第2話 桃太郎、刀ときび団子を手に入れる
俺は何かと心配性の父さんと母さんを何とか説得させた。
魔族にやられてケガをして、三日も寝込んだ息子だから、心配するのも仕方ない。しかし、俺は魔王を討伐しないといけないのだ。
ブッちゃんは何も言わなかったが、途中から俺がこの体に入ったという事は――元の体の持ち主は、もうこの世にはいないのだろう。だが、勇敢にも魔族と戦ったのだから、もしかするとブッちゃんが何処かに転生させている可能性も無きにしもあらずだ。〇〇退治をさせられていなければ、良いのだが。
怪しいおっさんのお医者様は、俺が魔王を倒しに行くと聞いて吃驚仰天していたが、それならばと傷を治すポーションの入った徳利を8本置いて行った。それも
兎に角、討伐に行くためには、まず武器だ。前世では、爺さんが何処かでそこそこ良い刀を調達してくれたが、今世では時間がない。自分で良さげの武器を探した方が早そうだ。武器になるものがないか、家中を探す。土間や押し入れを探すが、何も出てこない。家の中を見れば、この暮らしがどんなものかある程度わかる。食べて暮らしていくのが、やっとってところだ。そんな家に武器になるものといえば、たかが知れている。
「何かないかな?」
武器なら何でもいい。刀が無いなら、槍でも弓でも良い。なんなら金棒でも……あれは鬼の持つものだな。あれに当たると、すげぇ痛かったなあ。俺は自然と右わき腹を擦った。何回目かの前世では、右わき腹に金棒を喰らった事があった。今の体で喰らったわけでもないが、痛みだけは忘れていない。あの時の人生は、そこで終わった――。
色んな所を物色している俺に、父さんが屋根裏に何かあるかもと言ってきた。父さんの言葉に淡い期待を持ち、暗い屋根裏に上ってみる。板と板の間から陽の光が差し込んでいた。俺はその光を頼りに、何か入っていそうな埃まみれになっている
「お、あるじゃねえか……これは、二刀流が出来るのか?」
二本とも鞘から抜くと、差し込んでくる陽の光が刃をギラリと光らせる。何故、この家にこれだけの刀があるのか。これがブッちゃんが言っていたアイテムなのか。
良いじゃねえか、これは使える。
俺は二本の刀を持ち、構える。一度してみたかった憧れの二刀流だ。しかし、構えて見たものもしっくりこない。振り回しても以前のような動きにならない。流石に宮本のむっくんのようにはいかないな。当たり前か、二本とも同じ長さだからな。長さの短い脇差があれば二刀流も出来るんだろう。
「これじゃ、ダメだな。脇差として使えない。どちらとも同じ長さだから1本ダメになった時の事を考えて持っているか」
さて、次に必要な物を考える。やっぱり、あれだろう。桃太郎といえば……。
「母さん、きび団子作ってくれ!」
俺は昼食を作っている母さんに頼んだ。
「きび団子? そんなもの私は作れないわよ」
「ええ? 作れない?」
桃太郎と言えば、きび団子だろ? きび団子が無ければ話が進まない。ブッちゃん、どうなっているんだよ。と俺は心の中で呟く。
「俺、どうしてもきび団子がほしい。母さん、どうにかしてくれよ!」
きび団子が無ければ、仲間を連れて行けない。犬にサルにキジ。アイツらは結構食べるから沢山いるんだ。俺が作るか? いや、下手に不味いものを作ってアイツらが仲間になってくれないと困る。
しかし、犬、サル、キジで、魔族を倒せるのかが疑問だ。鬼退治の要領でいけばいいのか?
しかし、きび団子が手に入らないとなるとどうする。
「ああ、もものす……桃太郎」
母さん、今、また桃之介って呼ぼうとしたな。まあ、言い直してくれたから、そのうち慣れてくれるだろう。
「母さん、作ってくれるのか?」
「無理よ。無理だけど、作ってくれるお婆さんがいるわ。2件隣のかぐや婆さんなら、頼めば作ってくれるわよ」
「本当か? それじゃあ、今から行ってくるよ」
俺は家を飛び出し、すぐ2件隣の家に走っていった。2件隣といっても、少し離れていて100メートルぐらい走った。周りをよく見ると水分が欠乏しているのか、土地は荒れ果て、作物もあまり育っていないようだった。この様子では養分も少ないのだろう。前世で体験した世界は、此処まで荒れていなかった。
2軒隣の家は、我が家より少しマシな家だった。扉を横にスライドし開けた。
「こんにちは!」
「はあい」
部屋の奥から声がする。暫く待っていると、腰を曲げた婆さんがひょっこり出て来た。
「おや? 桃之介じゃないかい? どうしたんだい?」
「ああ、婆さん。俺、名前を改名したから『桃太郎』と呼んでくれ!」
「あれまあ? 桃太郎? また立派な方の名前にしたもんだ」
かぐや婆さんは、皺皺な顔から瞳が落ちて来るんじゃないかと思うくらい、びっくりした表情をした。
「かぐや婆さん、頼みがあるんだけど、きび団子を作ってくれないか?」
「おやまあ? きび団子かい? いくつ欲しいんだい?」
「そうだなあ、15個ぐらいあればいいかな?」
「ほう、15個じゃな。えらいたくさんじゃのう。そうじゃのう、桃太郎様といえば、きび団子だからのう。今から作るから、待ってておくれ。その間に、外の薪を割ってくれると助かるんじゃが」
「ああ、容易い御用だ。手伝っていくよ」
丁度、体がなまっていたからな。良い運動になるだろう。
俺は裏庭に行くと斧を持って薪割りを始めた。
カーン……カーン……カーン……カーン……。
俺は一定のリズムで薪を割っていく。薪を割る音が周りに響き渡った。
やっぱり体を動かすと気持ちがいいな。
この裏庭も土が痩せているな。これじゃ、まともな作物も育たないだろう。
「あらまあ? 沢山割ってくれたね。ありがとさん。ほら、出来たぞ。持っていくと良い。薪を割ってくれたお礼に、きび団子にちょっとしたまじないをかけておいたよ。何かの役に立つと思うよ」
「おお!! かぐや婆さん、ありがとう! 婆さん、若い頃は別嬪さんだっただろう? 俺、婆さんの若い頃に会いたかったよ」
「ほっほう、桃太郎も口が達者じゃのう」
「じゃあな、婆さん。ありがとさん!」
俺は、かぐや婆さんにお礼を言って急いで家に帰った。しかし、あの婆さん本当に若い頃は別嬪さんだったんだろうな。身分の良い家柄だったら、求婚も引く手あまただっただろうに。
「父さん、母さん。きび団子が手に入ったから、俺、魔王退治に行ってくるわ!」
「本当に行くのか?」
「心配だわ!」
「まあ、『可愛い子には旅をさせよ』っていうだろ? 急ぐからもう行くぜ!」
本当の息子は、もしかすると転生という旅に出てしまっているかもしれないけどな。
だが、家を出る時に俺はあることに気づいた。
「ところで、魔王って何処で復活するんだ?」
「お前、知らずに行くところだったのか? ここからずっとひたすら東に進むとあると言われいる。確かな場所は知らんが」
「そうか、ひたすら東に行けばいいんだな」
俺は2本の刀を腰に下げ、きび団子とポーションを風呂敷に包み持った。
「さあ、魔王を退治に行くぞ!」
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