透明な俺に色があるって?

@uria7249

誰にも見えない

高校に入学したばかりの頃、周りがどんどん友達を作っていく中で、どこか自分だけが取り残されているように感じていた。


 何がダメだったのか、最初はよくわからなかった。ただ、話しかけられてもすぐに会話が終わってしまったり、輪の中に入ろうとしても、話題にうまく乗れなかったりすることが多くて、少しずつ、距離を感じるようになった。

 「昨日のドラマ見た?」「あれマジでエモかったよね」とか「あのキャラやばくない?」とか、みんなが楽しそうに話している内容に、まったく興味がなかったわけじゃない。


 でも、話し方や感じ方が、俺だけ違っているような気がしていた。


 ある日、休み時間に男子グループが声をかけてきた。


「なぁなぁ昨日のアニメ見た? 魔族ぶった斬るとこ、マジスカッとしたわー」

「うん、見たよ。……でも、なんか魔族がさ、人間と同じような感情持ってるように見えて……」

「え、そっち?」

「……ちゃんと話せば分かる相手かもしれないのに、強くてすごい人でも憎しみの方が先に来ちゃってるのって、なんか怖いなって思って。それに……」

「いや、真面目すぎ」

「お前さ、ちょいちょい“評論家”みたいなこと言うよな」

「……つか、そういうのSNSで映えそうだよな」


 それな、と笑いが起こった。俺も「真面目すぎかもな」と笑った。

 空気を壊さないように、否定されないように。

 話題が変わる。その後何を話したのか覚えてない。


 次の日から、彼等は話しかけてこなかった。


 俺も、話しかけることはなかった。

 また何かを話しても、きっとまた、笑われる気がした。


 ある日、後ろの席の女子が話しかけてきた。


 最初は少し驚いたけど、顔を見合わせてみると、困ったような微笑みを浮かべていて、その瞬間「あ、俺が孤立してるの気を使ってくれているんだ」ってわかった。


 「ねぇ、これ聞いてみて。すごくいい曲だよ」


 女子はイヤホンを俺に差し出してきた。


 すごく緊張した。

 正直、その一瞬だけで、ちょっとドキドキしてしまった。普通なら、イヤホンを貸してもらうことなんてなかったし、女子と話したこともなかった俺にとっては、それだけで特別なことだった。


 イヤホンを受け取る手が震えた。こういう時、どうしても意識してしまう。

 「俺なんかがこんなことしていいのかな?」とか「汚れて嫌に思われないかな?」とか考える。

 昔、菌扱いされていたことを思い出す。


「ピアノが綺麗で、メロディーが美しいんだ」


 彼女は期待を込めた眼差しで俺を見ている。


 少しでも嫌がられたらどうしようかという不安が、どこかに残っている。

 だけど、そんな心配は杞憂だったのか。彼女が期待してくれたことを素直に嬉しく思う。


 イヤホンを耳に差し込んで、音楽が流れ始めた。

 その曲は、確かに力強くて、感動的だった。ピアノの音が静かに響いて、歌詞も何だか心に突き刺さるような気がした。


 俺はその曲に感じたものを、そのまま口に出してしまった。


「うん……この曲、すごく辛そうで、苦しくなる。

満たされない思いを抱えて、でもそれを周りに隠しながら前に進もうとする姿が見える。

だからこそ、周りの優しさで満たされていない自分を弱いと気にして責めてるし、その中にある優しさが、逆に切なく感じる」


 彼女の反応が一瞬止まった。少し沈黙が流れてから、彼女は小さく笑った。


「へぇ、そんな風に聴くんだ。その発想はなかったな。私はただ、感動的だったなって思ったんだけど」


 その一言に、胸がズキリとした。

 否定されたわけじゃない。でも、伝わらなかったのはわかってしまった。


(……まただ)


 自分の感想が、重たすぎたのかもしれない。真剣に話した分だけ、距離ができるのがつらい。


 彼女はたぶん、気を使って笑ってくれた。良い人だ。

 でも、俺のせいで「困らせてしまった」って思うと、それがまた苦しくなる。


 気を使わせないために、俺も気を使う。無理をしてでも。

 その関係は、きっと長く続かない。


 だから、距離を取るしかなかった。


 次の日から、俺は彼女を避ける様になっていた。

 寝ているふりをしたり、廊下で見かけてルートを変えたりした。


 透明になる。それが誰も傷付かない、俺の最適解だった。

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