第9話 もう一人の末裔

黒曜が、この遺跡に眠る神秘的な光の力を呼び起こすというのか?

それは、桃源にとって予想外の展開だった。


「 黒曜……お前は、一体何を考えているんだ?」


桃源は、警戒心を解かずに黒曜に問いかけた。


「わしは……この遺跡に眠る古代の記憶を……呼び起こそうとしているのです……かつて、この神聖な地に満ちていた光の力を……」


黒曜は、弱々しい声で答えた。

その 弱々しい体からは、石の巨人や光の民の末裔と似たかすかな光が放たれた。


「そんなことができるのか?お前は鬼だろう…… 光の力とは無縁のはずだ」


桃源の言葉に、黒曜は悲しげに微笑んだ。


「わしは……確かに鬼です……しかし……鬼になる前は……この地に住んでいた『 光の民』だったのです……」


黒曜の衝撃的な告白に、桃源は言葉を失った。

黒曜が、かつて光の民だったとは。

それは、桃源にとって予想だにしなかった事実だった。


「お前が…… 光の民……?そんな馬鹿な……!」


桃源は、強い驚きを隠せずに叫んだ。


「古代の記録によれば……『闇の力』がこの島を襲った時……光の民の中には……その力に染まり……鬼へと姿を変えてしまった者もいたと……わしは、その一人……」


黒曜の言葉は悲痛だった。

かつて光に仕えていた者が、闇に染まり、鬼へと堕ちてしまった。

その事実は、桃源の心を深く揺さぶった。


「しかし……わしは……完全に闇に染まったわけではない……わしの中には……わずかに光の記憶が残っている……その記憶を頼りに……この地に眠る神聖な光の力を……呼び起こすことができるかもしれない……」


黒曜は、 弱々しくも固い決意を込めて言った。

その弱った体から放たれる光は、 うっすらと神聖な光を帯びているようだった。


「黒曜……お前……」


桃源は、言葉を探したが、何も言えなかった。

かつての敵だった鬼が、光の力を呼び起こそうとしている。

その行動は、桃源にとって理解しがたいものだったが、黒曜の言葉には、嘘偽りがないように思えた。


その時、石の巨人が再び巨大な拳を振り上げ、桃源たちに襲い掛かった。


「来るぞ! 守護神の攻撃だ!」


桃源は、犬彦と猿丸に後退するよう指示し、再び太刀を構えた。

しかし、石の巨人との戦いは、絶望的な状況だった。


その時、黒曜の体が強い光を放ち始めた。

その光は、徐々に強くなり、遺跡全体を優しく包み込む。


「これは…… 神聖な光の力……!」


光の民の末裔は、驚愕の表情で呟いた。


黒曜が呼び起こした光の力は、石の巨人から放出される大地の力と拮抗し、遺跡全体をこれまでとは異なる神聖な光で満たしていく。


「守護神よ……」


「やめろ!」


「お前の役目は終わった……眠りにつけ……」


光の民の末裔の制止の声をかき消すように黒曜の声は、先ほどよりも力強く、威厳を帯びていた。

その声に応えるように、 石の巨人の動きが鈍くなり、やがて、その巨大な体は、石へと姿を変え、静かに崩れ落ちた。


「な……なんてことを……」


「光の民の末裔よ……貴様も……眠れ……」


黒曜の声に、光の民の末裔は糸が切れたかのように倒れこんだ。


「 黒曜……お前は一体……」


桃源は、目の前の光景に驚きと困惑を隠せなかった。

黒曜が、光の力を呼び起こし、遺跡の守護神を鎮めた。

それは、予想だにしなかった奇跡だった。


「わしは……光の民だった……そして……この神聖な地を守る者……お前たちを……試すために……この力を呼び起こした……」


黒曜は、優しく穏やかな声で答えた。

その体は、さらに神々しい光を帯びている。


「試す……?一体何を……?」


桃源は、ゆっくりと黒曜に近づき、問いかけた。


「お前たちが……この神聖な地に眠る神秘の力を……扱うに値する存在かどうかを……」


黒曜の言葉に、桃太郎は眉をひそめた。


「 神秘の力……?それは一体……」


桃源の問いに、 黒曜は穏やかな光を放ちながら、遺跡の中央にある祭壇へと目を向けた。


「あれこそが……水の都へと続く道を開く……神秘の力……『幻夢玉』……」


黒曜の言葉に、桃源の目は、祭壇の上に置かれた光を放つ物体へと向けられた。

それが、水の都への道を示す神秘の力、『幻夢玉』。

しかし、それは、同時に、 様々な危険を孕んでいることも、桃源は感じていた。

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