第23話 "The path to hope"
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頑張った。必死でやった。
だから何?
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レヴィとミーシャはひたすら歩いていた。
本当に、ただひたすら。
「ねえ、ミーシャ……私らも早くその……ザルエル? とかいう国に言った方がよかったんじゃない?」
「あぁ? 贅沢言うんじゃねえよ、あたしがルルみたいにホイホイ転移なんかできるかよ。疲れんだよ、あれ」
今こうして歩き続ける方が、何倍も疲れるのではという疑問はそっと胸にしまっておくレヴィ。
案外、空気は読めるのだ。
ミーシャはミーシャで、レヴィが何度言っても国の名前を覚えないことについて、きっぱり諦めてしまっているらしい。
勝ち気で大雑把なコンビである。
「それにな、あたしとお前はやることがあんだよ」
「やること?」
「ああ、つーことで今日も始めるか」
「そういうことかー」
レヴィとミーシャがルルーシュたちと別れて既に八日が経っている。
この八日で恒例となった二人の戦闘訓練。
条件は一つ、どちらかが立てなくなるまで続けること。
「そろそろ一発くらい当ててみろよ」
「言われなくても、そろそろ当てるよっ!」
レヴィは剣を片手に握り、もう片方の手で炎を操る。
クロノスの修行を経て、確かに強くなったレヴィだったけれど、ここ数日の成長度合いは目を見張るものがあった。
その最たる理由の一つに、ミーシャの教え方が挙げられるだろう。
ミーシャは基本的には丸腰で、たまに傘を用いてレヴィに対峙するのだけれど、彼女は基本的には受け身の姿勢を貫いている。
レヴィが絶え間なく攻撃を繰り出し、ミーシャがそれらを全ていなす。
そしてその度、ミーシャは助言を与えてくれるのだ。
次はこうしろ、もっとこうしたらいい、と。
レヴィにとってそれは、《イルシオ村》でレヴィとタニアを鍛えてくれたモルガンの教え方に似ていて、非常にわかりやすかったのだ。
レヴィの鋭い斬撃がミーシャを襲う。
しかし、一つとして彼女には届かない。
痺れを切らしたのか、レヴィの攻撃が次第に荒く、そして熱を帯びていく。
「くはっ、今日はまた一段と焦ってんなぁ、おい」
挑発するように笑うミーシャだけれど、彼女の目はしっかりとレヴィを捉えている。
レヴィは、深く剣を構え燃え滾る炎を剣に集中させる。
【焔閂撃】、以前レヴィがミコトに放った技である。
ミーシャとの戦闘訓練では、まだ一度も見せていない技。
レヴィは、どうにか一泡吹かせようと、渾身の一撃に賭けることにしたのかもしれない。
「……ったく、舐められたもんだな」
レヴィが今まさに剣を振ろうとした瞬間、離れた位置にいたはずのミーシャはレヴィの目の前に立っていた。
丁寧に、レヴィの動きの支点となる左肩をしっかり掴んだ状態で。
「……え?」
直後、レヴィの額に痛みが走る。
「痛ぁー!」
レヴィは涙目でミーシャを見るけれど、ミーシャの方は呆れた様子だった。
「お前なぁ、そんなタメの長い攻撃があたしに当たると思ってんのか? そもそも隙だらけだし」
「んなこと言ったってぇ……待って本当に痛いんだけど?」
「うるせえ、ほら次だ次」
ミーシャはこうしてレヴィを鍛えているけれど、ミーシャ本人でさえ、なぜそうしているのかは説明できないかもしれない。
ただ、何となく気に入ったから。
ただ、何となく気になったから。
気まぐれに等しい選択だったけれど、そのおかげでレヴィは自然と自身の未熟さと向き合うようになり、その成長速度は凄まじいものになっていた。
レヴィは持てる全てをミーシャにぶつけるけれど、やはりどれも笑って防がれてしまう。
レヴィだけが知るもう一つの未来、その中で知ったことや聞いたこと、分からなかったこと知りたかったこと、それらが彼女の頭の中で渦巻き続けている。
頭を使うことは、いつもタニアに任せていた。
けれど、これだけは自分が背負うしかない。
望んで背負ったものでは決してないけれど、確かにあの瞬間、レヴィは願ったのだ。
皆が死なない未来を創り直したいと。
日が暮れる頃、ミーシャの修行はようやく終わりを迎えた。
