第7話 桃太郎、鳥を仲間にする
久々にゆっくりと睡眠が取れ、休めたおかげで体が軽くなった。朝食を簡単に済ませ、また、東に向かって旅にでる。次第に木々の緑も1枚、2枚とちらほらと目立ってきた。嫌な重々しくじっとりと纏わりついていた空気も徐々にさらりとしてくるようになった。
「久々に新鮮な空気を吸ったな……」
俺は鼻から入る空気が清々しく、気分も晴れてか、ポツリと呟いた。トイプルもスキップするように楽し気に歩いている。上を見上げれば、まだ靄のかかってはいたが、薄っすらと明るい気がした。
「何か感じますね」
トイプルはキョロキョロと周りを見た。特に怪しいものは、見当たらない。それどころか『邪気』というより『神気』を感じ、すがすがしくなんとも心が穏やかになる、そんな感じだった。
「なんだ、なんだ! この神々しい気は!?」
サルのヒデは、この『気』が気に入らないらしい。さすが、『魔王の器になる』と言っているだけの事はある。トイプルは相も変わらず、キョロキョロとしながら、地面の匂いを嗅ぎ歩く。その後を俺とヒデは付いて行った。
「何か、この先にいます」
トリプルは緩やかな傾斜を早足で歩き出した。俺はその後を追いかける。
「トイプル、何処まで行くんだ?」
「こっちです!」
緩やかな傾斜は段々と角度をつけてくる。俺は、スピードを上げて走って行くトイプルを必死に追いかけた。ヒデは四つん這いになって何食わぬ顔をついて来ている。
必死でトイプルの後を追いかけると、小高い丘の上に小さな池があり、古びた寺院が立っていた。池の水は少し離れた自分たちにも分かるくらい透き通って見えた。
「あ!」
池を見れば、そこに優雅に水を飲んでいるキジが――キジ?
「あれはキジか? キジじゃないよな? キジはあんなに青くないし、もうちょっと小さい」
池で水を飲んでいる青みかかった鳥は、どう見てもキジではなかった。
「桃太郎様、可笑しなことを言うんですね。あれは、どう見てもキジ科の孔雀ですよ」
「は? 孔雀? いや、俺が捜しているのはキジであって、孔雀じゃない」
「え? 同じですよ。両方ともキジ科です。鳥です!」
まあ、鳥だな。キジ科には間違いない。だけど孔雀だ。俺はキジを捜している。
孔雀は凛とした佇まいで、水を飲んでいた。こちらに気づくと、ふわあっと大きく鮮やかな飾り羽を広げる。その模様は目玉のように見え、こちらをじっと観察しているように見えた。
そして、「ヤーン、イヤーン」と甲高い声で鳴く。その声が耳にキーンとなるくらい甲高いものだった。
「ほら、桃太郎様。きび団子を上げてみてください」
「おい、食べれるのか?」
「だって、桃太郎様。キジにきび団子を上げるつもりだったんですよね。だったら、孔雀も食べれますよ」
トイプルの説明に「それもそうか」と俺は納得し、腰に下げていたきび団子を孔雀の前に持って行った。孔雀はじっと俺を見つめる。その目は俺を威嚇するかのようだった。一歩、二歩と俺は下がる。すると、長い首を下げ、きび団子に突っついた。一突きしては、こちらをじっと伺い、もう一突きしては、またこちらを見る。それを数回繰り返し、最後にかなり小さくなったきび団子を一口で食べた。
俺はじっとキジの……否、孔雀の変化を観察した。
「あなた方は、どこからきたのか?」
ああ、やっぱりきび団子を食べたら、話せるようになっていた。しかもあれだけ甲高い声で鳴いていたにも関わらず、話始めれば、低めの味のある声だった。
「俺たちは、西の方からやってきました」
「そうか、この先は危険だ。帰った方が良い」
帰れと言われて帰れるわけがない。ヒデは、キッキーッと怒っている。
