第6話 配属演習
朝の光が差し込む中、アクアベイル再生寮の訓練場には、複数の家族ユニットが集まっていた。
服装は統一された簡素な訓練着。風は涼しいが、空気は張り詰めている。
「本日から、各ユニットには基本魔力演習と役割適性訓練を受けていただきます」
丁寧な口調の教官がそう告げると、複数の係員が各ユニットを次々に分けていく。
「レイヴン・アーディスさんはこちらへ。今回は個別訓練です」
振り返れば、セレスは感情の共鳴測定装置の前に立ち、うっすらと目を伏せていた。
ユウトは基礎術式列で炎を飛ばす訓練に取り組み、笑ってはいたが眉間はわずかに険しい。
そして、ノアは誰よりも遠い場所——透明な風の幻影をまといながら、一人きりで動かずに立っていた。
(分かれて訓練か……)
何を思っているのか。それぞれの姿に気を留めながら、レイヴンは無言で案内された屋外演習場へと向かう。
待っていたのは、腕を組んだ屈強な男の教官だった。
「お前が、タンク候補の新入りか」
低く重い声が、朝の空気を切り裂く。年齢は40代後半、無精髭まじりの顎を動かしながら、男はじっとレイヴンを見据えた。
「家族ユニットにおいて“タンク”は、前線に立ち、仲間を守る盾となる。だがただの壁じゃない。魔力を抑制し、引き受け、時には受け流す……全体の流れを読む“軸”だ」
言葉のひとつひとつに、戦場で培われた重みがある。
レイヴンは頷いた。
わかっている、という顔ではなく、ただ誠実に、静かに。
「今日やるのは、“誘導術式”と“防御魔力の固定”だ。いいか、構える前に読め。耐えるより、逸らせ」
男の言葉は短く、だが的確だった。
最初の訓練は、魔力弾を模した球状のエネルギーを受け止めるというものだった。
レイヴンは深く息を吸い、腕を構え、魔力を集中させる。
だが——一発目。思ったより衝撃が強く、足がよろめいた。
「動くな!受ける覚悟が甘いと、全部仲間にいくぞ!」
苛立ちではない、実戦者の“警告”が響く。
レイヴンは再び足を固め、呼吸を整えた。
次の魔力球が飛来する——受け止める。
腕が痺れ、魔力が肌に針のように刺さる。それでも、崩れない。
(守る、か……)
その言葉が、胸に沈んでいく。
かつて守れなかったもの。手放してしまったもの。
今度はどうする?本当に守れるのか?
だが、この痛みは——確かに、自分が「今ここにいる」証だった。
訓練は続く。ひたすらに受け、読み、逸らす。
「悪くない。筋はいいが、覚悟が浅い。まだどこかで“他人事”だ」
男の言葉は厳しかったが、そこに諦めはなかった。
一方その頃。
別々の訓練場で、セレスは波長測定器の前で目を閉じ、呼吸を整えながら記憶魔法の応用に挑んでいた。
ユウトは何度も術式を失敗し、肩で息をしながらも笑顔を絶やさなかった。
ノアは風をまとったまま、動かず、ただ一点を見つめていた。
四人はまだ、誰ともつながっていない。
けれど——その日、確かにそれぞれが、“自分にできること”と向き合っていた。
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