およそ十時間近く戦い続けていたわけだけれど、彼女らの一日はここで終わるわけではない。
昼間、修行に充てた時間を、夜取り戻すべく移動を始める。
「大丈夫か? 顔死んでるけど」
「大丈夫に見える? もう自分が走ってんのか歩いてんのかもわかんない」
「くはは、いいねえ。……あ、そうだ忘れてた。レヴィ、お前影堕ちって聞いたことあるか?」
ミーシャの問いに、レヴィは首を傾げて応える。
「そうか……まあならいいや。ざっくりとだけ説明するから、とりあえず頭の片隅にだけ置いときな。影堕ちってのは、魔物でも竜みたいな生物でもない……ただ死を振り撒くだけの存在だな。見りゃすぐにわかるはずだぜ。ああ、こいつは生き物じゃねえなって」
「そんなのがいるの?」
「少なくとも昔はいなかったけどな……。あたしの推測では、あれは人為的に造られた何かだと思ってる。形も思いっきり人型だしな」
「造られたって……じゃあ元はヒトってこと?」
「確証はまだねえけどな……、幾つか可能性の高い答えはあるが、何とも言えねえな。ま、あれは成っちまった時点で死んでると同義だ……、情なんかかけんなよ? それが例え自分の知った顔でもな」
「……」
不吉。
ミーシャの忠告は、自然と最悪の場面をレヴィに思い出させる。
仮に、タニアたちがそうなってしまったら、果たしてレヴィはその剣を振るうことができるだろうか。
移動を続ける二人の前に、数体魔物が現れる。
ミーシャは黙って後方へ下がり、レヴィは戦闘体勢を整える。
こうした邂逅は、この数日間何度もあったけれど、その度こうしてレヴィが対応していた。
修行の一環ということなのだろうけれど、対峙した魔物の中には、レヴィよりも強い個体もいた。
しかし、それでもミーシャは一切手を出すことはなく、ただ黙ってレヴィの戦い方を見ているだけだった。
今回の魔物は、四足獣型の小さな群れのようだけれど、冒険者ギルドで登録されている情報で言えば、レヴィと同等程度の魔物である。
「レヴィ、さっさと終わらせろ」
「……押忍!」
レヴィは必要最低限の魔力だけを身に纏い、身体強化だけで魔物と向き合う。
静かに向き合う両者。
レヴィは一瞬姿勢を低く沈ませたかと思うと、激しく地面を蹴り、瞬く間に魔物の間合いへと踏み込んだ。
その速度は、魔物たちの陣形を一瞬崩し、レヴィにとってはそれで十分だった。
「喰らえ……【
レヴィは素早く剣を抜き、燃え上がる炎を剣のみに集中させ、その斬撃に炎を乗せて魔物たちを切り刻んだ。
炎の魔力によって加速された剣は、一瞬で五連撃を叩き込み、その全てが致命傷となっていた。
「……ふぅ、なんか上手くいった」
「おいおい、自分で感心してんじゃねえよ……安心しろ。お前はちゃんと強くなってるよ。あたしの足元くらいには及ぶかもな、くっくっく」
「はぁ……真横に意味わかんないくらい強いヒトがいるってありがたいけど、こんなに迷惑なこともあるんだな」
「はぁ? 言うようになったなぁ、くはは。ザフメルに着けば、ちょうどいい喧嘩相手は幾らでもいるから、そいつらにも協力させるか」
レヴィは、溜め息を吐くけれど、心底嫌がっているわけではもちろんない。
実際、ここまでレヴィたちは恵まれていると言っていいだろう。
村を出て、ミーシャやルルーシュと出会い、強さを求めるきっかけを得た。
そして、クロノスと出会い、修行をつけてもらった。
さらには、ミコトという強者との戦闘を経て、自分たちの現在地を知った。
今は、こうしてミーシャに修行をつけてもらっている。
世界中探しても、ここまで強くなるための環境に恵まれた者というのも、少ないだろう。
しかし、その分レヴィは焦りを覚えてしまう。
自分の成長を世界が待ってくれるわけではないのだ。
「さて、もうすぐ目的地に着くなぁ……、あいつらは上手くやってんのかねぇ」
レヴィの遥か先をいくミーシャは、少し遠くの方を眺めながら笑う。
これから彼女たちに降りかかる悲劇を、心から楽しみにしているかのように。
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予定通り、レヴィとミーシャはタニアたちから十日遅れて、《獣王国ザフメル》へと到着した。
たった十日ではあるけれど、その中身は互いに相当に濃いものだったのだろう。
