う! 大事なのは笑顔だよ、アステラルダ!」ルルナが元気よく言う。「ニコッと笑って、可愛いポーズを取りながら精霊を呼べば、みんなメロメロだよ! こう、キュルンって感じ!」……意味が分からない。
「いや、やっぱり剣だろ! こう、剣を華麗に振るって、花びらでも舞わせながら……最後にキメのポーズでウィンク! これで決まりだ!」カイが熱弁するが、俺は剣を使わない。
「姐さん! 難しいことはいりやせん! いつもの姐さんの、あの鋭い睨み! あれだけで、どんな男もひれ伏しやすぜ!」ゴルドーは根本的に何かを勘違いしている。
「うむ……相手の攻撃をあえて受け、守り抜く姿を見せることで、観客の心を掴むという手もあるかと……ただし、危険も伴いますが」ゼノンは真面目に防御戦術を提案するが、趣旨が違う気がする。
「師匠、ここはひとつ、色仕掛けってやつでさぁ! こう、胸元をチラッと見せたり、悩ましいため息をついたり……」ジャッカルが下衆なアドバイスをしようとした瞬間、エリアとシルフィの殺気を込めた視線を受けて黙り込んだ。
「ほっほっ。皆、好き勝手言うとるのう」ジン爺さんが笑いながら言った。「アステラルダよ、難しく考えることはない。『柔よく剛を制す』という言葉がある。力でねじ伏せるだけが能ではない。相手の力を受け流し、流れを利用し、最小の力で最大の効果を生む。その様は、ある意味で『華麗』と言えるかもしれんぞい。お主の得意とする、合理的な動きの中に、その答えがあるのではないかな?」
(……合理的な動きの中に、華麗さ……?)
ジン爺さんの言葉だけが、唯一、俺の中で何かに引っかかった。だが、具体的な答えは見えないまま、大会当日を迎えてしまった。
*
「華麗なる闘花祭」の会場は、拳王闘技場ほどではないが、多くの観客で賑わっていた。リングの周りには花が飾られ、どこか優雅な雰囲気だ。
俺は、エリアとシルフィに半ば無理やり着せられた、動きやすさを重視しつつも、少しだけ装飾の施された戦闘服(シルフィ案が採用されたらしい。エリアが悔しがっていた)に身を包み、リングへと向かう。化粧も薄くだが施されている。非常に居心地が悪い。
大会のルールは、通常のトーナメント形式だが、勝敗だけでなく、「技の華麗さ」「観客へのアピール度」なども採点され、総合点で評価が決まるというものだった。
俺の一回戦の相手は、鞭をしならせながら、妙に色っぽいポーズを取る女戦士だった。
「あらあら、可愛いお嬢ちゃん。お姉さんが、優しく『指導』してあげるわぁん」
……気持ち悪い。俺は無言で構える。
試合開始。女戦士は、鞭を巧みに操り、踊るようなステップで俺を翻弄しようとする。時折、観客席に向かって投げキッスを送るなど、アピールも忘れない。観客の一部(主に男性)からは歓声が上がっている。
(……くだらん)
俺は、そんなパフォーマンスには一切付き合わず、冷静に相手の動きを見極める。鞭の軌道、ステップの癖、呼吸のリズム。
そして、相手が大きく鞭を振るい、決めポーズを取ろうとした瞬間。
俺は、音もなく懐へ踏み込み、鞭を持つ腕を捉え、流れるような動きで腕緘(アームロック)を極めた。
「きゃあああっ!?」
女戦士は、色っぽい悲鳴ではなく、素の絶叫を上げた。タップアウト。瞬殺だった。
会場は一瞬静まり返ったが、すぐにどよめきが起こる。
「な、なんだ今の動き!?」
「無駄がない……美しい……!」
「だが、華麗さ……は、どうなんだ?」
観客の反応は様々だったが、採点の結果、俺の「圧倒的な実力」は評価されたものの、「華麗さ」「アピール度」のポイントは低く、ギリギリでの勝利となった。
「……やはり、普通に戦うだけではダメか」
俺は舌打ちした。
続く二回戦、三回戦。俺は、対戦相手をことごとく秒殺に近い形で下していった。だが、評価は芳しくない。「強すぎるが、華がない」「もっと観客を楽しませるべきだ」という声が聞こえてくる。イライラが募る。
「アステラルダ様、もっとこう……笑顔で!」
「風のように舞うのよ!」
「姐さん、もっとド派手に!」
「アステラルダ、決めポーズだ!」
仲間たちの的外れな声援が、さらに俺の神経を逆撫でする。
(……もういい。俺は俺のやり方でやる)
そして、迎えた決勝戦。
相手は、今大会の優勝候補と目されていた、筋骨隆々の女性パワーファイター、「スマイリー」・ベルだ。彼女は、常に満面の笑顔を絶やさず、豪快な投げ技や打撃で相手を叩き伏せながら、「みんな、応援ありがとう!」と観客にアピールする、まさにこの大会の申し子のような選手だった。
「あなた強いんでしょ? でも、あたしのパワフル&スマイルには敵わないわよ!」
ベルは、笑顔で拳を突き合わせてくる。……腹が立つ笑顔だ。
試合開始。ベルは、笑顔のまま、猛烈なラッシュを仕掛けてきた。パワーはゴルドー並みか、それ以上。しかも、動きが読みにくい。笑顔に惑わされるな。
俺は、ベルの猛攻を捌きながら、思考を巡らせた。ジン爺さんの言葉。「柔よく剛を制す」「流れと機を見る」「合理的な動きの中の華麗さ」。
俺のMMAは、元々、無駄を削ぎ落とし、効率性を追求した動きだ。それは、ある意味で「機能美」と言えるのではないか? 媚びる必要はない。派手なパフォーマンスも不要だ。ただ、俺の技術の粋を、最も美しい形で表現すればいい。
俺の中で、何かが吹っ切れた。
俺は、ベルの剛腕を受け流し、その力を利用して体勢を崩す。舞うようなステップで相手の死角に回り込み、流れるような動作でバックを取り、チョークスリーパーへ。
あるいは、相手の突進に合わせて身を沈め、華麗な足払いで転倒させ、一瞬で関節技を極める。
打撃も、力任せではなく、相手の急所を的確に、最小限の動きで打ち抜く。その一連の動きは、まるで洗練された舞踏のようだった。
ベルは、俺の変貌ぶりに完全に翻弄され、抵抗する間もなくタップアウトした。最後まで笑顔だったが、その目は完全に死んでいた。
決着の瞬間、アリーナは、これまでにない大歓声に包まれた。
「す、すごい……!」
「なんて美しいんだ……!」
「あれこそ、真の戦いの華だ!」
観客は、俺が見せた「アステラルダ流の華麗なるMMA」に、完全に魅了されていた。
もちろん、採点結果も、文句なしの最高得点。俺は、不本意ながらも、「華麗なる闘花祭」の優勝者となった。
優勝セレモニーで、美しい巫女(聖女代理?)から『エルフの涙』を受け取る。俺はそれを無言で受け取り、さっさとリングを降りようとした。
「「「アステラルダ様ー!!!」」」
仲間たちが、感涙にむせびながら(主にエリアとシルフィとカイとゴルドー)駆け寄ってくる。
「最高でしたわ!」
「美しすぎます!」
「姐さん、惚れ直しやした!」
「俺、一生ついていきます!」
「あの動き、データ取れたよ!」
「うむ、見事じゃった」
「へへっ、これで賞金もゲットだぜ!」
俺は、彼らの(相変わらず自分勝手な)称賛の嵐に包まれながら、思った。
……疲れた。早く宿に帰って、この変な服を脱いで、ストレッチしたい。
俺の異世界での日常は、どうやら、これからも俺の意に反して、華やかで(?)、騒がしいものになりそうだ。まあ、それも悪くないのかもしれないが。俺は、仲間たちに揉みくちゃにされながら、遠い目をするしかなかった。
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