第37話

「説明させて欲しいですわ。北への出兵、そして北の辺境の立て直しでお金が必要ですわ。なので、ルナには1日に何回も女神様に祈りを捧げる事で教会のお布施を貰って王政の資金にしたいのですわ」


 無実確定だけどそれは言わずに何回転も礼拝を回してお金を集める、か。


 ならば。

 クエスはゲームでアイテムストック係だった。

 俺は修行で多くのドロップ品を蓄えている。

 それを吐き出した。


「そ、これは、凄い数のドロップ品!」

「クエス、これをくれるの?」

「きゅきゅう(その通りです)」

「その通りですと言っています」


「ありがたくいただきますわ。ですがルナをお目当てに教会に通うお金も得たいですわ」


 お金は出来るだけ必要か。

 ただでさえ兵の出兵で金を使っている。


 ようやく取り戻した北の辺境、でもその状態がかなり悪いんだろうな。

 ルナの記憶では街から少しずつ人が減っていた。

 食料も少ないんだろうな。

 せっかく取り戻した北の辺境が重荷になっている。

 

「わ、私に、協力出来る事なら、やらせてください」

「ルナ、顔が真っ赤よ、大丈夫?」

「はい、でも、クエス様も、一緒にいて欲しいです」


「きゅきゅう(任せてくれ)」

「ああ、ありがとうございます」

「王都の民に聞き込みをしましたわ。ルナが昨日下着姿で淫紋が無い事を証明してからその噂で持ち切りですわ。そして王都の民はルナに同情する者が多く、特に男性から人気がありますわ」


 ルナの無実を証明するあの時。

 ルナが雪が降る中で急に下着姿になってへそ下を見せた。

 その後女神に祈りを捧げた。


 刺激の少ないこの世界の人にとってはかなり衝撃的だろう。

 全部、俺の案なんだけどさ。


 日本と比べて刺激の少ない異世界ではアイドルを応援するファンがすぐに出来る……

 ん?

 アイドル……日本のアイドルの仕組み、それを使えばいいじゃん。


「クエス目当ての礼拝者もいるわ。何とかうまく活用したいわね」

「きゅきゅう(任せてください)」

「任せてくださいと言っています」


「きゅきゅう! (俺には人類の叡智が蓄積されているんだ!)」

「私には人類の叡智が蓄積されていますと言っています」

「クエス、詳しく聞かせて欲しいですわ」


 俺は人類の叡智を伝えた。



 ◇



「す、凄いですわ。よくそこまでの案が出てきますわね」

「クエスは頭がいいわね、よしよし」

「私に、出来るでしょうか?」


「きゅきゅう! (諦めんなって! 前に行けるって! まだまだ進めるって! 熱くなれよ!)」

「は、はい!」


「もう、クエス、急に怒らないで、びっくりするわ」


 そう言ってエリスが俺をなでなでする。


「宣伝と人材の配置、時間との戦いですわね」

「そうね、やってみましょう」


「あの、クエス様、私は何をすれば……」

「きゅきゅう! (特訓だ! 俺の事はプロデューサーと呼んでくれ!)」

「ぷろでゅうさあ?」


「きゅきゅう (あ、クエスPでいいや)」

「クエスぴい、よろしくお願いします」

「きゅきゅう(俺の指導は厳しいぞ)」

「はい! クエスぴい!」


 ノワール・エリス・プリムラも呼んで更に兵士まで巻き込んだプロジェクトが動き出した。



 ◇



 俺とルナは教会の中から外を見た。

 そこそこ人が集まってきた。


「ルナさんを応援するために入場料を払ってください!」


 兵士がお客さんを呼び込む。

 入場料は1人日本円の価値にして1000円程度、1日に複数回入場料を取るとして入場料だけでは収入に限りがある。

 だが秘策がある。


「ルナさんを助ける為に入場料を払って教会に入った上で『ルナ無実券』の販売を行っております! 無実のルナさんを助ける為どうか入場してご購入をお願いします! なお『ルナ無実券』はお一人でいくらでも購入可能です!」


 ルナ無実券は1枚日本円にして3000円。

 ルナのファンが増えれば購入者も増えるだろう。

 アイドル選挙権のようなものだ!


「礼拝の後はルナ握手券と聖獣クエスの浄化券も販売しております! こちらは1人1入場ごとに各1枚の販売となっております!」


 ルナ握手券も1枚日本円にして3000円だ。

 俺の浄化は期待していないがルナの魅力に賭ける!


