第3話 桃太郎、犬を仲間にする
俺はこの世界に転生して『桃之介』から『桃太郎』に改名した。『桃之介』も悪くはないが、やっぱり俺は『桃太郎』が良い。
いつまでも心配する父さんと母さんを置いて、家を出て半日東に歩くと、ぐったりとしてうずくまっている茶色の犬を見かけた。見かけたが、いつもの柴犬ではない。
これは……違うよな。
鬼退治の時は、勇敢な柴犬を連れていたが、この犬は違う。柴犬じゃないし、見た目も貧弱で弱そうだ。クリクリな丸い目に、だらんと垂れた耳、首には首輪がついており小さな鈴がついている。毛がクルクルと強く巻いてカールしていた。どう見ても、三角にピント立った耳と丸まった尾、身体は筋肉質でがっしりしている柴犬とは程遠い。しかも前足に怪我をしていた。
「可哀そうだけど、君じゃあ、魔王討伐は無理だね……」
俺が犬に向かってそう呟き、そっと頭を撫でと、犬はつぶらな瞳で俺を見つめる。前足の怪我を見ると、痛々しい。これでは、歩くのも大変そうだ。
「ここで会ったのも何かの縁だな……」
俺は、痛々しい怪我をしている犬をそのまま見て見ぬふりが出来なかった。医者様のおっさんからもらったポーションとやらが、犬に効果があるか分からなかったが、少し飲ませてみようと思った。ものは試しだ――。
徳利1本は多いだろうと、手のひらに少量を乗せ、犬の口元に持っていく。当然の如く、犬は匂いを嗅き、顔を顰めた。
「良薬は口に苦しだ! ほら、少しでも飲め……」
そう言うと、犬は暫く俺の顔を見つめ、また手のひらの方に顔を近づける。もう一度匂いを嗅き、戸惑いながらもペロ、ペロと舐めだした。すると、少しづつ怪我が治って行く。傷が治り、痛みがなくなったのか、犬は立ち上がろうとした。しかし、体力がないのか、足がガクガクし産まれたての小鹿のようだった。
このままでは、生きていくのは無理だろう。だが、魔王討伐には連れて行けない。やはり、連れはやっぱり柴犬だな。
この犬はさっきから、まだなにか言いたげに俺をじっと見つめる。多分、あれだろう。犬は嗅覚が優れている。匂いがするのかもしれない。
「はあ、仕方ないな。腹減ってんだろう? 一つだけだぞ。ほら、きび団子だ」
今度は手のひらにきび団子をのせ、犬の顔に突き出した。犬は、瞳を輝かせクンクンと匂いを嗅ぐと、パクリと一口で口の中に入れた。
「おいおい、よく噛んで食べろよ!」
犬は美味しそうに暫くモグモグして食べていた。よほど腹を空かせていたんだな。少しでも元気が出れば、この先何とか生きて行けるだろう。
「じゃあな、元気でな」
と犬の頭を数回撫で、その場から離れようと2、3歩、歩いくと、「待ってください!」と女性の声が聞こえた。振り向いても誰もいない。気が付けば犬が、足元に来ていた。もう一度周りを見る。やっぱり誰もいない。
俺は空耳だと思い、また歩き出す。すると、「魔王討伐にお供させてください」と聞こえた。俺はまた振り向く。振り向いても、やはり誰もいない。いるのは足元の犬だけ。
「こわっ! 誰もいねえじゃねえか……」
「ここです!」
ん? 足元から声が……。下に目線を向けると、「私です!」と犬が叫んだ。
「え? 犬? はあああああ? 犬がしゃべった!?」
俺は、ジャンプして2mほど後ろに下がった。犬はちょこんとお座りをし、相も変わらず、つぶらな瞳で俺を見つめて来る。
「魔王討伐に一緒に連れて行ってください。きっとお役に立てるはずです!」
そう言われても、俺が求めている犬はこいつじゃない、柴犬だ。それに――。
「え? あ、い、いや、お前……さっきまで立つのがやっとじゃなかったか? それに弱そうだから無理だ。筋肉質でがっしりした犬が良いんだ」
「体力なら、回復しました。それに、そんな筋肉バカより、絶対私の方がお役に立てるはずです! せめて、その筋肉バカに会うまで私をお供させてください!」
筋肉質の犬が良いといえば、この犬は、筋肉バカより役に立てると言う。俺は、面白い犬だな、と笑った。
「今、私の事を馬鹿にしましたね?」
「違う違う。筋肉質の犬を筋肉バカの犬と言った事がおかしかったんだ」
この犬はやっぱり、つぶらな瞳で、そしてうるうるとさせ俺を見つめてくる。
ああ、どうすっかなあ……。
俺は空を見上げ、暫く考える。
まあ、旅は道ずれ世は情けだな。旅は一人より二人だ。一匹だが……。
「まあ、良いだろう。連れて行ってやるよ。その代わり危険な旅だ。覚悟しとけよ。俺は、桃太郎だ。お前は、名前はあるんかいな?」
そう言うと犬は目を輝かせて、嬉しそうに尾を振っていた。
「はい。トイプルと申します。ちなみに女です!」
「トイプル? 変な名だな……」
シャキンとトイプルは凛々しく見せる。チリリリンと首に付いていた鈴も可愛らしい音を立てて鳴った。
動物だから、そこは女ではなくメスなのでは?
