第10話 幻夢玉の光
「幻夢玉……それが、水の都への道を開く神秘の力……」
桃源は、祭壇の上に置かれた、弱々しく光を放つ物体――幻夢玉を、警戒心を抱きながら見つめた。
それは、これまでの戦いで感じた光の力とは異なり、もっと純粋で、もっと根源的な力を秘めているようだった。
「 黒曜……お前は、本当にわしらに幻夢玉を託すつもりなのか?お前は、元々光の民だったのだろう?」
桃源の問いに、黒曜は穏やかな光を放ちながら、悲しげに微笑んだ。
「わしは……もはや光の民ではない……わしは、鬼だ……しかし……お前たち人間が……この神聖な地に眠る神秘の力を……正しく使うことができると信じたい……」
黒曜の言葉には、深い悲しみと、かすかな希望が込められていた。
かつて光に仕えていた者が、闇に染まり、鬼へと堕ちてしまった。
しかし、その心には、わずかながらも光の記憶が残っており、人間を信じようとしている。
「わしは……お前たちを信じよう……お前たちが……この奇妙な異変を解決し……再びこの島に平和を取り戻すことができると……」
黒曜は、 弱々しくも、強い決意を込めて言った。
その 体から放たれる光は、祭壇の上の幻夢玉と共鳴し、遺跡全体を優しく照らし始めた。
「 黒曜……ありがとう……お前の気持ち、しかと受け取った」
桃源は、深く頷き、祭壇へと歩み寄った。
犬彦と猿丸、雉乃も、桃源に続き、幻夢玉の前に立った。
「この幻夢玉に触れれば、水の都への道が開かれる……しかし…… 神秘の力には多くの危険が伴う……覚悟はいいか?」
黒曜の問いに、桃源は静かに深く頷いた。
「覚悟はできている。わしは、世界を守るために、どんな危険も乗り越える!」
桃源の言葉に、黒曜は微笑みながら静かに言った。
「ならば……幻夢玉に触れよ……」
桃源は、 深く息を吸い込み、祭壇の上に置かれた幻夢玉へと手を伸ばした。
その瞬間、幻夢玉は眩い光を放ち、遺跡全体を光の奔流で満たした。
「うわあああ!」
桃源、犬彦、猿丸、雉乃は、強烈な光に目を瞑り、思わず身をかがめた。
光の奔流は、遺跡の壁を打ち抜き、天井を崩壊させ、夜空へと立ち昇っていく。
「何が起こった……?」
光が収まり、目を開けた桃源が周囲を見回すと、遺跡の姿は一変していた。
破壊された石の壁は修復され、古代の紋様が刻まれた石畳は光を放ち、まるで、 神秘的な光の力に満ちた荘厳な神殿へと姿を変えていたのだ。
そして、祭壇の上に置かれた幻夢玉は、先ほどよりもはっきりとした光を放ち、その中心に、光の渦が現れていた。
「あれが……水の都への道……!」
桃源は、強く拳を握りしめた。
幻夢玉の光によって開かれた新たな道。
それは、 素晴らしい希望であると同時に、 予測ができない危険を孕んでいることも、桃源は感じていた。
「黒曜……お前はどうする?」
桃源は、穏やかな光を放つ黒曜に問いかけた。
「わしは……この神聖な地を守る者……お前たちが帰ってくるまで……ここで待っていよう……」
黒曜の言葉に、桃源は深い感謝の念を抱き、深く頷いた。
「ありがとう、黒曜。必ず戻ってくる」
桃源は、犬彦、猿丸、雉乃と共に、幻夢玉の中心に現れた光の渦へと手を伸ばした。
眩い光に包まれながら、四人の姿は、ゆっくりと消えていった。
残された黒曜は、神秘的な神殿へと姿を変えた遺跡の中で、桃源たちの姿が消えた場所を、悲しげな瞳で見つめていた。
「行ってしまったか……人間は、一体何を見つけるのだろうか…… 神秘的な光の力……あるいは……邪悪な闇の力……」
黒曜は、深い疑念を抱きながら、静かに呟いた。
桃源たちが足を踏み入れた水の都への道は、想像を絶する神秘な力と、 予測不可能な危険が待ち受ける、新たな冒険の始まりだった。
そして、その冒険は、桃源たちだけでなく、鬼ヶ島全体、そして 世界の運命をも左右する激しい戦いへと繋がっていくのだった。
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