第17話 コロポの王国でした

『よウ、目を覚ましたカ?』

「————ッッッ!!!?」


 半開きの目に、体の痛みで目を覚ましたリュウコは、全身に広がる尋常ではない痛みに悲鳴を上げる。

 声にならない悲鳴をひとしきり上げると、体に魔力を巡らせた。


『いいネ。瀕死のゾーンだけじゃなイ。ちゃんとした知識として消化してるのカ。お前はセンスもいいらしイ。』


 妙にほめてくるガイドの事を無視して、全身の魔力の質を高めていく。


『『癒着』で細胞間を取り持つと同時ニ、『強化』と『麻酔』で新陳代謝を強制的に活発化させることの痛覚を無理やり抑え込ム。技術に知識を加えていル。素晴らしいナ』


 やはり、絶賛しているらしいガイドの声は聞こえない。

というより、『麻酔』でいくら痛みを和らげても、やはり痛いものは痛い。

 

「いぃいい痛いぃ。」

『アドレナリンに頼って無茶な戦いをしたからだナ。これからは回避も防御も常に全身全霊で行エ。』

「く、クソぉおお!!」


 珍しく口汚い罵声が飛び出たが、それでもそれ以上を口にできるほど余裕がない。

 癒着だとかでくっつく傷は多少マシになったが、貫通して細胞から何から消えている傷は治療に時間がかかっているし、体の全面に広がる重度の火傷は、常にリュウコの神経をすり減らすほどに痛い。


