アカナメの災難 4
「何とかクチメちゃんを助けてあげられないでしょうか?」
とサキが言った。
「自分の意志で食べないんでしょう? 口に無理矢理食べ物を突っ込んでみたら?」
と霧子さんが言ったが、根本的な解決法ではないような気がする。
「手長足長達を殺した犯人を捕まえるしかないんじゃない?」
と言ったのは珠子さんだった。白い猫は熱心に前足を舐めていた。
「犯人を?」
「やっぱそうでしょ。クチメちゃんが口を取られないうちにさあ」
「それはそうですけど……犯人って誰でしょう??」
「さあ」
珠子さんは首をかしげた。
「でも手がかりはあるじゃん。鏡のガミさんが何か知ってるんじゃない? 手長足長にもクチメちゃんの話にも出てくるし」
「そうね。あのおっさん、怪しいわね」
霧子さんは壁に掛けてあった、綺麗な縁の鏡を手にした。
「ガミさん、出てきなさいよ!」
と鏡に向かって話しかけた。
けれど鏡はちらっとも反応しなかった。
「あのおっさん!」
怒りマークあらわに霧子さんが鏡を揺さぶったりたたいたりしたが、鏡は反応しなかった。
「どれどれ?」
珠子さんがにゃおうと甘えたような声で鳴いて鏡に前足をつっこんだ。
鏡は割れるでもなく、水面が揺らぐように波打った。そして、
「にゃ!」
と珠子さんの毛が逆立った。珠子さんはじたばたと暴れたが、鏡の中に引っ張られて行くような形になった。
「にゃー!」
「珠子!」
と言ってから闘鬼さんが珠子さんの身体を抱きかかえ、自分の右手を鏡の中に突っ込んだ。そして、
「痛い、痛い……勘弁してくれ」
と泣きそうな声のガミさんが闘鬼さんの大きな手に捕まれて顔を出した。
闘鬼さんの大きな手がガミさんの首をしっかりと捕らえ、ガミさんの顔は土よりも黒くなって膨れていた。
「た、助けてくれ~~」
「一回、死んでおくか?」
闘鬼さんは本当に怒っているようだった。人間の形に変化しているのに、うっすら頭の先に黒い角が見える。妖気が吹きだして形をとり始めているのだろう。
「す、すまん。すまん。あんたの猫とは……知らんかった……んじゃ……」
「闘鬼、今、殺したら駄目だよ。聞く事があるんだから!」
と珠子さんが言ったので、闘鬼さんは手を緩めた。
「わしは何も知らんのじゃ。勘弁してくれ」
とガミさんは叫んだ。
「知ってる事だけ言えばいいのよ。手長足長達を殺したのは誰?」
霧子さんの鋭い声にガミさんはぶるぶると顔を振った。
「知らん、知らん。本当じゃ」
「あんたの無責任な発言でクチメが死にかけてるのよ。クチメだけじゃないわ。他にも被害がでてるのよ」
霧子さんの左手がシャキーンとなって、鋭い鎌に変化した。ぎらぎらした鎌の刃はよく切れそうな光りをおびていた。
「あんたの手足もばらばらにしてやろうか?」
「ひっ……わ、わしはただ、その付喪神にしてやるって言われただけで……」
とガミさんがもそもそとつぶやいた。
「付喪神ぃ?」
その場にいたみんながいっせいに叫んだ。いや、闘鬼さんは言ってない。
「そうじゃ……わしだって付喪神になりたいんじゃ。じゃから」
「手長足長を殺したの?」
「まさか! そんな事はしておらんよ! ただ願いを叶える方法を妖怪達に教えてやっただけじゃ」
「願い?」
「そうじゃ。人間になりたい者達にその方法を教えてやっただけじゃ! 人間になるには妖力の源を取り去ってしまえばいいだけなんじゃ。そうしたら人間になれるんじゃ」
みんなぽかんとしていた。そんな馬鹿な話を信じる方がどうかしている。
でもそんな馬鹿な話を信じてしまうクチメが、信じて死んでしまった手長足長やろくろ首、一つ目小僧が哀れだった。昔から人間に憧れる妖怪はたくさんいる。友達になりたいと言っては人に近づき、いじめられ泣きながら逃げ出す心優しい妖怪達。
どうしてそこまでして人間になりたいと思うのか、おいらには分からなかった。
「お前を付喪神にしてやると言ったのは誰だ?」
と闘鬼さんの低い声がした。
「え」
ガミさんはぎょっとした顔で闘鬼さんを見て、そして下を向いた。
「それは……言えん。言ったらもう付喪神になれない」
ここにも哀れな妖怪が一匹いた。どんな種かは知らないが、仲間の妖怪を殺すような奴を信じている。
「付喪神にしてやる、と言われたんだな? 貴様のような半端な鏡が仮にも神と名が付く物になれると本気で思っているのか?」
闘鬼さんの声は容赦がなかった。
「わしは……わしは……」
ガミさんが顔を上げようとした瞬間、霧子さんの手にあった鏡がぱりん!と割れた。
「きゃ!」
鏡は粉々に砕け散り、闘鬼さんに捕まっていたガミさんの身体も消え去った。
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