マッチョだけど乙女ゲームの儚げなヒロイン侯爵令嬢に異世界転生しました。イケメン全員ルート攻略しないと生き返れないって、マジで言ってるの? 仕方ないから筋肉パワーで無双します!
第43話 アウル、一緒に組んでくれないか?
第43話 アウル、一緒に組んでくれないか?
炎のパフォーマンスが終わった後も、中庭の熱気はしばらく冷めなかった。
笑顔を浮かべた生徒たちが、それぞれに興奮を分かち合う声が広がっていく。
「リミュちゃん!」
草属性のフローラ=グリーネルが駆け寄ってくる。小柄な体に花の香りをまとわせ、目を輝かせていた。
「どうした、フローラ?」
「ね、リミュちゃん、今夜、肝試しに行かない?」
「……肝試し?」
「うん! 仲良くなった子に誘われたの。夜の城の中を探検するんだって」
フローラは小さく胸を張って、嬉しそうに笑った。
「それ、いいのか?」
「学校側は『知らないことになってる』みたい。でも、毎年やってるんだって――上級生が言ってたよ」
公然の秘密。お目こぼしされている、ということなのだろう。
夜の城。
月明かりに照らされる白い石造りの回廊、かすかな蝋燭の匂い。
そこに潜む未知の影と、普段は見られない仲間の顔──想像するだけで、リミュエールの胸は自然と高鳴った。
「肝試しか……面白そうだな」
「でしょ? それに、いろんな属性の新入生が集まるから、ちょっとしたお祭り気分みたいなものかも」
「よし。じゃあ、行くか!」
リミュエールが笑うと、フローラもぱっと顔を輝かせた。
✩⋆。˚╰(°ㅂ°)╯・゚˚。⋆✩
夜の中庭は、すっかり別の顔を見せていた。
昼間の賑わいは静まり返り、闇に溶け込むような静けさが広がっている。
それでも、中庭には色とりどりの光が灯り、いくつもの属性の新入生たちが集まっていた。
「思ったより……ずいぶん集まってるな」
「だって、面白そうだもの」
フローラが楽しそうに笑う。
その横では、風属性の生徒がそよ風を起こして、ローブの裾を軽やかに揺らしていたり、水属性の生徒が手のひらで水玉を遊ばせていたり。
小さな競い合いのような魔法の披露に、笑い声と歓声が混じる。
(……雷属性の仲間もいるだろうな)
そんな風に目を走らせるリミュエールに、ふと鮮やかな炎の明かりが目に映る。
「あれは……イザルナ?」
イザルナ=フレイアークが、指先に小さな炎を灯している。
その紅い瞳は相変わらず鋭く、けれど炎に照らされているせいか、いつもより柔らかく見えた。
「……ふん」
目が合うと、イザルナはわずかに顎を上げて視線を逸らした。
それでも、指先の炎が周囲を淡く照らす。
闇の中で、その炎がまるで守り火のように見えた。
リミュエールも、目の前に人差し指を立てる。
「ふんっ!」
雷の魔力を込めると、ぱちぱち、と火花が散った。
「……明かりにするには、持久力がないねぇ」
「うむ。精進だな」
「さあ、新入生は三人一組になって進んでもらいます! 尖塔の先に、ろうそくを用意しました! それを持ってきたら肝試し成功です!」
少し押さえた声が響くと、中庭はにわかにざわめきに包まれた。
「誰と組もうかな……」
「ええ、やっぱり仲良しの子とがいいわよね」
「どきどきするなぁ」
笑い声と期待が溶け合うその中で、リミュエールはフローラと顔を見合わせた。
「リミュちゃん、一緒に行ってくれる?」
「もちろん。他に誰がいるんだよ」
リミュエールが即答すると、フローラはぱっと笑みを咲かせた。
「じゃあ、決まりだね!」
周りでは、少しずつペアやグループが決まりはじめていた。
炎属性の子は引っ張りだこだ。なぜなら、暗闇を照らす明かりを出せるから。
続いて、風属性も人気だ。炎と組めば、風で炎を調整できて、盤石の体制になる。
グループが決まった生徒たちは、さっそく明かりを魔法で灯し、準備に余念がない。
「……でも俺たち、どうやって明かりを出したらいいんだ?」
リミュエールは少し困ったようにフローラを見る。
「困ったねぇ……」
フローラは苦笑する。草属性の彼女には、暗闇を照らす魔法はなさそうだ。
リミュエールの雷は火花を散らすくらいならできるが、周囲を安定して照らすにはまだ練度が足りない。
(炎属性の子を誘わなきゃ……)
そのとき──。
暗がりから、ふっと顔をのぞかせた少年がいた。
アウルだ。
「もしかして、困ってる?」
いたずらっ子のような無邪気な笑顔を浮かべて、彼は近づいてくる。
「アウル! フローラ、こいつがこの前話したアウルだよ。光属性で、雷の道のアドバイスをくれたんだ」
「こんにちは、フローラ嬢。噂は聞いてるよ」
「……あ、どうも……です」
フローラは目をぱちくりさせてアウルを見つめた。
「そうだ! アウル、一緒に組んでくれないか?」
「いいよー。楽しそうだねぇ」
アウルはにこにこと笑いながら、快く頷いた。
こうして、3人組ができあがった。
アウルが指先をすっと動かすと、ランタンのような光がぽうっと灯る。
それはまるで本物のランタンのように、強くて安定した光だった。
夜の暗がりに浮かぶ、それぞれの明かり。
それはまるで夜空に咲く花のようで、リミュエールの胸に小さな火を灯した。
(こうしてみると、本当にいろんな奴がいるんだな)
雷だけじゃない。水、風、土、草、そして光や闇の力を持つ者たち。
それぞれが自分の色を持ち、だからこそこの夜は、こんなにも鮮やかで楽しい。
「行こう、フローラ。アウル」
「うん!」
フローラの声が弾み、アウルもいたずらっぽく微笑む。
夜の城の扉が、静かに開かれていく──。
✩⋆。˚╰(°ㅂ°)╯・゚˚。⋆✩
夜の城は、日中の穏やかな顔をすっかり隠していた。
廊下を照らすのは、月明かりとアウルの指先から生まれたランタン型の光だけ。
足音が石畳を叩くたび、小さな反響が闇に吸い込まれていく。
「ひゃっ……リミュちゃん、やっぱりちょっと怖いかも……」
フローラが袖をつかんでくる。肩をすくめて、か細い声を漏らすその様子は、普段のおっとりした笑顔からは想像できないほどだった。
「心配ないさ。不審者がいたら、力で制圧する」
リミュエールは冗談めかして笑い、フローラの肩を軽く叩いた。
胸の奥で、雷のような衝動が静かに鳴り響く。
(この先に何が待っているのか──楽しみだ)
「……ほんと、リミュちゃんは頼もしいなぁ。冗談に聞こえないよ? ……冗談だよね?」
フローラは小さく笑いながらも、まだ不安そうな目をしている。
アウルはその横でくすくすと笑い、光を操る指先をかざす。
「面白いなぁ、君は」
ランタンのように灯る柔らかな光が、アウルの無邪気な笑顔を照らしていた。
夜の静けさの中で、その笑顔はひときわ柔らかく感じられた。
そんな3人の前で、遠くから何かの物音が響いた。
「……?」
リミュエールは立ち止まり、耳を澄ます。
小さく何かが擦れるような音──人の気配だ。
「今の音……」
フローラが不安そうに呟く。
リミュエールは目を細め、音のした方をじっと見つめた。
闇の向こうに、月明かりに淡く浮かび上がる人影があった。
長身の男のように見える。
「……怪しいな」
呟くが早いか、リミュエールは駆け出していた。
「リミュちゃん!?」
フローラの声が背中を追いかける。
だが、もう止まれなかった。
胸に鳴る雷鳴に突き動かされるように、足が自然と前へ出ていく。
暗がりを駆ける。
石の回廊が次々と目の前を流れ、月明かりだけが頼りの淡い灯りだった。
それでも、心はなぜか静かだった。
(誰だ……? なぜこんな夜に……)
人影は遠くで角を曲がり、リミュエールは迷わず追う。
途中で振り返る余裕などなかった。
やがて、古びた扉の前にたどり着く。
薄暗い光に浮かぶ看板に、くっきりと刻まれた文字。
その場所は、かつて王家の魔導書や秘伝の巻物が集められていた特別な部屋だと聞いたことがある。
城の奥深くにある
かつて王族が集めた膨大な知識と秘術が、そこに眠っているという。
普段は固く閉ざされているはずなのに……扉はほんの少し、開いていた。
(まさか……!)
リミュエールは迷わず扉を押し開けた。
重い扉を押し開けると、埃と古い魔力の匂いが一気に鼻をつく。
棚に並ぶ革表紙の書物は、どれもただならぬ気配を放っていた。
部屋の中は、ひんやりとした空気に満ちている。
そして──部屋の奥で何かを探している人物の後ろ姿があった。
「誰だ!」
リミュエールの声が魔法庫に響き渡る。
その声に反応するように、人物はゆっくりと振り返った。
月明かりに照らされるそのシルエット。
黒髪に鋭い紫の瞳。
──クローディア=ローゼンベルグだった。
✩⋆。˚╰(°ㅂ°)╯・゚˚。⋆✩
思わぬ人物との遭遇。
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