第5話 俺、所属する
「ソウ!」
「おう、俺だぞ」
一撃で俺をのしたと思ったな、残念ながら隙をつける程度には動けるぜ!
ごめん、嘘、割とギリギリ。本気の殺意を向けていたら多分気付かれてたと思う。
木刀で防いだのはいいけど衝撃が半端じゃないし、多分肋骨が何本か折れてそうな気がするし、何なら全身擦り傷から傷だらけ。
でも生きてるからモーマンタイ、逃げる選択肢もあったが卑怯でも不意打ちでも勝ちゃいいんだよ!
「で、これくらいでいいか?打ち合いは絶対に負ける自信しかないぞ」
「そこを自信満々に言うんだ…………」
「あの腕力で打ち合えるわけないだろ。木刀が耐えられるわけないだろ。俺の腕と一緒に折れるわ」
これでも不良騎士に突きつけている木刀を持つ手が震えないようにするの耐えてるからな。
思ったよりもダメージがデカくてしんどい、相手が油断してなかったらこのような真似はできなかった。
それはそれとして、すっごい悔しそうに顔を歪ませてる不良騎士なんだが、頼むからこれで終わりにしてくれ。
次の一撃を食らったら流石に立たん!
「ロックー、油断するからー」
「うぐっ!」
「お前の負けだろー!トドメはきっちりとささないとなー」
「うるせー!ちくしょー!油断したー!」
うがーっと天に向けて吠えるロック。しかし油断して喉元に命の危機を突き付けられた事実は変わりなく。
「勝負あり!はい、治療するよ!」
アラタの決着を決める声を聴いて俺は腕を降ろす。
息を止める準備が出来ていたから苦しかったぜ畜生!
そして、これが俺の限界だったか。
油断して、油断したところに殺意抜きで迫れる程度。先ほども言ったが殺意を向けたらどうしようもなかっただろう。
ダンジョンもこんな感じなのか?いや、地上に『国崩し』のモンスターが居るから間違いなくこんな感じなんだろう。
…………いや、やっぱりどこか桁が違いすぎる。
俺は至極真面目にやってこの体たらくというのに、ロックはどう見ても遊び感覚だった。
他のメンバーも、アラタも、完全に観戦気分でこれを見ていた。
スタートラインが同じだとしても、3年もの歩みの速度が違えばこうまで差が開くか。
今は無理だとしても絶対に追いついてやる。
まあ、その前に…………
「早く治してくれ、痛すぎてやばい」
「おわあああ!?加減してって言ったよねぇ!?」
「すんません団長!」
打撲というよりかは挫滅、防御したのに打ち込まれたところから血がじわじわ滲み出して俺の服を汚していた。
加速していても出血はじわじわと出ていたから結構広範囲に汚れてしまったな。
それに走り寄ってきたアラタが俺の傷口に手を向けて暖かな光を当ててくれる。
回復魔法、それもかなり上等なものだ。
魔法と言ったら聞こえはいいが、使えるのは限られた人間で、スキルに比べたら使える人間は多く汎用性も高い。
アラタも村にいた頃から素質はあった。簡単な火おこしや手洗い程度の水はいつでも出せるくらい。
反して俺は才能がなかったようで簡易な魔法は今でも使えない。
道具がそこそこ発達してるので金がかかるからかからないかくらいの差だ。
ただ、ここまでの回復魔法は話がそこそこ違ってくる。
傷を一瞬で治してくれたが、回復魔法は特殊な方法でしか学ばないと聞く。
俺は使えないと言うのが分かっていたから話半分で村の授業で聞いていたが、アラタはなんらかの伝手で使い方を学んだのか?
俺の知らないところで成長してるのは嬉しいよ。
あの頃のようにトラブルを起こしては俺に頼ってばかりだったころと比べたらマシだ。
マシになってる、か?
「もう、無茶ばっかり…………」
「あれくらい無茶でも何でもない。ダンジョンでそう言えるのか?」
「言えなくはないけど、裏技が…………」
「裏を頼ってるようじゃダメだろ」
「うぅ…………」
利用できるものは利用する、ちょっとのリスクがある程度なら問題ないけど後々致命的に鳴るのだけは避けないといけない。
こいつの言う裏技が何なのかは知らないが、簡単に言いくるめられている時点でヤバそうな気がする。
「ロック、また『修行』か~?」
「うっせ、俺だって油断する時は油断するんだよ!」
「あらら~、大穴が勝っちゃいましたか~」
「おいロック!お前一本取られたせいで負けたぞ!今日は奢れ!」
「いえーい!ありがとねソウくーん!」
あっちはあっちで他人事のように賭け事をしてやがる。
人が怪我してるのに、酷い奴らだと思わないか?
ま、逆の立場だったら俺もやってたかもな。村は娯楽が少ないから賭博はしょっちゅう行われてた。
俺はあんまり参加しなかったが、親父はよくしょーもないことで書けを行い素寒貧になる事がたまにあったな。
それで母さんによく𠮟られてた。それを見て育ったから俺は賭け事の経験数が少ないぞ!
まあ、横のアラタがアホみたいに強すぎるせいでやる気をなくしただけともいう。
「ギルドリーダーさん、とりあえず仮でも合格は貰えるか?」
「合格以外ないよ!即戦力だよ!」
「いや、それは言いすぎじゃないか?」
一応勉強もしていたとはいえ、ダンジョンの勝手とか知らないし、そもそもダンジョン活動がメインだよな?
さっきの不良騎士もそうだが、全員が美男美女で身に纏うのは一部を除き高級で高貴なものばかり。
妙に布面積が少ない気がするが、敢えてそこには目をつぶろう。普通にやりどころがない。
…………加入するのは決まっていたが、評判とかどうなっているのか先にリサーチしておくべきだったか?
後悔しても遅いが、俺とアラタは並んでいつの間にか用意されていたベンチに座っているメンバーたちへと向かっていく。
ロックは既に彼らの元へ居たためこっちを向くだけだった。
「改めて新しいメンバーだよ。じゃ、自己紹介よろしく」
「ソウ・ウルファンだ。このとおりギルドマスターのアラタ・シャークアイランドと同じ村出身で幼馴染、よってこいつの恥ずかしい昔話は山ほどこさえてもってきた」
「ちょっと!?」
「聞きたい奴はこっちへこーい。都のおすすめグルメを奢ってくれたら一つだしてやろう」
「ソウ!」
アラタが俺をとっつ構えようとした瞬間に息を止めて高速化、そして逃げる。
どうせ自分の事を全く語ろうとしない奴だ、私情を押し殺して何も語らず人助けとかしてるんだろう。
だから不気味がられてたってのに、多少叩いて治してこれだ。
ギルドのカウンターまで走ってきて高速化を解き、受付で皆が来るのを待つ。
「あ、そういえば」
一つ忘れていたことに着い独り言が漏れる。
「ここのギルド名なんだっけ」
「『ライブラリアウト』、よ」
「うおあっ!?」
知らない間に隣に居た魔女帽子の美女が俺の耳元でささやいた。
突然現れたため驚き後ずさったが、最初にギルド内に居た女性という事を思い出して落ち着く。
「ねえ、私がどうやってギルド創立までこぎつけたか教えてあげるから、ちょうどいい喫茶店でお茶しながら話さない?」
「これ、対価として何か必要なやつ?」
「もちろん、きっちり、全部話してもらうわよ」
うふふと妖艶に笑っているが、しれっと全部というあたり欲深いというか。
絶対に逃がさないというオーラを纏う美女相手に、俺は逃げるとかはあまり考えずついていくのであった。
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