第16話 目が覚めたらそこは

 一息ついてから、『骸時ガイド』はリュウコに色々なことを教えてくれた。

 ここはコロポの里の100階層。

何がどうしてこうなったのかは分からないが、それでもそれが事実であると。

 ここから脱出するのであれば、危険で難易度が高い残りの10階層を降りて、迷宮主に出会ってから帰還するか、100階近い階層を戦いながら登っていくか。

 前者は危険が伴うが、早く脱出できる。

 後者は危険こそ少ないかもしれないが、脱出には時間がかかる。


「もちろん下だ。下に降りる。」

『その心ハ?』

「あのタコとの闘いで自覚した。僕はまだ弱い。だからもっと強くなる。強くなる必要がある。」


 決意を秘めたような目で『骸時ガイド』の目を見る。

その瞳に宿った炎を見て、『骸時ガイド』はその心の中だけで呟く。


〔そりゃ、お前はそう思うだろう。お前がお前であるためには、もっと強くなってもらうぞ。〕


「で、結局コレ、君?は何なの?」

『オレはただの案内役ダ。お前に魔法のいろはを叩き込ム。色々と手助けしてやるゾ。』

「あんまり答えになってない気がするけど、いいか。」


 リュウコは特に理由もなく、そのガイドの言葉を信じて、後のことは考えないことにした。

 考えたところで意味が無いのはなんとなくわかっているし、それに今のリュウコには時間を浪費するほどの余裕はない。


「で、何をすればいい?」

『そうだナ。最初の試練ってやつハ』

「———」


 もったいぶるガイドに視線で急かす。しかし、それは間を溜めているのではなく、言うタイミングを調整しているだけだとすぐに気づいた。


『PUPUI♪PUPUI♪』

『PUUUUU♪♪』

『PURURRRRRR♪』

『PUUUURUPUUUU♪♪』


 四つの声に振り返ると、そこに立っていたのは『コロポ』だった。

今までに見た個体との違いは、体色。


それぞれ、赤、青、黄、緑と、見たことの無い色合いをしていた。

図鑑でも見たことの無い種類のコロポ、しかも、それぞれが『ハイコロポ』よりも明らかに大量の魔力を持っている。


『属性を持った『Fコロポ』『Aコロポ』『Gコロポ』『Wコロポ』ダ。基本属性の魔法を纏っているコロポで、一体一体が、お前の戦ったネクロタクル並みに強いゾ。がんばレ。』

「えっ」

『PUI♪PUPUI♪』


 リュウコの聞き返しが言い終える前に、赤いコロポ、『Fコロポ』が口から巨大な炎の玉を吐き出す。

 直径がリュウコの身長をはるかに超えるほどの大きさだったその火球は、まっすぐな軌道を描いてリュウコに迫っていった。


「ぉおおおお!!?『魔力壁』!」


 すぐさま、反射的に魔力でのガードを行ったリュウコではあったが、それでも安心するのはまだ早い。

 高密度な魔力操作、自身に与えられたたった一つの属性を扱う種族の、『相手を殺すために放った一撃』が、ただの壁一枚に阻まれる道理は無い。


『PUPU♪』


 ただ、魔力を後追いで注ぎ込むだけで、火の威力は強まり、火球は黄色がかった赤から、白のような青に様変わりする。

 それだけで、耐えられなくなってきた『魔力壁』は徐々に解け始め、その熱量がリュウコの肌を焼き始める。


「や、や、ヤバいぃいいい!!!『魔力壁・多層』!」

 

 危機感から、更に魔力壁を増やして難を逃れようとするリュウコ。

しかし、その行動は明らかに正面の『Fコロポ』に注意しすぎている。


『PUUUI♪PUUI♪』

『PUPURRRRR♪』

「———ッ!?」


 炎で視界が遮られたことをいいことに、左右に回り込んだ『Aコロポ』と『Wコロポ』、それぞれが口であろう器官に、今リュウコが展開している魔力壁に使われている魔力よりも更に膨大な魔力を注ぎ、何かを放とうとしている。

 それを察したリュウコは、防御より回避を選択。

選択肢は後方、上方の二択。

 一瞬の逡巡の末、上方は姿勢が不安定になって再回避が不可能であると判断して、後方への回避を選択。


 しかし、その一瞬が命取り。

逃げようとしていた先には、地面から顔を出している『Gコロポ』の姿。

 リュウコの回避を予想したのか、


『PUUUUU♪』


 地面を隆起させる魔法で、リュウコの後方に壁をつくる。


四面楚歌とはこのことと言わんばかりに、前方からは火、左右からは、高圧カッターのような水鉄砲と、目に見えるほど高密度のカマイタチ。後方には巨大な壁があって、いつそこから何をされるのかも分からない。


