第6話 トイプル、舞う
キジよ、キジ。何処にいるんだ?
俺たちは、ひたすら東に進む。魔王の元にたとりつく前にキジに会えるのか、少々焦りも出て不安になってきた。
先に進むにつれて、周りの様子もおかしい。木はもちろん、下生えの雑草も枯れているわけでもないが元気がない。
旅に出て何度目かの黄昏時を迎えた。薄く
「桃太郎様、今夜はこの辺で野宿になりますね」
不気味な状況に犬のトイプルはブルブルと震える。
「何を怖がっているんだ、犬。お前のお仲間が吠えているだけだろ?」
冷やかすように言うサルのヒデに、トイプルはヒデを睨み付ける。
「こ、怖くなんか……ありません! でも、流石にまた変な輩が出てくる可能性もありますよね。そこで、桃太郎様。一つお願いがございます。きび団子をもう一つくださいませ」
「は? 犬、意味が分からん。ただ、腹が減っただけなら、そう言えばいいだろう!」
ヒデは、トイプルを見下したように笑いながら言った。
俺たちの食料は、きび団子だけではない。しかも、きび団子を食べさせたのは、初めて会った時の一回限りだ。それ以外は、草や魚、肉と言ったものを食べていた。だから、トイプルなりの考えがあるのだろう。
「わかった」
俺は、きび団子を一つトイプルに上げた。トイプルは俺の手の上にあるきび団子の匂いを嗅ぎ、そしてゆっくりと食べ始めた。一度目のように、貧欲に食べることはなかった。
「おい! 俺にもくれ! きび団子」
ヒデが俺の後ろで裾を引っ張る。その表情はサルらしく俺を威嚇するかのようだった。そんな顔を見せられて、「はい、どうぞ」とやれるわけがない。
「いや、ヒデにはやらぬ。魔王が降臨する器になる奴に食べさすきび団子は無い!」
「ケチくせぇこと言うな!」
「それが、人に頼む態度か!」
俺とヒデが言い争っていると、シャリン、と音が鳴った。俺とヒデは音のなった方を見た。もう一度、シャリン、と鳴る。
「あ、あれは……神楽鈴?」
トイプルが、いつの間にか神楽鈴を口に銜えて、飛んだりしゃがんだりと踊っていた。
シャリン、シャリン、シャリン、シャリン、シャシャンシャンシャン――
すると、地面に魔法陣が青白く光り出し、自分たちを中心に、半透明な薄い膜が直径7、8メートルほど広がった。天を見上げればドーム状になっており、すっぽり自分たちを中に囲い込んでいる感じだ。
「こ、これは? もしかして結界? トイプル、凄いぞ!」
俺は、トイプルの方を見た。けれど、トイプルはぐったりと横になっている。慌てて、トイプルのそばに行き、抱きかかえた。いつの間にか神楽鈴も無くなっていた。
「おい! 大丈夫か!?」
ゼコゼコと肩で息をするかのようにしていて、かなり辛そうだ。
「はっ! 大した魔力を持っていないくせに、結界なんか張るからだ!」
俺は、そう吐き捨てるように言うヒデに「何てことを言うんだ!」と蹴飛ばした。
「こ、これで、一晩ぐらいは……やっかいな……ものから、守れます……。一晩、ゆっくり……や、休んで、下さい」
トイプルはそう言い終わると、ゆっくりと目を閉じ、寝息を立て始めた。俺はトイプルに毛布を着せ、地面にそっと置く。地面は少し冷たい。体が冷えないだろうかと心配になり、近くにある落ち葉を広い集め、その上にまたトイプルを毛布ごと下ろした。こうすれが、少しはマシだろう。
トイプルは、俺が夜になっても殆ど寝ていない事を知っていたのだろう。流石に魔物、魔族を倒しながら、睡眠不足はきつくなってきていた。それを見かねて結界をはってくれたんだと思う。ゆっくり休んでほしいと。
そこで、疑問があった。そうだ、何故、トイプルは結界を張れたのか、神楽鈴をどこから持ってきたのか、だ。一人で考えても分からない。
