第12話

 エリスの横にいた兵士が弓を構えた。


「放て!」


 屋上から放たれた矢の雨。

 そのすべてがエリスの重力魔法で加速しながらネズミの魔獣に降り注ぐ。

 重力魔法で矢の威力が大幅に上がっている。

 ネズミの魔獣は槍を構えて攻撃を防ごうとする。

 槍じゃ無理だろ。


「「チュウウウウウウウウウウウウウウ!」」


「グラビテプレス!」


 そしてエリスが2回目の攻撃魔法を使い兵士が更なる矢の雨を降らせた。

 ネズミの魔獣、その半分ほどがドロップアイテムの魔石に変わった。

 そして学園と拠点の中から兵士と学園生が走って出てくる。


「まさか、襲撃の準備をしていたでやんすか!」

「きゅきゅう(その通りだ!)」


 魔獣は俺の言葉が分かる。


「く、こざかしい聖獣でやんす、しかし、その力はまだまだ弱いでやんす! ついでに倒すでやんすよ!」


「きゅきゅう! (白き叡智なる手!)」


 白き叡智なる手、その6本すべてがうねうねと蠢く。


「その触手の数は! さっきは手加減していたでやんすね!」

「きゅきゅう(光の手だって)」

「どう見ても触手でやんす」

「きゅきゅう(あれか、魔獣だからそういう風にしか物事を見る事ができないんだな。これ神聖なる光魔法、叡智なる魔法の力だから)」


「どう見てもエロ触手、チュウウウウウウウウウウウウウウウ!」


 光の手を鞭のように何度も何度も打ち据えてネズミの魔獣を1体倒した。

 白き叡智なる手、俺のメイン攻撃でも攻撃力が足りないか。

 連撃を叩きこまなければネズミの魔獣すら倒せないようだ。

 ネズミの魔獣は単体では一番弱い。

 他の魔獣と戦うなら倒すまでもっと時間がかかるだろう。


 ラムザはネズミの魔獣が槍を突き出す。

 その攻撃を左腕のガントレットでいなした。

 下がろうとするネズミの魔獣にすかさず魔法弾を撃って怯んだ隙に剣で倒す。


 プリムラはナイフでネズミの魔獣を斬りつけて倒す。


 そしてノワールは突き出された槍を腕でいなして回し蹴りを叩きこんだ。

 服がひらりと舞い上がり黒いパンツが見える。

 そして踵落とし、ハイキックとパンツの見える蹴りを連打してネズミの魔獣を倒した。

 更にノワールは隙を見て傷を受けた兵士を魔法で治療する。


「まずいでやんす!」

「ここは逃げるでやんすよ!」

「あっしらは1体でも残ればまた数を取り戻せるでやんす!」


 6体残ったネズミの魔獣が包囲の隙間から逃げ出そうとしている。

 みんながネズミの魔獣を追って走る。

 俺も魔獣を追いかける。


「きゅきゅう! (待て! お前らはみんな倒されないといけないんだ! そうしなきゃダメなんだって! 待てよおおおおおお!)」

「く、あいつの言葉、聖獣とは思えない汚い言葉でやんす!」


「きゅきゅう! (はあ!? はあ!? 俺聖獣じゃん! 止まれよごらあああああ!)」

「触手でバウンドしながらものすごい勢いで追いかけてくるでやんすううううう! まるで邪神様並みの怖さでやんす!」


「きゅきゅう! (邪神だと! お前言って良い事と悪い事があるだろ! 邪神と一緒にすんな! 取り消せよ! そして死ね! お前らは離れて存在する事ができない、その弱点は分かってるんだよ!)」


 ネズミの魔獣は離れすぎると分身体が消える。

 だから攻める時は全員で攻めて逃げる時も一斉に逃げる。


「あ、脚に触手が巻き付いたでやんす!」


 ネズミの魔獣1体、その足に光の手を巻きつけ引き寄せた。

 俺は接近して白き叡智なる手を鞭のように振るう。


「きゅきゅう! (おらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらあああああ!)」

「チュウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ! 情け容赦のない触手攻撃、まさに、邪神様のようなじゃあ、く、さ、ガクリ」


 ネズミの魔獣が1体ドロップアイテムに変わった。

 残り5体!


「きゅきゅう! (次はお前だ! 無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄あああああああああああ!)」

「チュウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ! 聖獣から、よこしまな、あっしらと同じ心を、感じる、でやんす、ガクリ」


 ネズミの魔獣が1体ドロップアイテムに変わった。

 残り4体!