 一瞬のうちに走馬灯は流れ、リュウコは方策を見失う。


「ッがぁああああああ!!!」


 最初に喰らったのはカマイタチによる斬撃。腕の全体と側面の体を、鋭利な刃物で乱雑に斬られたかのような後と、大量の出血。

 そして、次に水鉄砲のビーム。

 骨を折るよりも抉り取るようなビームに打たれ、リュウコの体に風穴があく。

 切り取られるよりもこそぎ取られる攻撃だからか、遥かに痛みの度合いが違う。


「ま、『魔力壁』!!」


 どうにか、どうにかしてこの危機を突破しようと、苦し紛れの魔力壁。

防御の手段はこれしかないとばかりに、馬鹿の一つ覚え。


『魔力ってのは自由ダ。スキルで型に沿って使ってる奴らとお前は違ウ。お前だけは、魔力を使ってなんでもできル。なんでもできル。属性なんて枠に囚われるナ。想像力だけで世界を支配するんダ。』


 長文なのに、一瞬のようにも感じた言葉。

リュウコの耳に聞こえたのか、心にそのまま伝わったのか。

 それは分からないが、その言葉の意味は理解できた。


 リュウコを縛っていた固定観念という鎖に、少しだけヒビが入る。


「———『魔力壁』」


 使ったのは先ほどまでと同じ魔力壁。しかし、その性質そのものはまるで違う。

 その魔力壁は、当たった魔力の炎や水、風なんかをかき消す。


『マズはそうだナ。『消失』が一番スワリが良イ。次は』


「『魔力弾』」


 魔力で形作った弾丸のようなもの。ネクロタクルとの戦闘でもそれは確かに友好的で、非常に汎用性の高い魔法。

 しかし、それもこの場においては明らかに質の違うものになっていた。


『『圧縮』ト『螺旋』ネ。重畳じゃないカ。その調子、その調子。』


ケタケタと笑うガイドの声が不愉快で、リュウコの眉間にしわが寄る。


「『魔結界』」


 リュウコを中心に張り巡らされた半径50メートルの魔力の糸。

 その一本一本がピアノ線のように頑強で鋭く、多少動いただけでコロポたちの体毛から皮膚からを切り刻む。

 だけではなく、体を斬ったハズの糸はその部分に張り付き、コロポの体から自由を奪い去る。


『PUPUUUUU!!』

『PURURURUU!!』

『そウ。『織糸』は便利ダ。『粘着』も良いナ。さ、仕上げダ。』


「『魔力砲』」


 リュウコの手から放たれたのは、魔力をただ爆発的に放つだけの砲撃。

太いビームのようなものが、『Fコロポ』に大きな穴をあける。


 それだけで、コロポは体を保てず、『魔核』となって消滅した。


『———そうカ。『照射』を選んだのカ』


 ガイドの声は、なんだか


『PUPUUUUUU!!』


 両手からの『魔力砲』を受けて、『Wコロポ』も『Aコロポ』も消滅した。

残るは背後の『Gコロポ』だけ。


 振り返って視たのは、崩れる壁の先にある大きな穴。

魔物が死んだときに消えるのはそこまで一瞬ではない。すくなくとも、後ろに放った魔力砲に殺されたコロポが死んで消えるまでの間は、振り返るよりも早くない。


 つまり


「逃げられた。」


 危機感、形勢逆転を感じ取った『Gコロポ』は、リュウコの背後に回ったのと同じように穴を掘ったか何かして、逃避に走ったのだ。


「『魔波』」


 両手を胸の前で合わせる。祈っているのではない。感覚を研ぎ澄まして、魔力の流れをエコロケーションのように感じ取っている。


『それが最後だろウ。『探知』ダ』


 ガイドの声を聴ききる前に、リュウコの魔力砲は見つけた『Gコロポ』の元に伸び、地面と共にその全身を抉って切り裂いていた。


 後に残ったのは、傷塗れで満身創痍のリュウコと、四つの魔核だけ。


「しんど……」


 そう一言呟くと、その場に倒れて気絶してしまった。

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