第6部:山嶺の達人と集う拳
第20話:武の都へと続く道
剣術都市ケンザンを後にした俺たち、アステラルダ一行は、新たな目的地「拳王都」を目指し、険しい山岳地帯を旅していた。拳王都は、その名の通り、大陸中のあらゆる武術家――拳法、柔術、体術など、武器に頼らぬ「拳」の道を極めんとする者たちが集う、武術の総本山とも言える場所らしい。剣術とは異なる、純粋な肉弾戦の強者たち。今の俺にとって、これほど興味を惹かれる場所はない。
道中は、相変わらず騒がしかったが、以前とは少しだけ変化もあった。
「アステラルダ! 今日の稽古は、あの時の関節技について教えてくれよ!」
カイが、師匠(と俺は認めていないぞ!)に教えを請う弟子の顔で、しつこく俺に付きまとう。
「馴れ馴れしいですよ。アステラルダ様はあなただけの師匠ではありません」
エリアが、冷たい視線でカイを牽制する。
「なんだと!? 俺は純粋に強さを求めてるだけだ!」
「……その目が純粋ではないと言っているのです」
火花を散らす二人。
「まあまあ、二人とも。姐さんの前で喧嘩はよしなせぇ」
ゴルドーが仲裁に入るが、大抵は火に油を注ぐ。
「ねーねー、アステラルダの筋肉って、どうやったらそんなにしなやかに動くの? やっぱり、食事とかも関係ある?」
ルルナは、そんな喧騒もお構いなしに、俺の身体(主に脚)を興味津々で観察している。
ゼノンは、そんな仲間たちの様子を(主に俺への忠誠心から)守るように立ちつつ、時折、カイの剣の型や、ルルナが操る精霊の動きを真剣な目で見ている。彼もまた、己の「守り」を深化させるためのヒントを探しているのかもしれない。
俺は、そんな彼らのやり取りをBGMのように聞き流しながら、黙々と歩き、時折立ち止まっては身体を動かしていた。険しい山道は、それ自体が良いトレーニングになる。空気も澄んでいて、精神統一にも適している。右拳の痛みも、だいぶ引いてきた。まだ全力では使えないが、日常生活や軽い打撃なら問題ないレベルだ。
「それにしても、拳王都ってのは、どんな場所なんでしょうね?」
セレスがいない今(彼女は別の調査があるとかで、一時的に別行動を取っている)、パーティの知恵袋役は不在だ。
「なんでも、武術家たちが常に腕比べをしてる、血の気の多い場所だって話だぜ」
ゴルドーが答える。
「面白そうじゃないか!」
カイが目を輝かせる。
「……危険も多いということですね」
エリアが冷静に付け加える。
「うむ……」
ゼノンが頷く。
「へー、強い人がいっぱいいるんだー。データの取りがいがありそう!」
ルルナは嬉しそうだ。
(……強い奴がいるなら、それでいい)
俺は、ただそれだけを考えていた。
そんな時だった。
俺たちは、山道から少し外れた、滝が流れ落ちる開けた場所に出た。
そして、その滝壺の近くの岩の上で、一人の老人が、目を閉じ、静かに瞑想している姿を見つけたのだ。
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