ぷぴ24 そんなぱーぱ
フラン国ロゼ島メルシー地方は感謝という名の通り安堵したが、ぱーぱの問題に差し掛かるとは思いも寄らなかった。
「まーまの実家には三人の親戚がいたけど、ミシェルの実家というものへいったことがないでしょう」
『一年間も気が付かなくってお間抜けでちた』
お誕生会のレーズンの練り込んだブドウパンと仕上げにひとつネコの肉球が押してあるネコパンチパンを食べ終えた。その日の内にと一切れずつケーキを食べた。
「明日、朝ケーキを食べたらミシェルに道案内して貰いましょう。ご実家の件はね」
残った分が約半分あるが、これは朝に食べるそうだ。お腹いっぱいぽんぽこぽんだ。
『やっぱりまーまの愛情ケーキは大きかったでちゅね』
「んふふ、盛大にお祝いしたかったのよ」
「残りは明日だな。お風呂を炊くか。外に薪とかの用意はできているんだ。僕は後から入るよ」
お風呂は。お風呂の支度が水を汲んだり火で沸かしたり、まーまとぱーぱが交代で火まもりをしたりと結構大変そうだ。ここで直ぐにハッピーバースデー【サラマンダー】を出すと、人間は生活を放棄してしまうかも知れない。【精霊】の過保護は生活に馴染めないのだ。
「先にまーまと入ろうね」
お湯を沢山湛えた湯舟に私を抱っこして入った。サウナではなく湯舟の慣習があってよかった。確かに産湯も桶で浸かれたから、気持ちよかったな。部屋で衣類を脱いだ。お風呂は家の勝手口から直ぐにある。
「そろそろいいぞ――」
「はーい」
まーまの柔らかい体が私を安心させてくれた。バストは男性には魅力的だろうけれども、私はそうした視線も嫌っていた記憶があった。どうしたんだろう。せっかくのお誕生日なのに。無駄な記憶だよね。
『むにゅ』
「シルちゃん、そろそろ卒乳なのにね」
『はう……!』
気が付かなかった。ガビーン。もうおっぱいはふにふにと揉むのをやめようっと。
「お湯加減はいかがですか」
「よろしくってよ」
「では、お嬢様方ごゆっくり」
まーまもそうだけどぱーぱも恋愛憎悪の何角関係とか全くないね。だからルンルンが暴漢としたのも金品目的としか思えなかった。
『ちゃっぷちゃっぷゆらりーん。たのちいでちゅ』
「ミシェル、お先に上がるわ。湯を足してほしかったら呼んでちょうだいね」
まーまが私に服を着せて自身も着替えていた。
『あのね。――僕には父も母もおりません、なんてぱーぱがいったけど、どうしたの? ぱーぱが侘しそうだったでちゅよ』
ぱーぱの方のじいじやばあばを知らない。『パンノート』以外にぱーぱが結婚前のものを持ち込んでいない。
『ぱーぱに両親がいないのでちゅか? 確かにお会いちてまちぇん』
「シルヴィーが大きくなるのを待って話さなかったの」
『家族だから、大切なことは知りたいでちゅ』
「今夜は晴れて月がよく照らしてくれるわ。おねんねのときにお話しできたらいいわね……」
一歳となったシルヴィーに、プレゼントが届いた。リアクションに困る。新しい人生初のお誕生日だ。
『なんて綺麗な月色でちょうか』
「大人っぽい表現だわ。さすが一歳の赤ちゃん」
『赤ちゃんでちゅけど、一年経ったでちゅよ』
「さっき、ミルクの催促したのに、ふふふ」
まーまはぱーぱより、ちとばかりちくちく刺してくる。
「僕の分からないギャグかな。月の綺麗な夜でよかったよ」
「蝋燭はもったいなくてあまり使えないからね」
「それなら、この間の移動販売でメルシー地方の境界にあるアンシャンテ川があるだろう? 顧客を求めて遠出したよな。いつも通りの爆売れ状態で繁盛したから嬉しくってさ、帰路で日用品を幾つか買ったのがあっただろう」
お祝いとして一本の蝋燭に火と灯してくれた。それで、手描きの地図を広げてくれた。ここは売れたとか、ここは販売車が通りにくかったとか、『パンノート』には販促の件も書かれておられるようだ。ぱーぱはマメなんだね。
『この印はなんでちゅか? 三角がありまちゅが』
「……三角に見えるのか」
ぱーぱはまーまの顔を見詰めた。赤ちゃんだって勘が働くというもの。
『もしかして、ぱーぱの実家でちゅか』
「僕の実家はメルシー地方からはずっと離れているんだ。市場の立つ海岸の反対側にある。だから、北を通って西に出たらメルシー川を渡り、三角印のあるアンシャンテ地方の片隅へ行かないとな」
三角、どこか気にかかる。
「ここは古いところなんだ。……両親がいない理由は、僕が高等教育を終えた頃に火災に遭って別れてしまったからなんだ。ただ、亡くなられたご遺体がなくて弔いも苦しくなり、パン職人としての修行を始めたんだ」
『希望を持ちまちょうよ』
私はぱーぱの目を見詰め、蝋燭で揺れるお互いの顔に苦みを感じていた。
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