見違えた様子に、レヴィたちは大いに盛り上がってしまった。
「タニア! チェルミーも! 何その格好! すっげえ可愛いじゃん! いいなぁ、私も着たい!」
「もう、わかったから……うるっさい! 服ならその辺で買えるから!」
「レヴィさぁーん! 本当に待ってましたぁ! あと一日遅かったら、色々限界でしたぁ」
歓喜に騒ぐレヴィと、それに応じるタニア。
そしてなぜか泣くほど再会を喜ぶチェルミー。
ミーシャは、その様子を見て微笑みながら、そばにいたルルーシュと何やら話し始めた。
「何か掴めたか?」
「んー三割くらいかな……でも大枠は掴んだと思う」
「へぇ……、ルルの予想ではこの後どうなる?」
「最悪全滅、良くて半壊」
「おぉ、なかなか切羽詰まってんなぁ」
二人の会話はレヴィたちには聞こえない。
堂々と話しているのにも関わらず聞こえないのは、ルルーシュがチェルミーの魔法を真似て音を消しているからである。
レヴィたちは再会に盛り上がっており、そんなことには気が付いていないのだけれど。
「タニア、チェルミーこの後なんか予定ある? 一緒に服買いに行こうぜ」
「あー……ごめんこの後はルルーシュさんと行くとこがあるんだよね」
「ご、ごめんなさい。今日はどうしても調べたいことがあるらしくて……明日であれば私もタニアも行けますよ?」
レヴィは、少し残念がると同時に、違和感を覚えた。
「あれ? チェルミー、タニアのことタニアって呼んだ?」
「……」
「なんでタニアが気まずそうにしてんだよ、え? 何かあった?」
「……チェルミーに聞いて」
「え、えっと……そ、その……タニアとルルさんがあまりにも毎朝起きてくれなくて……私、この十日間でもう八回ほどブチ切れてしまって、その時に呼び捨てする癖がついちゃって……」
チェルミーは申し訳なさそうに目を泳がし、タニアは相変わらず気まずそうに他所を向いている。
「あっはっは! タニアは朝なかなか起きないからなぁ! ついにチェルミーにも怒られたかぁ、ははっ面白すぎだろ」
「……うるさい」
「そ、そそそうですよ! 笑いすぎですよ!」
「チェルミー、私は?」
「ふぇ?」
「私のことはレヴィって呼んでくんないの?」
「どどどど、どうしてそうなるんですか?」
「いやだって、私だけ距離空けられてるみたいで寂しいじゃん」
「ぐわぇ……」
チェルミーから、聞いたことのない声が鳴った。
「おーい、いつまでも遊んでないで、そろそろ行くぞー」
ミーシャの声に三人は振り返る。
タニアとチェルミーは駆け足でルルーシュの後を追っていく。
「じゃあ、またねレヴィ!」
「れ、れれれれレヴィ! 行ってきます!」
二人を笑いながら見送ったレヴィは、その二人の背中が少しだけ強くなったように感じた。
「さて、あたしらも行くか」
「行くってどこに?」
「ん? 宿行って、服買う」
「おぉ、いいねっ」
ミーシャは小さく笑って、レヴィの先を歩き始めた。
二人が向かったのは、この国の中央部、国の軍部に所属する者が多く拠点を置く地域である。
レヴィが見渡すと、誰もが身体に鎧や武装を纏っており、いつでも戦闘に身を投じることができる状態だった。
「タニアたちもこの辺に宿とってるの?」
「いや、あいつらは西地区だな。あっちにはルルの馴染みの宿があっからなぁ。それにあっちはあっちでその方が都合がいいんだろうよ。んで、あたしらはこっちの方が都合がいい。あ、そうだ。あたしこの国で指名手配されてるから、常に監視されてると思っとけよ?」
「はぁ? えぇ! それ一緒にいたら私まで危ないんじゃ?」
「くっくっく、もう遅えよ」
レヴィの凄まじい絶叫が、《獣王国ザフメル》の中央部、国を護る軍部の者が多くいる場所で盛大に轟いた。
「かははっいいぞレヴィ! 早速宣戦布告かよっ、見ろよ……すげえ勢いでこっちに向かってくるぞ?」
「いやいや、これ私悪くないよね?」
ミーシャがこの国で指名手配されているというのは、事実である。
過去にミーシャがこの国の王族に喧嘩を売って、一方的にボコボコに痛めつけたことで、それ以来ミーシャはこの国において特級指名手配とされているのだ。
そんなこと、レヴィは一切知らないままなのだけれど。
「特級指名手配ミーシャ、中央区にて発見! 直ちに打ち捕らえろ!」