 ちなみに券に人が殺到すれば価格を釣り上げる。


「た、たくさん入場券が売れています!」

「きゅきゅう(問題はここからだ)」


 入場料を払った中年の男が教会に入ると兵士が券を売り込む。


「ルナ無実券の購入をよろしくお願いします!」

「まだ、ルナは無実になっていないのか?」

「はい、まだ無実は決まっていません。このルナ無実券の総額が王政の判断材料になります」


「うむ、3つ貰おう」

「ありがとうございます!」


 その後ろから30歳くらいに見える男が入って来る。

 周りにいた入場者はその様子を伺う。


「俺はルナ無実券を20枚を購入する!」

「ありがとうございます!」


「な、なん、だと!」

「くっくっく、俺は裏技を聞いたんだぜ! このルナ無実券を手にもって振る! こういう風になあああ!」


 男がルナ無実券を持ってうちわのように振った。


「そうすることでルナちゃんが俺を見る! 俺がルナちゃんを助けている事が伝わるって事さ! 更に、次も、その次もこのルナ無実券を持って応援に行く! そうすればルナちゃんは俺を見る!」

「な! そんな! 技があったのか!」


「これは金の殴り合い、戦いはもう始まっているんだ!」


 様子を見ていた男がルナ無実券に殺到した。


「俺は10枚!」

「俺は30枚買う!」

「俺も買うぞ!」

「な! 俺は30枚追加だ!」


「クエスぴい」

「きゅきゅう? (なにかね?)」

「皆を騙す事に」

「きゅきゅう! (なってないって! まだ無実は決まってはいないから!)」


「ですがクエスぴい、実質無罪と」

「きゅきゅう (ルナ握手券の販売は思ったより伸びないか。わずか5セットの販売、それよりもルナ、アイドルとして集中しなさい!)」

「は、はい! クエスぴい!」


 俺は話を逸らした。

 みんなが礼拝席に座る。

 ルナが集まった皆を見つめる。


「きゅきゅう (今日はお集りいただきありがとうございました)」

「今日はお集りいただきありがとうございました」


 ルナが礼をする。


「きゅきゅう(もっと頭を下げて、あ、胸元が隠れない程度にな)」


「きゅきゅう(頭を上げたら笑顔、ずっと笑顔だ、子供に向ける笑顔を維持だ)」


 ルナが子供に向ける笑顔をみんなに向ける。


「きゅきゅう(ルナ無実券を買ってくださった皆様)」

「ルナ無実券を買ってくださった皆様」


「きゅきゅう(本当にほんっとうにありがとうございます)」

「本当にほんとうにありがとうございます」


 言い方が丁寧すぎるがまあいい。

 ルナはルナ無実券を買って手で振るみんなに「ありがとうございます」と言いながら何度も頭を下げた。


「きゅきゅう(それでは、礼拝を始めます)」


 ルナが前を向いて両膝を床に付ける。

 ローブは引っ張られてパンツラインが浮き出ている。

 ルナが恥ずかしそうに少し後ろを向いて両手でお尻を隠した。


 恥じらいは才能だ、良い部分は指摘をせず伸ばす!

 プロデューサーとして!

