第4話 魔法

 薄暗い拘置所の中で木製の長椅子に座り、向かいの石壁をじっと見つめる。木材の湿った臭いにも、とっくに鼻が慣れている。たまに響く足音に何度期待しただろうか。

(あぁ、お肉全部食べてくるんだった・・・)

「ったく、さっさと認めてくれれば見張りなんてしなくても良かったんだがな」

「本当ですよ。余計な仕事を増やしやがって」

 格子戸の向こうに居る兵士二人が聞こえる声でぼやく。資格者証の確認に五時間も待たされているのだから気持ちは分からなくもない。ただ、今回は兵士側の知識不足であって、レンの不手際では無い。

 レンも呆れているのか、反応もせずじっと壁の染みを数えている。


 そうだ、ここで魔法について詳しく説明しようと思う。どうせ登録の確認にもまだ時間がかかるだろう。


 この世界の魔法には、八種の単一魔法と十二種の複合魔法がある。

 単一魔法は、火・水・土・風の四元素しげんそ魔法と、聖・闇・空間・時間の四元祖しがんそ魔法がある。

 四元素魔法はそのままで、魔力をそれぞれの元素エレメントに変換し行使する。

 四元祖魔法は、それぞれに準ずる能力に変換される。

 詳しくは、

 ・神聖魔法・・・状態異常回復。解呪、解毒。体力、魔力の回復促進。

 ・闇黒あんこく魔法・・・状態異常付与。呪詛。魔力吸収。

 ・空間魔法・・・亜空間収納。探知。隠密。転移。

 ・時間魔法・・・風化、促進。活性化、不活化。

 である。


 複合魔法は、

 ・火水で幻影

 ・火土で溶岩

 ・火風で雷

 ・水土で植物

 ・水風で氷

 ・土風で砂塵


 ・聖闇で契約

 ・聖空で結界

 ・聖時で治癒

 ・闇空で召喚

 ・闇時で蘇生

 ・空時で強化

 となる。

 

 四元素魔法と四元祖魔法は複合できない。また、三つ以上の元素や元祖を使用した複合魔法も存在しない。というか生成できない。その理由には、人体の右胸にある魔力脳という臓器が関係しているのだが、詳しくはまたの機会に話そうと思う。


 人族には必ず全ての単一魔法に適正があり、その中で得意な魔法を極めていく。長くなったが、以上が魔法の説明である。

 因みにレンは全ての魔法を使える様に訓練しているが、最も得意なのは治癒魔法だ。


 ふと食欲をそそる匂いに意識が戻される。

 見張りが部下に軽食を頼んでいたみたいだ。

「お、ウォーブルの串肉ですか。あいつ分かってますね」

「ああ。クロスルースターの肉もあるぜ」

「本当ですか。あのとりも美味いんだよなぁ」

 遠慮なく肉を頬張る二人の横顔を見ているレンからは、どことなくやるせなさが垣間見える。

「なあ、何しに王都に来たんだよ」

 美味しく食べ終わったのか、先輩兵士が話しかけてくる。

「医療協会に新設される部隊の入隊試験を受けに来たんです」

「医療協会の新部隊って確か、あらゆる災害に特化した救命部隊、通称『ディアン・ケヒト』。救命活動は勿論のこと、高い戦闘能力も併せ持つ部隊にする予定だとか。それの入隊試験なのか?」

 少し食い気味に聞いてくる。

「どんな部隊か詳しくは知らないんですけど、災害現場で沢山の命を助ける為の部隊だって聞いてます」

「何ですかそれ。初めて聞きましたよ。本当なんですか?」

 思考停止している先輩兵士に後輩兵士が質問する。

「いや、俺も上官から軽く聞いた程度なんだが、王国陸軍の一部にも入隊試験の声が掛かっているらしく、信憑性の高い話なんだ。それに、軍の中でも知らない人が多い話を、今日王都に来た一般人こいつが偶然耳にしたとは考えにくい」

「じゃあ・・・」

「ああ、・・・」

「ん?」

 二人の中で結論が出たのだろうか、先輩兵士は俯き、後輩兵士は口を開けレンをじっと見ている。レンはよく分かっていなさそうだ。

 暫しの間、三人の息遣いだけが空間を支配していた。


 ― ガシャン! ―


 勢いよく鉄の扉を開ける音が響き、三人とも元の世界に戻される。

「ジルベール兵士長、お待たせ致しました。先程の資格者登録の件ですが、レン・ウォルターの登録が確認できました。こちら資格者証です」

 登録の確認に行っていた兵士が戻ってきた。先輩兵士は兵士長だったのか。

「やはりか・・・。間違いないのか?」

「はい。医療協会会長直々の確認なので間違いないかと。それと、彼の言う通り資格者証にはエラルド加工が施されており、本人の魔力が流れると微かに光るそうです」

「会長だと!そうか・・・。わかった」

 落ち込んでいるのか、混乱しているのか、資格者証をじっと見つめている。

「それ、返して貰えますか?」

「え?あ、あぁ・・・」

 兵士長から資格者証を受け取る。

「僕、もう帰りますね。荷物を返して下さい」

 格子戸を開け、荷物を渡す兵士長はどこか上の空だ。

「あぁ、その・・・なんだ・・・」

「え?」

「すまなかった!先入観での判断、知識不足、国軍兵士としてあるまじき行為であった。貴重な時間を取らせてしまい申し訳ない」

 色々と目に余る部分はあったが、人としての道理はきちんと通すみたいだ。

「「すみませんでした!」」

 後輩兵士も揃って頭を下げた。良い先輩のもとに居るじゃないか。少し微笑ましく感じる。

「ふふっ、いいですよ。疑うのが仕事でしょうから。また会った時はよろしくお願いしますね」

「おっ、おう!」


 空と海の境がはっきりと見え始め、さっき迄吹いていた潮風はもう感じられない。

 随分と時間を無駄にしたが、当の本人はあまり気にしていないようだ。それどころか、人助けをして感謝された日の就寝前、の様な顔に見える。

(今の顔は誰にも見せられないかもな)

「何か嬉しい事でもありましたか?」

 突然の声に振り返る。

「失礼、私は医療協会会長のレイル・レピオスと申します」




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る