同じといえば同じだけどな。しかし、柴犬と比べると小さい。メスだからなお、そう見えるのかもしれない。
「ところで、一つ疑問があるんだが……何故話せるようになった?」
「それは、さっき食べたきび団子のおかげではないでしょうか? それに……」
犬が口をパクパクさせて、何かを伝えようとしているが聞き取れない。犬が悔しそうな顔をする。俺は首を傾げた。
「それに、の後が聞き取れないのだが、何だ?」
そう聞くと、犬はもう一度パクパク口を動かす。けれど声が出ていない。そして、悲しそうな顔をした。
やっぱり変だ。何か大事な事を言おうとすると、声が出ないようだ。
「まあ、話が出来るようになったのは、きび団子のおかげだと言うんだな。そういえば、かぐや婆さん、まじないがどうとか言っていたな」
「かぐや婆さん? もしかして、かぐや姫ではないでしょうか? 月から戻ってきていらっしゃっていたんですね。おお、懐かしや……」
は? 月? 月ってあの月か? 空にある月か?
ブッちゃん、どうなっているんだよ。この世界は――。
ブッちゃんが『いろいろアイテムを用意してある』と言っていたが、これもその一つなのかもしれない。
「かぐや婆さんの事も知っているのか?」
「ええ? 知っております。彼女の本当の姿も知っております」
本当の姿だと?
「彼女は、月から来た……わわわ、これは他言無用でした」
まあ、一匹仲間が増えたわけだが、これで良いのか?
柴犬には会えるのか?
俺は心配になってきた。
次の日、俺とトイプルは東にひたすら向かう。途中、小さい川があり、そこで一旦休憩することになった。トイプルは川の水をピチャピチャと飲んでいた。俺も木陰に入り、少しうたた寝をしていたが、近くの茂みでガサガサと音がし、目が覚める。俺は刀に手を持ち柄を握り、神経を尖らせ、周辺の様子を窺った。
ガサガサ、ガサガサ――。
一瞬、ひやりとした殺気を背中に感じた――とたん、何かが茂みから飛び出して来た。俺は剣を鞘から抜き、構えた。向こうも俺が剣を手にしたことで、動きが止まったが、止まった所が空中だった。
「……っ! あれが……魔族か?」
見た目は一枚の黒衣をまとい背には羽があり、パタパタと動かしている。そして、棍棒を握りしめ、こちらを真っ赤な目で睨みつけていた。
初めて見る魔族に、俺は一歩下がってしまった。それを見た魔族は、不気味にニヤリと笑うと、一気に俺に目がけて飛んできた。
俺は横っ飛びし、魔族の攻撃を躱し、体制を整える。魔族はお構いなしに棍棒を持ち、スピードを上げ、またこっちへ飛んできた。俺は棍棒を剣で受け止め、その反動で素早く後ろに数メートル下がった。
「今度はこちらから行くぞ!」
両足を曲げ勢いをつけ、魔族の間合いに飛び込むように、剣を振り上げ袈裟懸けに斬った。
「ギャーッ!」
魔族は地面に落ち踠く。俺はそのまま剣を魔族の体に突き刺した。暫く苦しそうに動き足掻いていたが、パタリと動かなくなった。
俺は嘆息をし、剣を抜いた。
「桃太郎様、凄いですね。一発で魔族を仕留めるとは。私の出番がありませんでした」
いつの間にか俺の足元に戻ってきたトイプルが、軽くピョンピョンと跳ねながら、言う。こうやって見ると可愛い犬だな。
しかし、こんな可愛い犬が魔族相手にどうやって戦うんだというのだ。
すると、今仕留めた魔族の死体が融けるように砂状になり、消えて行った。
「なっ!! なんだ? どうなっているんだ?」
「桃太郎様、もしかして初めてですか? 魔族を
「あ、ああ……魔族って、死ぬと砂になるのか?」
「はい」
鬼とは違うんだな、まあ、当然か……。
「さあ、トイプル。休憩は終わりだ。先に進むぞ!」
「はい!」
俺とトイプルは、また東へ向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます