第26話:拳聖祭への誘い

「拳聖祭……? なんだそりゃ、爺さん?」


 カイが、隣にいたジンに尋ねる。


「おお、拳聖祭を知らんのか? 若いの」


 ジンは、少し驚いたようにカイを見た。


「拳聖祭は、この拳王都で年に一度開かれる、大陸最大級の武術大会じゃよ。大陸中のありとあらゆる流派の武術家が集い、己の技と力を競い合い、その頂点、『拳聖』の称号を目指す、まさに武の祭典じゃ」


「へぇー! 大陸最大級の武術大会!」


 カイの目が、さらに輝きを増す。ゴルドーも「面白そうだ!」と身を乗り出している。


「優勝者には、莫大な賞金と、そして何より『拳聖』の栄誉ある称号が与えられる。多くの武術家にとって、それは生涯の目標となるもんじゃよ」


 ジンは、懐かしむように説明した。


 (……武術大会。賞金。『拳聖』の称号……)


 俺の中で、カチリとスイッチが入る音がした。

 これほど、今の俺にとって都合の良いイベントはない。

 強者たちが集まる。腕試しができる。そして、勝てば金と名声(別にいらないが)が手に入る。


「……俺も出る」


 俺は、短く、しかしはっきりと宣言した。


「「「「「ええっ!?」」」」」

 俺以外の仲間たちの声が、綺麗にハモった。


「姐さん!? 本気でやすか!? 大陸最大級って……とんでもない猛者がゴロゴロしてるんでやすよ!?」


 ゴルドーが、慌てて俺を止めようとする。

「……アステラルダ様、確かにあなたの実力は常軌を逸していますが、この大会は危険すぎます。素性の知れない相手も多いはず……」


 エリアも、珍しく心配そうな表情で進言する。


「うむ。アステラルダ様の御身に何かあっては……」


 ゼノンも同意する。


「えー! アステラルダが出るの!? 面白そう! いろんな戦い方が見れるね!」


 ……ルルナは、いつも通りだ。


「おいおい、待てよ、アステラルダ!」


 カイが、俺の前に立ちはだかった。


「あんたが出るってんなら、俺だって黙って見てるわけにはいかねえ! 俺も出るぜ! そして、今度こそ、あんたに勝つ!」


 彼は、対抗心を燃やして、高らかに参加を宣言した。


「ほっほっ。若い者は元気があって良いのう」


 ジン爺さんは、そんな俺たちの様子を、面白そうに眺めている。


「……好きにしろ」


 俺は、仲間たちの心配も、カイの対抗心も、意に介さず、参加登録所へと歩き出した。

 決めたことだ。誰が何と言おうと、俺はこの拳聖祭に出る。


 そして、頂点に立つ。

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