「ヒデ。お前なにか知っていたら教えてくれ。トイプルが何故、神楽鈴を……」
「はあ? 犬が神楽鈴をどうして持っていたか、聞きたいのか? 太郎は、馬鹿だな! そんなもん初めから決まっている。最初から持っていたんだ」
「え? どこに……」
ヒデは、自分の首に指を向けた。
「あ、言われてみれば……」
トイプルの首に鈴が付いていた。時々、チリン、と小さな音を出していた。あれが神楽鈴だったのか。段々とトイプルの正体が見えてきた。魔力、そして神楽鈴。多分、彼女は人間で……。
「クッソ生意気な、巫女だな」
「はあああ?」
俺はヒデをもう一度蹴飛ばそうとして、避けられる。ヒデは尻を俺に向け、パンパンと叩く。
「くうううっ! イラつくサルだ!」
「サルって言うな!」
俺とヒデは暫くバチバチと睨みあったが、せっかくトイプルが体力、魔力を使って結界を張ってくれた。ここでしっかりと睡眠をとって休息を取らないといけない。俺は、毛布をかぶり「もう、寝る!」と横になった。
目を閉じながら、考えていた。さっきもヒデが言っていたが、トイプルは俺から見ても魔物や魔族の類とは違い、きっと「巫女」だろうと思った。あの鈴が……神楽鈴が神の儀式の舞に使う物だ。どういった方法で結界を張れたのか分からないが、本来の姿は巫女なのだろう。
頭の中でいろんな事を考えている間に、俺は眠りについた。
翌朝、俺は頬に冷たいものを感じ、重たい瞼を開く。ぼんやりと視界が広がるはずが、犬の顔が近くにあり、びっくりして目が覚めた。目を見開いて飛び起きる俺を見ながらトイプルは挨拶をする。
「おはようございます、桃太郎様! ふふふ、あんまり目を開けすぎると、落ちてきてしまいますよ」
何が? 落ちるって?
慌てて俺は目を手で押さえる。否、本当に落ちて来るはずがないのは分かっていたが、俺はそれほど驚いたんだ。だって、目を開けたら茶色い犬の顔が、とても可愛く見えたんだぞ。不意を突かれたようで本当に驚いたんだ。
犬のトイプルに可愛いと思ってしまった事に俺の顔が熱くなる。
「おい! 太郎。顔が真っ赤だぞ!」
俺の異変に気付いたヒデにそう言われると、少々腹が立つ。
「ヒデより赤くない!!」
それよりも、トイプルだ。昨日はあんなに辛そうだったのに、もう大丈夫なのだろうか。
「トイプル、大丈夫か?」
「はい。一晩ゆっくり休めたので、大丈夫です。私なんかより、桃太郎様は休めましたか? 野宿だとゆっくり休めなかったので、心配しておりました」
「ああ、お陰様で、久々にゆっくり寝れたぞ。ありがとうな……かなりの魔力を使ったんだろう? 本当にありがとう。ところで、トイプルは、もしかして巫女なのか?」
俺の問いに、トイプルは、うんうんと首を縦に振った。ただ、やはり呪いの所為か、大事な事は話せなかった。俺はトイプルの頭を撫で、「きっと呪いをといてやる」と言うと、嬉しそうに微笑んだ。
「きび団子を食べたら、首の神楽鈴が元の大きさに戻りました。実は、もしかしたらと思っていたんですが、元の大きさに戻せるかは、きび団子を食べてみない事には分かりませんでした。ただ、きび団子を作っていただいた方が、かぐや姫様であれば、可能性があるかと。神楽鈴があれば、結界を張ることや火魔法以外に出来ることが増えるはずです」
「あとはどんな事が……どんな魔法が使えるようになるんだ?」
「そうですね……、…………」
またトイプルの口だけがパクパクとして声が出ない。大切な事を言おうとしている事は理解した。やはり、魔王討伐までに、トイプルの呪いを解かなければと、俺は思った。
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