第5話 名ばかりの家族
翌朝——。
レイヴンはキッチンに立ち、見慣れない調理器具を前に腕を組んでいた。
備え付けのパンと簡素なスープの材料。それをどうにか温めるだけの作業なのに、やけに気が重い。
(これも“父親役”の仕事ってやつか……?)
ふと、背後に気配を感じて振り返ると、ユウトが眠そうな目をこすりながらリビングに降りてきた。
「……おはようございます、レイヴンさん」
気まずさを隠すように、ユウトは無理に笑って声をかけてくる。
「ああ、おはよう」
ぎこちなく返しつつ、レイヴンは鍋に視線を戻した。
「手伝いますよ!」
ユウトが張り切って近づくが、何をしていいか分からずに立ち尽くす。
「いや……もうすぐできる」
そう答えたものの、本当にこれでいいのか自信はなかった。
そこへ、セレスが静かに現れる。
言葉少なにキッチンへ入り、手際よく皿を並べ、スプーンを揃え始めた。
「……ありがとう」
レイヴンが声をかけても、セレスは小さく頷くだけで、特に会話は続かない。
最後に、ノアが無言で現れ、まるで空気のように席についた。
「……いただきます」
誰ともなく呟かれたその言葉に、他の三人も曖昧に頷き、静かな朝食が始まった。
スプーンが皿を叩く音だけが響く。
誰も喋らず、視線を交わすこともない。
(これが、“家族の朝食”かよ……)
レイヴンは内心で苦笑した。
食後、ユウトがリビングの端に置かれた端末を見つける。
「……これ、ユニット端末ですよね」
画面には簡素な表示が浮かんでいた。
《アーディスユニット 初期リンク率:5%》
「低っ……まあ、こんなもんか」
ユウトが苦笑すると、セレスが淡々と説明を加える。
「リンク率は、ユニットの連携と感情の同期を数値化したもの。上昇しなければ“再編”対象になるわ」
その言葉に、ノアが少しだけ顔を伏せた。
レイヴンは数字を睨みつけながら、どうにも釈然としない気持ちを抱えていた。
(家族が……数字で評価される?)
沈黙が流れる中、レイヴンは意を決して口を開いた。
「……今日は、何か予定があるのか?」
ユウトは「さあ」と曖昧に笑い、セレスは「特には」とだけ答える。
ノアは席を立ち、そのまま自室へ消えた。
(動き出さない歯車みたいだ……)
レイヴンは、重たく感じる空気をどうにかしようと考えるが、どこから手をつけていいのか分からない。
窓の外では、朝の陽射しが眩しいほどに降り注いでいる。
その光とは対照的に、リビングの中は冷えたままだった。
「……家族ごっことは聞いていたが、これほど難しいとはな」
誰にともなく呟き、レイヴンはソファに深く腰を下ろした。
動き出さない歯車は、まだ静かにそこにあった。
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