 更にネズミの魔獣を追う。

 ネズミの魔獣が4方向に分かれて逃げる。


「きゅきゅう! (な、離れて逃げている! 分身体が消えるリスクを取ったのか!)」

「途中から散開して逃げるとはずる賢い奴らだ!」

「追え! 追ええええ!」


 兵士も叫ぶ。


 俺は1体に標的を白き叡智なる手で拘束した。


「チ! チュウウウウウウ! 離すでやんすうううう!」

「きゅきゅう! (お前らは生きてちゃいけないんだ! 死ななきゃダメなんだ! 存在しちゃいけないんだよクズ野郎が! この鞭で死ね! すぐ死ね!)」

「チュウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ!」


 ネズミの魔獣がドロップアイテムに変わった。

 残り3体が散開して離れていく。

 森に入った!


 

 くそ、逃がしたのか!

 あいつは1体たりとも逃がしてはいけなかった。

 また力を取り戻して攻めてくるに決まっている!

 

「きゅきゅう! (どこに行った! 出てこい卑怯者が! ぶっ殺してやんよ!)」


 俺は暗くなるまで森を走り回った。



 ◇



 くそ、逃したか。

 拠点に帰るとみんなが出迎える。


「クエス、心配したんだよ。お帰り」

「きゅきゅう(出迎えは美少女か美女限定だ)」


 俺は近づくラムザを避けた。

 そしてエリスの胸に飛び込む。

 胸元に顔をすりすりする。


「クエス、お帰り、ラムザよりも私に懐いているわね」


 エリスが嬉しそうに言った。

 

「あら、わたくしも懐かれていますわ。時間があればもっと仲良くなれますわよね?」


 ノワールが俺の体を撫でる。


「ダメよ、クエスは私の白いナイトなんだから」

「白いナイト、確かに、今日のクエスは一段と凛々しかったですわ。いつもは甘えん坊なのに」

「……」


 プリムラは俺を冷たい目で見つめていた。


 兵士も俺を褒め讃える。


「さすが聖獣です、あの猛々しさにはもはや畏怖の念すら感じました」

「聖獣は魔獣を絶対に許さない、その心を感じました。私もそうでありたいと思っております」

「闇の魔獣には聖なる光の手がとても効果的なようです。クエスは我らよりもナイトにふさわしい」


「ですが、おかしいですわ」

「ノワール、どうしたの?」

「ええ、兵士の援軍がありませんでしたわ。合図は送ったはずですのに」


 そこに兵士の男が帰ってきた。


「報告します。今日、王城に牛の魔獣が現れ戦闘になり、無事撃退したとの事です」

「納得しましたわ。牛の魔獣が城を攻める、しかしそれは陽動。その隙にネズミの魔獣でエリスを奪う計画でしたのね。なんとも悪だくみの上手い事ですわ」


「しかもエリスは命を狙われる危険もあるよ」

「ええ、攫われるよりそっちの方が厄介、エリスの魂を手に入れられた後魔獣に潜伏されれば手掛かりが無くなりますわ。エリス、夏休みはお家に帰れませんわね。お父様から王都の外に出ないよう王命が下るはずですわ」


 ノワールの持っていき方がうまい。

 エリスの父、その話題は一切出さずにエリスが夏休みに実家に帰らない流れを自然と作り上げた。

 状況も良かったけどそれをすぐに利用している。

 ノワールは頭がいいのだ。


「ええ、でも大丈夫よ。私には可愛くて白いナイトがいるもの。ねえ、クエス」

「きゅう(その通りです)」


 俺はエリスの胸を見ながらコクリと頷いた。


「あらあら、わたくしは守って下さいませんの?」

「きゅきゅう(ノワールも守ります)」


 俺はノワールの胸を見ながらコクリと頷いた。


「僕も一緒に守るよ」


 ラムザが俺に手を伸ばした。

 その瞬間に俺は雷撃を発生させる。


「あがががががががががが!」

「きゅきゅう! (エリスに近づくな!)」


「ふふふ、これは何となくクエスの言いたい事が分かりましたわ。女性の胸に手を近づけるのは感心できませんわね」

「そ、そんな、ただクエスを撫でようとしただけなのに」


「クエスはラムザにも紳士なナイトになって欲しいのですわ」

「クエス、そうなの?」

「きゅきゅう(その通りです、てかエリスに触んな、まじで触んなよ)」


 俺はコクリと頷いた。

 お前主人公だろ、とっとと強くなって魔獣も邪神も倒してこい!

 まだ強さが足りないんだよ。

 もっと頑張れ。

 俺がこうしている間にサクサククエストを進めてくれ。


 俺はエリスや他のヒロインに可愛がってもらう。

 ラムザは英雄になれよ。


「クエス、今日はお疲れ様ね、大好きなお風呂に入りましょう」

「わたくしも入りますわ」

「お供します」

「きゅきゅう(行く行くー)」

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