第3話:爪紅
「ん……」
長い夢を見ていた気がする。ぼんやりとした意識の中、旭は目を開けた。
(俺は…一体…)
何をしていたんだったか。そうだ、資材置き場で変な和装の人に見つかって、体が段々と熱くなって、それで…その後の記憶があやふやだ。ゆっくりと体を起こしてあたりを見渡してみる。
「ここは…」
見たところどこかの医務室のようだ。いつの間にか入院着のようなものに着替えさせられ、ベットにねかされている。お昼すぎ頃だろうか。横の窓からは暖かな日差しがさしていた。
ドアに視線を移すと、ちょうどガチャリと音がして誰かが部屋に入ってきた。
「あ、起きたんだ。おはよ」
そう言葉をかけたのは昨日出会った和装の人物。明るいところで改めて見ても、性別はよくわからない。
「体調はどう?変なとことかない?」
「はい、大丈夫、です。えっと…」
「あぁそっか、まだ名乗ってなかったね」
そう言いながらベットの横に立ち、手を差し出してくる。
「ボクの名前はソラ。
「よろしく、お願いします。ソラ…さん」
差し出された手を握り返して答える。自分より一回り小さい、どこかひんやりとした手だった。
「ソラでいいよ。敬語もなしで。昨日も言ったけど、そんなに年変わらないから」
「…わかった。よろしく、ソラ。」
「うん、こちらこそ」
笑みを浮かびながらそう返したソラは、ベットの横にあった椅子に腰掛け、足を組みつつ語り始めた。
「寝起き早々悪いんだけど、真面目な話をしてもいいかい」
「…!」
さっきとは打って変わったソラの真剣な顔に思わず背筋が伸びる。コクリと頷くと、おもむろに口を開く。
「じゃあまず君の現状だけど…結論から言うと、世間的には君は死んだことなっている」
「死っ…!?」
まさかの展開に思わず声が出る。てっきり警察にでも突き出されるのかと思っていた。
「勝手に決めて悪かったね。でも君はおいそれと警察なんかに預けられるような案件じゃぁないんだよ。」
「あ、いや大丈夫。ちょっとびっくりしただけで…」
こちらの心を読んだような返しにさらに肝が冷える。
「ま、君は特別だからね」
「…?」
意味深な表情でソラはぽつりとつぶやいた。しかしすぐになんてことないような表情で話を続けた
「君の遺体もご両親のものと一緒に焼け跡から見つかったことになってる。出火原因も不慮の事故として処理された。」
「…そう、か」
話の大きさに頭がついていかない。改めて自分が起こした事の重大さを突きつけられる。それと同時に目の前の人物に疑念が浮かぶ。人の死を捏造し、あくまでも罪人の自分を保護する、なんて…
「あの、ソラはいったい、むぐ」
恐る恐るたずねようとすると、人差し指を口にあてられ制されてしまった。
「おっと。気になるのはわかるけど、それは簡単には教えられないな」
笑顔だが有無を言わさぬような声色にコクコクと頷いて見せた。世の中知らないほうがいいこともある。
「それで、君の今後だけど…うん?」
突然言葉を止めたソラが袂をごそごそと探ると、震えるスマホを取り出した。和服からスマホが出てくるのはなんとなくシュールだ。
「ごめん、電話だ。悪いけどちょっと待ってて。」
「あぁ、うん」
そうソラは言い残すと足早に部屋から出ていった。一気に体の力が抜け、ふぅと息をつく。
(俺は…どうなるんだろうな)
検討もつかない。そもそも親殺しの自分に行く場所なんてあるのだろうか。あったとして、俺は…
「はぁ…」
考えても仕方がない。とりあえずソラの話を聞くまでは何もわからないのだから。そう思い直し、ボフッと布団に倒れ込む。その瞬間
ガッシャーンッ!!
と音が響き、横の窓の破片が飛び散った。振り返ると後ろの壁に銃弾がめり込んでいる。
(撃た、れた…?)
どこから、誰に、なんで、色んな思考が頭をめぐる。でも、このままでは…
拳を握り、意を決してベットから飛び出す。
(これ以上…傷つくのは、俺だけでいい。)
「旭!!」
ガラスが割れる音を聞きつけ、ソラは扉を蹴破る勢いで部屋へ飛び込んだ。
「…いない…?」
部屋を見渡す。割れた窓に、壁にめり込んだ銃弾、そして無造作に跳ね除けられた布団。
しくった、舌打ちをしながら携帯に耳を当てる。
「旭が襲われた。現在失踪中、至急捜索許可を。マスター」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます