最終話 選択

 午後の陽射しが、戦闘演習場の赤土を黄金色に照らしていた。


 再編候補ユニットによる最終演習試験。

 その戦場の中心に、レイヴンたちアーディスユニットがいた。


 審査席には制度本部の高官たちがずらりと並び、彼らの一挙一動を見下ろしていた。

 この戦いが、家族としての“最後の評価”となる。試験の結果次第では、解体も現実となる。


 だがその中央で——

 レイヴンたちは、生き生きと動いていた。


 「ユウト、右から回り込め!」

 「了解! ノア、あれ、頼む!」


 ユウトが火炎の槍を構え、ノアが風を巻き上げる。

 風の揺らぎが空気を歪ませ、炎がその中に差し込むと、そこに陽炎のような“もう一人のユウト”が立ち現れた。


 それは敵の魔物の目にとって、確かに“存在している”幻影だった。

 惑わされた獣の視線がそちらに逸れた瞬間、本物のユウトが逆側から突き出した槍が、正確に脚部を穿つ。


 「ノア、完璧!」

 「……ふぅ……次、行きます」


 ノアは静かに、けれど確かに戦場を見つめていた。


 巨体の魔物が咆哮とともに暴れ出す。

 レイヴンは前へ出て、盾を構えた。


 「ユウト、距離取れ! ノアは左に下がれ!」


 即座に指示を飛ばしつつ、レイヴンはその巨体を迎え撃つように立ちふさがる。


 獣の巨腕が振り下ろされる。

 地面を揺らす轟音とともに、盾へ凄まじい衝撃がぶつかる。


 しかし、レイヴンは倒れなかった。


 「セレス、今だ!」


 「──っ、いまっ……!」


 セレスは肩で息をしながら、ふらつきそうな足を必死に踏みとどめて詠唱を続ける。

 仲間たちの流れに、必死に食らいついている。


 光が凝縮し、レイヴンの足元に魔法陣が展開される。

 支援魔法ライトリンクがその身を包み、衝撃を中和しながら防御力を引き上げる。


 「……まだ、やれる……!」


 そう自分に言い聞かせるように、セレスは短く息をついた。


 そこからの反撃は、迷いなき一撃だった。


 レイヴンの剣が魔物の肩を砕き、ユウトがその背後へ炎を叩き込む。

 ノアの幻術が再び魔物の視界を攪乱し、隙ができたところへセレスの光矢が直撃する。


 ——連携は、もはや言葉すら必要としなかった。


 攻撃、支援、防御。

 それぞれが互いの動きを信じ、預け、繋がっていた。


 (これが……俺たちの戦いだ)


 レイヴンは、仲間たちの姿を見渡す。


 かつて崩れかけた家族。

 すれ違い、傷つけ合い、諦めかけた時間。

 ——それでも、今こうして並んでいる。


 試験の合否は、まだわからない。

 再編命令が取り消される保証もない。


 けれど。


 評価も制度も、それを否定することはできない。


(自分たちは、この“家族”を選んだ)


 もしこの先、再編命令が下されるというのなら——

 そのときは、この制度そのものを捨て去ればいいだけのこと。


 レイヴンは小さく笑い、仲間たちへ声をかけた。


 「行くぞ、お前たち!」


 「おう!」「うん!」「了解です!」


 四つの声が、まっすぐに重なる。


 そして再び、彼らは戦場へ走り出す。


 陽炎の先にある未来へと、迷いなく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る