けたたましい警報音が鳴り響き、至る所から武装した兵士が現れる。
「おぉー、まるで鼠だな……うじゃうじゃ湧いてきやがる。レヴィ、暴れる準備はできてるか?」
「いやいや、できてないできてない! え、本当にこれ戦うの?」
「あたしらが何もしなくても、あっちはそんなつもりはないみたいだぜ?」
ミーシャは不敵に笑って、腰の武器をゆっくりと抜いた。
「レヴィ、これは刀って言ってな。ただの剣なんかより良く斬れるんだぜ?」
場に緊張が走る。
レヴィにしても、ミーシャが刀を抜いて戦う姿を見るのは、もう一つの未来で一度だけで、その時の記憶は鮮明に覚えてはいるけれど、あれをここでやるのかと思うと、それはもうただの喧嘩では済まないと不安ばかりが募っていく。
ミーシャは、ゆっくりと禍々しい魔力を放ち、周囲を威圧していく。
殺気立った獣人種の兵士たちも、警戒して迂闊に飛び込んでくるようなことはしてこない。
そして、ミーシャの視線は先ほどからただ一点のみを見つめている。
「さっさと出てこいよ……いるんだろ? 化け猫ちゃん」
挑発だった。
明確に誰かを挑発するために、ミーシャはそうしているのだとレヴィにもわかった。
そして、その誰かはすぐに現れた。
「うるせえなぁ、馬鹿みたいに人を煽んのは変わんねえか化け狐よぉ」
兵士たちを割って現れたのは、ミーシャよりも大きな身長と逞しい体格の女。
ただし、身体の至る所に体毛が生えており、獣人種であることは一目瞭然なのだけれど、レヴィが驚いたのは、その魔力の質だった。
獣人種は、本来魔法の扱いがそう得意ではないとされている。
比較的簡単な身体強化系の魔法をひたすら極める者が多く、それに属性魔法が上乗せされる程度の発展しかされていないというのが、一般的な認識である。
しかし、目の前の女はどうだ。
ミーシャと比べても遜色ない魔力を放ち、禍々しさもそれに匹敵している。
「久しぶりだな……ダチュラ」
「挨拶なんか覚えたんか。馬鹿も一応は成長するらしいなぁ」
睨み合う両者。
レヴィは構えを取りつつ、その様子を見守ってはいるけれど、そこに割ってはいるつもりはまだないようである。
身の程は痛いほどわかっている。
レヴィの実力では、この二人の間には入れない。
ミーシャとダチュラは互いの間合いに躊躇なく入っていく。
もういつでも斬り合える距離である。
「……」
「……」
レヴィだけでなく、周囲の兵士たちでさえ固唾を飲んで二人を見守る。
下手したら、この中央区そのものが消し飛んでしまうかもしれないのだ、その緊張は間違っていない。
しかし……。
「かっははは!」
「にゃっはっはっは!」
二人は肩を組んで笑い合った。
斬り合う様子もなく、二人の間に走っていた緊張は一瞬にしてなくなっていた。
「……はぁ?」
それは、レヴィだけではなく、周囲を取り囲んでいた兵士たちも同時に発したものだった。
「おい、ダチュラ! また強くなったみたいだな」
「当たり前だろうが! てめえに負けたまま大人しくしてられるかよ」
「あ、こいつ……あたしの連れだからこいつのことも気にかけてやってくれ」
「あぁ? このヒョロイのがかぁ? おめえ名は?」
二人の視線が急にレヴィに向けられる。
思わず驚いてしまうけれど、レヴィは二人の元へ駆け寄り、できるだけ堂々と名乗った。
「レヴィです! よろしくお願いしますっ!」
「にゃっはっは! 元気がいいなおめえ! いいぜ! おいお前ら! この二人は俺が面倒を見る! さっさと配置に戻れ!」
ダチュラの号令に周囲の兵士たちは素直に従った。
特級指名手配のミーシャを捕らえるというのは、軍部にとって最優先されてもおかしくはない事案であるはずだけれど、ダチュラの言葉で、周囲の殺気は嘘のように消えてしまっていた。
「ミーシャ、レヴィ……お前らここには長く留まんのか?」
「んー仕事次第だな……とりあえず宿と服が欲しい」
「そうかいそうかい、宿は俺の家を使え。どうせ俺は滅多に帰んねえし、好きに使っていいぜ。……服はそうだな、ミーシャは俺のでもいいだろうが、レヴィに合う服はうちにはねえなぁ。軍のもんでよけりゃ持ってくるけど?」
「いや、服はこっちで準備するから店の場所だけ教えてくれよ」
ダチュラは二人を先導し、中央区の街を堂々と闊歩する。
すれ違う者は皆、ダチュラに対し敬意を払い、礼をする者もいれば軍規で定められている敬礼をする者もいた。
それだけで、ダチュラがこの場所でどのような地位にいるのかが窺えるのだけれど、今彼女が連れて歩いているのは、特級指名手配のミーシャとその連れのレヴィである。
獣人種ばかりのこの国で、そうではない二人を連れて歩いているだけでも相当に目立ってしまっているというのに、その先頭を歩くのがダチュラであるお陰で、レヴィの顔は一瞬にして知れ渡ってしまっている。
「おいダチュラ、お前さ……今階級は?」
「あぁん? 聞いて驚け馬鹿野郎。
「へぇ、あのダチュラがねえ……」
ダチュラの言う赤旗軍というのは、《獣王国ザフメル》を守護する最強の軍とされており、他に情報戦に長けた
ダチュラはその赤旗軍の最高司令者であり最強の戦士ということになる。
「ほら、服はこの店で買えっから、適当に買ってこいよ。俺はその辺でなんか食ってるから終わったら声かけろよ」
「おぅ、ありがとな」
レヴィとミーシャは、ダチュラに案内された店へと入り、それぞれ気に入った服を選び始める。
レヴィはタニアやチェルミーたちと似た服を選ぼうとしたけれど、それはミーシャに却下された。
「そんなひらひらしたもん着てどうすんだよ。これにしろよ、動きやすいし目立たねえ。あたしらはいざってときに動けねえとな」
「えー私もこっちの可愛いのがいいのに……」
結局、レヴィはミーシャが勧めてきた服を買うことになった。
二人は着替えを済ませると、ダチュラを探しに出たけれど、案外すぐに見つかった。
「にゃっはっは、おいこれ美味えな! ありがとな、親父! また食いにくるぜぇ!」
ダチュラは団子を頬張りながら、すぐ近くの店から出てきた。
両手にはまだ三本ずつ団子の串が握られており、上機嫌のダチュラを見つけると、ミーシャは声をかけ歩み寄っていく。
「待たせたな」
「ん? いや気にすんなよ。それよりどうだ? お前らも食ってみろよ、美味えぞ」
「……いや、今はいいや。レヴィも今はまだ何も食うなよ?」
「え? ダメなの? こんなに美味しそうなのに……一口くらいダメ?」
「この後吐くほど稽古するけど、それでもいいならいいぞ?」
「あ、うん。やめとこうかな」
ミーシャの脅しは、レヴィが大人しく従うには十分だった。
「それより、ダチュラ……さっさと家に案内してくれよ」
「それが頼むやつの態度かよ……」
三人はそこからしばらく歩いて、ダチュラの家へと着いた。
街の喧騒から離れ、静かな空間。
自然に囲まれているとまでは言えないけれど、それでもダチュラの家は、可能な限り自然に溢れるよう工夫しているようだった。
「ほぉー、なかなかいい趣味してんじゃん。これなら落ち着いて休めそうだ。これはダチュラの趣味か?」
「うるせえよ、俺の種族知ってんだろ? 俺はこういう場所じゃなきゃ回復できねえ。まあ最近は帰れてねえから、軍の支部に同じようなもん作らせてやったけどな」
「
「はっ! 向き不向きなんてもんは、それを諦めるための都合のいい言い訳だろうが! 俺がそうなるって決めたんだからよ、なる以外に選択肢なんかねえだろうが」
ダチュラの言葉は、幾分か極端ではあったけれど、レヴィには確かに響いた。
「……そっか。うん、そうだよな」
レヴィの心に染みついた不安や疑念、そして恐怖は簡単に払拭できるものではない。
しかし、それでもレヴィは何かに巻き込まれ、何かを選ばなくてはならない。
レヴィがなりたい自分の姿がどのようなものであれ、そうなろうと思わなければ、何も始まらないし、そうなるために動き出さなければ何も進むことはないのだ。
それが夢と呼ばれるべきものなのかもしれないし、それが覚悟というものなのかもしれない。
「何一人で納得してんだ? 俺が言ったことがそんなにおかしかったか?」
「ううん、なんか今の私がちょうど欲しかった言葉だった」
「ふぅん、よくわかんねえけど」
ダチュラはすぐにミーシャの方へ向き直り、今後の話をし始める。
この場でも、レヴィはまだ中心にはなれていない。
全てがレヴィのすぐそばで起きているにも関わらず、その中心にはなれない。
《獣王国ザフメル》の崩壊まで、残り五日。
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