『苦しんでいる所悪いんだガ、次だゾ』

「……は?」


 その言葉に反射的に顔を上げたリュウコは見る。

先ほど気絶する前に戦ったコロポと同じような圧。真っ黒なコロポと真っ白なコロポ

 その二体は魔力量だけで言えば先ほどの四体と大差ないのだが、威圧感は低く見積もっても1.5倍はある。


『PPPPP♪』

『————♪』


『奴らは『Dコロポ』と『Sコロポ』。見ての通り【闇】と【光】のコロポ。魔法系の攻撃は基本的に効果が無いゾ。』

「う、そ、だろぉおおおおお!!?」


 絶叫が火傷に響くのすら気に留められないほど、強い圧力の絶望感がリュウコの全身を襲う。


 傷は完治していない。まともに扱えるのは両足と左腕だけ。火傷の激痛に耐えつつ、魔法以外の体術だけでネクロタクル並みの魔物と対峙する。


 そのことを完全に理解した瞬間。リュウコの体を覆った痛みが二段階ほど和らいだ。

 別に傷はそのまま、アドレナリンだとかエンドルフィンだとかが分泌されて、気にならなくなっているだけ。

 無茶をすれば後からそれが回ってくるのは間違いない。


「があああ!!破技・成敗鬼拳!!」


 その言葉の意味とかは知らない。とにかく思いついた言葉を叫びながら、『Dコロポ』に殴りかかる。

 空手で言うところの正拳突き。ただ、左の拳を引いて右の拳を突き出すだけ。それだけの動作を肉体の連携度に身を任せて叩きつける。


 それだけの動作で、『Dコロポ』の体は5メートルほど宙に浮かび上がる。

というより、殴り飛ばした。


「——連技・細断利刀」


 流れるようなコンボ。手刀の水平薙ぎで『Sコロポ』の横腹を殴る。

素手でのただの水平チョップでしかないのに、それでも『Sコロポ』の横腹には一本の裂傷が浮かび上がる。


『PUPUUUUU!!?』


 驚いたような声を上げる『Sコロポ』の悲鳴を聞きながら、そろそろ落ちてくる『Dコロポ』に視線を向ける。


『————』


 未だになんの鳴き声も上げない『Dコロポ』は、それでもリュウコに目を向けているのが肌感でよくわかる。目が合っている。

 それを理解したと同時に、『Dコロポ』は大きな口に魔力を込めて、リュウコの『魔力砲』のような照射を放つ。


『『Dコロポ』の『暗黒砲』だナ。【闇】属性であること以外は魔力砲と相違なイ。』


 ガイドの解説は、もはや誰に向けているのかも分からない。

しかし、それを受け止めるリュウコにとっては必要な情報だったのかもしれない。

 聞こえてはいないケド。


「おおおお!!『魔力壁・改』!」


 気合を入れて防御を張る。

今度は炎で解けるような軟弱な魔力壁ではない。『多重』によって何層にも重なり、『圧縮』と『粘性』で強度を高め、『強化』と『螺旋』で受け流す道も作っている。

 

『魔力系はダメだって言っただロ。【闇】は魔力を吸収するし、【光】は魔力を弾くゾ。』


 どんなに強力に強化したとしても、リュウコの魔力壁は属性の特性で簡単に解除されてしまう。


「がぁああああああ!!」


 強力な闇の砲撃を全身に浴び、体の傷の痛みが再起する。

そして、それを更に超えてくる痛みが全身を襲う。


「剛柔技・流濫旋回!!」


 またしても、脳を通していないような技名を叫ぶと、両手は翼を広げるように動く。

 その手のひらは平面を撫でつけるような動作をしたかと思うと、闇の照射を綺麗に受け流して体を守っていた。


 魔力の中で平泳ぎでもしているのか。そんな動きをしながら手のひらで魔力を捌くという荒業を披露すると、ものの十秒程度で止まった闇の照射から、リュウコは殆ど全て受け流してしまった。


 その様子は野生に生きる『Dコロポ』の目にも異常に映ったようで、数秒の間を空中で呆ける。


「破技・天龍昇拳!」


 地面を蹴って飛び上がると、その勢いのまま『Dコロポ』に突き上げのアッパーをお見舞いする。

 空気を入れすぎた風船のように爆発した『Dコロポ』と、そこから出てきた魔核が舞いながら、着地寸前のリュウコ。

 そこを狙っての光の照射が、再びリュウコを激痛の中にいざなった。


「ぐぅううう!!」


 背後から『Sコロポ』によって攻撃されたことを理解するまで2秒経過。

対策なんて考えるまでもなく、リュウコは胸の前で腕を交差させる。


「『魔力壁・球』!」


 懲りることもなく魔力による防御に回る。

一時的に攻撃を凌いでも、すぐにこれも掻き消えてしまう。

 そう思っていくつかの方策で魔力壁を構築する。


『これハ、『自律』!?この段階で既ニ。』


 ガイドの驚く声と共に、リュウコの魔法が完成する。


 リュウコを覆う球状の魔力壁。それだけではない。いくつもの魔力壁らしき球体が宙に浮いている。

 その数は10。


 それぞれがそれぞれ独立した軌道を描き、リュウコの周囲を旋回する。


「『魔力砲』、十倍だぁああ!!!」


 魔力壁から放出された、一個につき一本の魔力砲。

複数の角度からうち放たれた魔力砲に辺り、『Sコロポ』はのけ反る。

 魔力の照射は、数での暴力が勝った。


 しかし、それでも体毛が魔力を弾くせいで『Sコロポ』にはノックバック以外の効果は見込めない。

 だからこそ、リュウコは覚悟を込めて一歩を踏み出す。


「破技・龍鏖りゅうおう!」


 簡単に言えば右ストレート。

 しかし、芯を捉えたその攻撃は、絶命以外の結果を許容しない。


 リュウコの拳が貫いた『Sコロポ』は、大きな穴とともに消え、大きな魔核だけを残した。


◇◆◇


魔神器『骸時ガイド

外見:時計部分が黒い骸骨でできている腕時計。骸骨は360度どの方向にも顔を向けることが可能。

機能

1、人物の魂や記憶などを格納できる(定員一名分)

2、装着者が魔物を倒した場合、その経験値をストックできる。


3、魔物を呼び寄せる。

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