第6話 『ライブラリアウト』
まずライブラリという単語について話そう。
意味としてはたくさん種類はあるが、主に図書館や資料等の大量の情報を纏めているものと考えてよいだろう。
アウトは知っての通り外側、または外れという意味もある。
それを合わせて大量の情報があろうと、そこから外れた非常のものという意味合いが込められている。
「というのが私たち『ライブラリアウト』なのよ」
「ふーん、随分とまあ…………」
「うふふ、全部アラタ様のおかげよ」
「アラタ様」
随分と持ち上げられちゃってまあ、慕われているんだな。
あいつの事だからよっぽど性根が曲がっていなければ味方につけようとする性格だ、それでトラブルが起きたりもしていたが。
なんとなく察してはいるが、彼女も相当苦労してそうだな。
と、先か名前を聞いていたのでいうのを忘れていたが、彼女はアマージョ・ロッズ。
魔女帽子の通り魔女である。
魔女と言ったら危険な雰囲気はあるが、彼女は弾圧されるような魔女ではない。
というか、この世界にもかつては魔女裁判みたいな出来事はあったが、ダンジョンやらモンスターやらで有耶無耶になって気付けば協力者の立ち位置になっている。
正直なことを言うと俺も魔女に会うのは初めてだ。
魔女が作った道具という謳い文句で売られてるエセ道具から見たことはある。
アラタの作った道具の方が性能が良かったのは言うまでもない。
「ねえ、聞かせて?アラタ様の話」
「やっぱりあいつは何も話してないのか」
「そうね、田舎に怪我した幼馴染を迎える居場所を作りたいって言ってたくらい。強いて言うなら君の話ばかりしていたわ」
「あの馬鹿…………」
この話を聞いて俺は頭を抱える。
なんで女性と話するのに俺の話題を出すんだよ、絶対困惑するって。
いや、俺だってもし女性と話した際にさ、その女性が俺の見たこともない人の話ばかりしていたら困る。
というか、絶対アマージョも困ったと思う。他ギルドメンバーも困ったと思う。
「もう、嫉妬しちゃったわよ。何度呪おうと思ったか」
「…………あのクソボケにはきつく言っておく」
「うふふ、そう言えるのは君くらいよ」
アマージョの言葉に首をかしげたが、今の俺はアラタの立ち位置をイマイチ分かっていないのかもしれない。
確かに、今のあいつは偉い立場にある。それを幼馴染とはいえ新人が気軽に話しかけてよかったものか。
急に不安になって来たな、後でメンバーに叱られるか?
もし叱られたら仕方ないものと思っておこう。
「なので、君については詳しく聞いてるわ。物怖じしない英雄さん」
「誰が英雄だよ。まだ何も成し遂げてないってのに」
「…………そうね、でもダンジョンを潜るのだから名は上がるはずよ」
真っ直ぐ見つめられてそんなことを言われると小っ恥ずかしくなるな。
確かに明日にはダンジョンに潜ってモンスターを倒し、金を稼ぐついでに強くなるつもりではある。
そうでもないといつまで経っても追いつけそうにもない。
ギルドメンバーがどれほど強いのかは、全部は分かっていない。
ただ、認識が遅れたら致命的なダメージを受けるのは間違いないほど強いのは間違いないが、引き出しが何一つ分からないのだから判断しようもない。
それに対して俺は少ない引き出しの1つであるスキルを披露したから…………いや、この様子だと全員に伝わっているはずだな。
「お待たせしましたー。特盛野菜アブラマシマシステーキでーす」
「…………マジでこれ食うの?」
「マジでこれを食いますわ」
明らかに厳つい系の男性が食べるような野菜も肉もたくさんな皿が運ばれてくる。
おかしいな、俺喫茶店に案内されたはずなのに。お茶とケーキ頼んだ横でアマージョの注文を聞き間違えてたと思ったのに。
「うふふ、ギャップがすごいと思うでしょ?」
「思った」
「そういう驚いた顔を見るのが好きなの。あと、私は元々戦士から転職して魔女になったから普通に食べきれるの」
「どういう経歴でいらっしゃる?」
え、今は明らかに魔女ですよって雰囲気だしてるのに昔は荒々しかったパターン?
「では…………はぐっ、はぐっ!」
「食べ方もワイルドだぁ」
「お待たせしましたー、ラ・ルド産紅茶と木苺ケーキです」
「ぐぁつ!ぐぁつ!」
これがギャップ萌えと言うものなのか。ナイフでザクザク切り分けて、フォークで野菜ごと肉をぶっ刺して大きな口を開けて貪り食っている。
おかしいな、ここ喫茶店なのにがっつりステーキだしてるんだ?
周囲をこそっと見渡してもお茶を楽しみ雑談するマダムくらいしか見当たらない。
既に周囲と随分ズレているのだが…………
まあアラタの周りに集まる奴らだしな。俺含むどこかおかしい奴が集まるのも仕方ない。
俺は隠しているとはいえ転生者という明らかに経歴がおかしい奴だもん、自覚の1つや二つはあるってものよ。
「がっ!がっ!…………食べてる間に、アラタ様の昔話、聞かせてくれる?」
「よくその状態で聞こうと…………まあいいか、奢りだし」
俺がケーキに手を付け始めた時点で全体の1/4が無くなっているのに若干引きながらも、俺は話し始める。
「まずは初めて道具を作った時にボヤを起こした話をだな…………」
「失敗談…………ぜひ聞かせて」
話の一つや二つ、いつでも語ろう。
彼らが知らない物語であり、俺にとってはありふれた物語。
人の不幸は蜜の味ってね。
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