「は? そういう訳にはいかない。危険なのは分かっている。魔王を討伐しようとおもっているんだからな」
「魔王討伐だと?」
「孔雀さん、桃太郎様と一緒に魔王討伐に行きませんか」
トイプルは首に付けた鈴をチリン、と鳴らし、孔雀を誘う。
「その鈴は……神楽鈴ではないのか?」
「はい」
「という事は、お前は巫女か?」
トイプルは飛び跳ねる。
「トイプルは呪いで重要な事は話せなくなっているらしい」
「呪いか? まあ、我のこの姿も一種の呪いだな。同じように大事な事は話せなくてな……」
「お前も人間か?」と俺は孔雀に聞いた。
やはり、孔雀もトイプルと同様、そういった類の事は、話せなくなっていた。孔雀は、返事をする代わりに頷く。
「それより、先程のきび団子は誰が作った物か?」
きび団子を食べた途端、言葉で話せるようになったので、孔雀は不思議に思ったのだろう。俺は、もう驚かないが。
「かぐや婆さんだ。きび団子にまじないをかけたと言っていた」
「かぐや婆さんだと?」
「はい。かぐや姫でございます。月からお戻りになっているようです」
「おお、かぐや姫か? 懐かしや。この呪いが解ければ一度お会いしたいところだが」
孔雀の表情にあまり変化が無かったが、言葉に懐かしさが籠っていた。
「それより呪いを解く方法があるのか?」
「あるにはあるのだが、呪いの事は重要な事のようで話せないんだ。言えるのは『浦島太郎』ぐらいだ」
「なんだ? また太郎か? この国には太郎が多すぎる」
サルのヒデは不機嫌そうな顔で言う。
いや、桃太郎と浦島太郎だ。省略するから、ややこしくなるんだよ。
「浦島太郎に会いに行けばいいのか?」
「いいや、浦島太郎はここにはいない……この先から言えないが、あれさえあれば解けるはずだ」
浦島太郎のあれとはなんだ?
「まあ、良い。孔雀よ、魔王討伐に一緒に来てくれ。ついでに浦島太郎のあれも探そう。ついて来てくれるか?」
「ああ、お供しよう。我はインドクと申す。三方の名は何という?」
「俺は、桃太郎。そして犬の方はトイプル。そしてこいつはサルだ」
「おい! サルって呼ぶな! サルと呼んでいいのは魔王様だけだ!」
ヒデは相も変わらず真っ赤な顔で怒る。まあ、怒って無くても赤いんだが。
「ああ、わりぃ……こいつはサルのヒデだ。復活する魔王様の器になる男らしい」
「ほお、魔王の器ねえ。それは興味深い。ヒデ殿、魔王がその体に入った暁には、容赦なく討伐させていただくぞ」
「誰が、お前らなんかに討伐させられてたまるか! 魔王様復活を首を長くして待っていたのに!」
「はあ? ヒデ。お前の首は長くなっていないぞ。長くなるっていうのは、ろくろ首のようなことを言うんだ!」
「太郎! 魔王様が俺の体に入り込んだら、覚悟しとけよ!!」
キッキー、キッキーとヒデは威嚇してきていた。まあ、俺も先に進まなければならないから、いつまででもヒデの相手をしている場合ではない。まず、しなければならないのは、呪いを解くことだな。浦島太郎のあれを探さなければ。だが、結局あれってなんだ? 何かしらのアイテムだと思うが。
「まず、浦島太郎のあれを探すとして、どこを探せばいいんだ?」
俺は浦島太郎の話を思い出してみた。確か――。
「浦島太郎様と言えば、カメを助けて竜宮城ですよね。でも、そんなところに行けるわけがありません」
トリプルの説明にインドクと俺は頷く。しかし、竜宮城へはきっと行けないだろう。それよりか――。
「浦島太郎って言ったら、俺はあれしか思いつかないんだが……」
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