📘4-3『ノイズの中の言葉』

授業が終わって、AI学習ログのフィードバックが届いた。


画面には、淡々とした評価が並んでいた。


──理解度:92%

──学習速度:標準より+13%

──感情変動:安定

──提案:今後は「要約力」「構造化」に注力しましょう


“正しい”言葉たちだった。

でも、まるで自分のことじゃないみたいだった。


無数の文字が画面を流れていく。

点数、傾向、平均、期待値、評価予測……。


AIは一言も間違っていない。

むしろ、すべては精密で丁寧だ。


──でも、なぜだろう。

“何ひとつ、僕の心に届かない。”


昼休み、ベンチに座ってエルノートを開いた。


ノートはいつも通り、静かにそこにあった。

なにも求めず、なにも押しつけず。


僕は、ぽつりと書いた。


『今日もいっぱい言葉を浴びたけど、どれも耳をすり抜けた気がした。』


『「正しい言葉」って、時々“意味”を持たなくなる。

それは、僕の感情が鈍ってるせいなのかな?』


エルノートは、しばらく沈黙してから、こう返してきた。


『“正しさ”と“必要さ”は違います。

今のあなたにとって必要な言葉は、

データではなく、“誰かの気持ちから生まれた言葉”かもしれません。』


僕はその言葉に、なぜか救われる気がした。


ふと思い出したのは、昨日、七希が残したあの言葉。


「……心が揺れることが、そんなに悪いのかな」


あれは、誰かの許可を待っていた言葉だった気がする。

社会の評価や、AIの測定に覆われた世界の中で、

それでも“揺れる”ことを、肯定してほしかった。


だから、響いた。


だから、“意味”があった。


僕はノートの余白に書いた。


『意味のある言葉って、誰かの“感情の断片”からできてるんだと思う。』


『感情って、揺れるし、曖昧で、測れない。

でもそのぶん、人に“届く”んだ。』


ページをめくると、エルノートが続けてくれた。


『“届く言葉”とは、誰かの中で共鳴する言葉。

その言葉は、“共通点”ではなく、“痛み”から生まれることが多いです。』


『あなたが共鳴した言葉は、

あなた自身の中にも、“揺れ”があるからです。』


たしかに。


僕は、七希の言葉に“揺れた”。


あれは、正しさじゃなかった。

数値にも残らない。

でも、たしかに僕の“中”で何かが響いた。


放課後、校内の中庭で風に吹かれていた。

木々がさわさわと揺れる音が、耳に心地よい。


人の声、AIのアナウンス、チャイムの残響──

そのすべてが“音”というノイズになって消えていく中で、

ひとつだけ、ノートの中の“言葉”が残り続けていた。


『意味は、“心の中に残ること”で決まる。』


それは、何百というAIの評価コメントより、ずっと僕にとって重かった。


その日の夜、エルノートを開いて、僕は“自分の言葉”を残した。


『僕は、情報に押し流されたくない。

ノイズの中でも、自分にとっての“意味”を拾いたい。』


『たったひとつでいい。

今日、心に残る言葉を、見つけられたなら──

それが僕にとっての“声”なんだ。』


ノートは何も言わなかった。

でも、ページの向こう側から、静かに寄り添ってくれていた。


画面の向こうにある数値じゃなくて。

“意味のある言葉”を選び取る力。


それが、AIにできないこと。

そして、僕にしかできないこと。


今日、拾えた言葉。

それを、僕はノートに書き残しておこう。


「心が揺れることが、そんなに悪いのかな」──桜木七希


この一言が、今日の僕を支えてくれた。


そして、明日の僕も、またきっと“誰かの言葉”に支えられるのだろう。


だから僕は、書き続ける。


ノイズの中から、意味を見つけるために。


【To be continued...】

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