 男性陣から応援の声があがる。


「ルナちゃん! 恥ずかしくないよ! これは聖なる行いなんだ!」

「頑張って、緊張しないでしっかり礼拝をしよう!」

「僕はルナの味方だよ!」


「しっかり手を組んで! ルナちゃんなら出来るよ!」

「ルナあああ! 応援してるよ!」


 ルナが顔を真っ赤にしながら両手を組んで女神に祈った。

 俺は白き叡智なる手でルナを包み込む。

 部屋は暗めにしてある。

 その上で俺は白き叡智なる手から様々な属性色の光でルナにスポットライトのごとく目立たせる。


「なんと、幻想のような神々しい光だ!」

「きれいだ!」

「ルナちゃんはまるで女神のようだ」


「お、おい、パンツが、透けて少し見えてね?」

「い、いや、気のせいだろう」

「神聖な祈りの邪魔はやめろ、今何も言うなよ、紳士は駄目って見ろ、それだけだ。はあ、はあ」


 ルナが思わず手でお尻を隠す。


「ルナちゃん! 頑張って!」

「恥ずかしくない! 恥ずかしくないから!」

「祈りを続けて!」


「はあ、はあ、これが、恋か」

「なんだろう、ルナちゃんをほおっておけない! 守りたい気持ちになってくる!」

「ルナちゅわあああん!」


 ルナは無事祈りを終えた。


「ありがとうございました!」


 みんなが拍手をする。

 そして兵士が進行する。


「最後に、ルナさんの握手会を開催します!」

「ルナ握手券を買った5名の方は前にどうぞ!」


 みんながその様子を見守る。


「ただ、握手をするだけか」

「これ、意味あるのか?」

「よっぽどルナちゃんが好きじゃない限り意味は無いだろう、だが見学はする」


 20代ほどの男性がルナの前に立つ。

 ルナのサイドに立った兵士が握手券を破いた。


「はい、両手を前に出してください」


 男性が兵士に言われるがまま手を出した。

 ルナが男性の手に胸を寄せて胸の近くで手を優しく包み込むように握る。

 その手は胸に当たるかどうかまで接近する。


 ルナは笑顔で男性を見つめる。


「来てくれてありがとうございます。初めての握手で緊張します」

「僕も、です。はあ、はあ」


 男性の手はルナの胸、そのローブに触れるか触れないかの距離を保つ。

 ルナが男性に視線を合わせて上目遣いで男性を見つめる。

 笑顔のまま男性の瞳を見つめる。

 その距離が近い。

 男性の目がルナの胸元を見てすぐに目を逸らした。


「緊張、します、はあ、はあ、はあ、はあ」


 男性は顔を真っ赤にして視線を迷わせた。


「はい終わりです! 離れてください! お疲れ様でした!」


 そしてもっとこうしていたいと思うような時間で引き離す。


「次の方どうぞ!」


 見ていた男性が一斉に叫んだ。


「「こういう事か!!」」


 勝った。

 ルナ握手券を買わなかった者が悔しそうに残る4人の握手を見つめる。


 握手が終わると最初に握手をした男性に人が集まっている。


「お、おい、どうだったんだ?」

「凄く、胸がドキドキして、ルナさんの胸に、その、胸のローブに、手が、当たりそうに、いえ、少し布に、手が当たりました」

「チャンスあるぞ!」

「そういうからくりのアレか!」


「それと、ルナさんの吐息が、手にかかって、それもドキドキしました」

「吐息だと、ごくり!」


「あと、ルナさんの背が僕より低くて、上目遣いの笑顔が凄く、か、可愛かった、です。でも顔の下にルナさんの胸元が見えて、淫らな事はしていないはずなのに、礼拝の祈りではルナさんの後ろしか見えないのに、ルナさんの向かい合う姿が見えて、顔を見つめようとすると胸を見てしまいそうで、それとルナさんを近くで見ると、ルナさんが掻いた汗で少し、ローブが透けるように見えて、恥ずかしくなりました。言葉が、想いが溢れてうまく、言葉に出来ません」


 あの男性、いいね。

 うまく言葉がまとまらないからこそ、そのドキドキが皆に伝わった。

 これが握手会だ!


「はあ、はあ、次も並んで、握手券買うわ」

「ああ、今が、気づいた今が一番早い時だ!」


「きゅきゅう? (ルナ、感想はどうかね?)」

「うまく言えませんけど、心が、温かくなったような、気がします」


「きゅきゅう(狙い通りだね)」

「え?」


「きゅきゅう(ルナ、君は死亡率が高い北の辺境にいた。生きるか死ぬかの状態で人は心の余裕が無くなり荒廃する。あの地は愛を貰える環境では無かった。ルナはただただみんなに与え続けて心がボロボロになった。だがルナ、この王都には君を助けようとしてくれる人もいるのだよ)」

「クエス様、そこまでの事を考えて!」


「きゅきゅう(今はクエスPと呼びなさい)」

「クエスぴい、ありがとうございます!」


「きゅきゅう(だがアイドル道、その道は険しい。君は祈り系アイドルとしてまだ高みを目指す必要がある)」

「クエスぴい、ついていきます!」


「きゅきゅう(うむ、握手の際はギリギリローブが相手の手にカスる程度の匙加減で、しかもアクシデントで当たった感でわずかに当てるのだ。ドキドキ感は大事だ)」

「は、はい」


「きゅきゅう(それと握手の際に胸元への視線は開けるのだ。握手の手で胸元を隠してはいけないよ)」

「は、はい!」


「きゅきゅう(衣装も新しく用意する必要がある。もっとドキドキ感を高めた物がいいだろう)」

「えええええええ! あれ以上は無理ですよぉ!」


 俺はルナと特訓をした。

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