第19話 私情警察5 ~中編~

「どうぞ、おかけください…尾崎さん」

「失礼……ぁぁ……」


初老男性の名まえは尾崎茂。被害者の父にあたる。

憔悴しきっているように見える。彼は無言で力なく腰掛けた。


「話しは聞いております…。娘さんの無念を晴らしてほしい…ですね?しかし、あの判決はおかしい。いくらなんでも5年は短いかと…」

「そうですね、裁判では正当防衛とか精神鑑定の結果で責任能力がないとか…ひどい内容でした。裁判の内容を昨日のことのように覚えていますよ…」

「ヤツは県知事になった途端、いろんな人脈ができ、そいつらが裏で動いた…。そんなところでしょうか?」


彼は静かにうなづいた。


「わたしも…真実を知るためにそうとう金を使いましたよ。すべてを知ることはできませんでしたが…。とうぜん警察に行っても信用されませんでした。違法な方法で情報収集をしたのだから…。でもある人に出会い、あなたのことを教えてくれました……」


(オレのもとにくるということは…元県知事様は反省の色がないということ)


「あいつは…反省なんかしていない!厄介者がいなくなったとしか思っていない!」


すべてを話すと尾崎さんは手をギュッと握りしめた。


「唯一の救いは…孫二人が元気に育っているということ。でも、その子たちにも消えないキズをつくって、学校でもイヤな思いをして…。でも当の本人はあいも変わらず女遊びを…している…!」

「あなたの事情は理解できました…」


だが…オレには必ず聞かなければならないことがある。


「尾崎さん。オレがすることは法に反することです。そしてあなたはその犯罪に加担するのと同義…。その意味がわかりますね…?」

「ええ…!娘と孫の無念と晴らせるなら…自分の命も差し出しましょう!」


その瞬間…尾崎さんの顔が豹変した。


「ホントなら自分でどうにかしたい!だが!体が思うように動かんのです!お願いします!たよれるのはもうあなたしかいない!!」


すべてを話し終えた尾崎さんは、オレに頭を下げてきた。


「わかりました…。あなたの無念…オレがはらしましょう……!」

「ありがとうございます。同時に歯がゆい…!娘の仇を人任せにする自分が……!」


外道が生み出す負の連鎖…。それによってうまれた無念。

覚悟するがいい…!元プロ野球選手……!

オレのターゲットになったのだ。おまえの人生はもう…9回ウラ2アウトだ!

もう少しで……ゲームセットだ!!



~~~



資料によると、今回の外道は街の中心にあるキャバクラにあらわれるようだ。

女好きだからキャバクラ…か。推理にすらなっていない。

昨今はキャバクラも経営が苦しいと聞くが…。

だからなのか、かえって探すのは楽だった。

オマケに有名人だ。目撃情報などいくらでもあった。


(ここか…って、フツーにいたな…まぁ、ラクでいい)


なにやら話し声が聞こえてくる……。


「ったく、あの女…清々したってんだ。結婚なんてするもんじゃねーな…」

「やだ~」

「ぎゃははははは!」

「じゃな!また来るからよぉ!!」


ヤツは一人で薄暗い路地に入っていった。オレは背後から忍びよる。


ツカ、ツカ、ツカ……


「よう、アホ。断罪の時間だ」

「あ?なんだテメェは…サインが欲しいのか?」

「…人殺しのサインなんているか……よ!」


ガッ!


オレは渾身のローキックを放つ!!


「…………がぁ! いってぇ!!」


アホはその場にヒザをついた。そして間髪入れずに顔面にケリを入れる。

毎回、毎回似たような会話のやり取り…もうウンザリだ。

外道は語彙力がなくてつまらん。

まぁ、語彙力があったところで、話す気はないが…。


(ちょっと、遊んでやるか……)


オレが大好きなマンガの必殺技…やってみるか!!


「ハ〇キュー拳! いくわよぉ! は~い!」


オレは外道の胸倉を上に投げ…左腕でとり、トスで上げ、そして


「ワン!ツー!アターーーーーーック!!」


高くジャンプして思いっきり、外道の顔を殴った。


「ぐはぁ!!」


外道は勢いよく吹っ飛んだ。

路地脇に積んであった木箱を盛大に壊し、動かなくなった。


「ぐ…ず……ぅ!つ…ぇえ……」


コツ……コツ………コツ………


静かに外道に歩み寄る…。

捕獲は短く!拷問は末永く!それがオレのモットーだ!!

こうして、ターゲットを捕獲したオレはいつもの場所に連れ込んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る