第16話 "Dancing flames and shooting star"
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雨は止み、風が笑う。
さあ、もう一度旅に出る時が来た。
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勇者とは、代々世界の敵に対抗するため、この世に生まれ落ちる奇跡として知られる。
人間種、亜人種、獣人種、魔人種、そして竜人種。
それぞれの人種の中に、【聖属性】を扱う才能を持った者が生まれる。
それは、奇しくも同じ時期に生まれ落ちるという。
しかし、近年。
【聖属性】を持って生まれてくる者に偏りが見え始めていた。
人間種にのみ、その才能が芽吹くようになっていったのだ。
そして、今代の勇者、トライトール。
人間種、フマニス帝国出身であり幼少期から、勇者としての専門の訓練を受ける。
肉体強化や魔法修行、そして思想矯正。
「僕はさ、斬るのが好きなんだ。最初は魔物でも満足してたんだけどね……、いつだったかなぁ、獣臭い兎の集落を掃除した時にね……知ってしまったんだよ。理性や感情を持つ何かを斬るのが、とても愉しいってことにさぁ」
トライトールは聖剣に手をかけ、ゆっくりと鞘から引き抜く。
まだ、構えは取らない。
しかし、それでも彼が握る聖剣からは、異常なまでの圧を感じることができる。
ミーシャは、彼の言葉には応えず、静かに腰に掛けた己の武器に手をかける。
「そんな細い剣で、僕の聖剣を受けられるとでも思ってるのかい? 見たことのない形の剣だけど、やるだけ無駄だと思うけどね」
ミーシャは小さく笑った。
「随分と狭い世界で生かされてきたんだな、坊ちゃん。こりゃ刀っつってな、そんな安っぽい見た目だけの剣なんかじゃ折れねえよ」
ミーシャは一瞬でトライトールの背後に周り、刀を抜き、一閃を放つ。
トライトールも、流石は勇者というべきか、余裕を持ってそれを受ける。
聖剣をもってして、ミーシャの一閃を、だ。
反応されたことに関しては、ミーシャも何とも思っておらず、小手調べといったところなのだろう、すぐさま次の行動に移る。
ミーシャの剣戟は、流麗で美しささえあった。
一つ一つの動きに一切無駄がなく、洗練された動きであることがわかる。
レヴィが扱う片手剣とは違う型ではあるけれど、それでもその動きは非常に参考になるものばかりである。
数刻間、互いに打ち合い、様子見の時間が終わりを告げようとしている。
「そんなに焦らさなくてもいいじゃないか、早く本気で斬り合おうよ」
「くくく、お前……そんなに殺し合いが好きかよ。いいぜ……あたしは勿体ぶって、ごちゃごちゃ考えんのは好きじゃねえから。いくらでも見せてやるよ」
ミーシャは一度剣を鞘に収め、再び腰を落として構える。
「瞬きすんなよ……【
ミーシャは目にも止まらぬ速さで、剣を抜き、八度剣を振った。
それは、見えない斬撃を生み出し、トライトールを襲う。
ひとつ、ふたつ……みっつ。
トライトールが防げた斬撃は三本。
彼の高そうな鎧は、見るも無惨な状態になってしまっている。
続けて、ミーシャは剣を鞘に収めたまま、深く構えを取りなおす。
「次……【
先ほどからミーシャが刀を鞘に収める理由は、剣の起点をゼロに帰すためである。
刀を使う流派は、この世界にはほとんど浸透していないけれど、確かに存在しており、ミーシャがしているのは居合と呼ばれる型である。
かなり自己流にアレンジされてはいるけれど、それでも、並の剣士であれば簡単に切り伏せられていただろう。
そう、並の剣士であれば。
ミーシャは、トライトールの目の前まで刹那の隙に移動し、刀を下から振り上げ、さらに刀を返し振り下ろす。
文字にしてしまえば、至って簡単な動作であることに間違いないけれど、それを実行するのがミーシャとなれば、話は変わってくる。
一度目の振り上げで、無数の
それらをまともに喰らったトライロールは、自身の魔力を一瞬だけ暴発させ、強引に自らの周囲をまとめて吹き飛ばした。
「すげえ……ミーシャさんが戦うところ、初めて見たけどすげえ!」
「剣で戦ってるのに、私たちとは次元が違う……でも……」
レヴィとタニアは、結界の中で感嘆の声をあげる。
しかし、タニアは一抹の不安を抱えていた。
涼しげな表情のまま、トライトールはそこに立っている。
鎧はボロボロで、傷も身体中に負っているにも関わらず。
「知ってるかい? 奴らはさ、獣の分際で僕にいろんな頼みを口にしてくるんだ。この村に手を出さないでくれぇとか、娘だけは勘弁してくれとか……。笑えるだろ? 君も結構強いみたいだからわかるだろ? 弱くて穢らわしいくせに、願いや望みだけは恥ずかしげもなく叫んでさぁ」
肩を揺らして、トライトールは笑う。
レヴィには、彼がとてつもなく悍ましい何かに見えていた。
それはタニアも同じで、口を手で抑え、今にも叫び出しそうな衝動を飲み込んでいる。
「……本当に、何のために存在してんだろうね。でもまあ、僕が有効活用してあげてるんだから、むしろ感謝してほしいくらいなんだけどさ。君にも見せたかったよ、あれは兎の親子だったかな……。母親と娘、父親の方はそれより前に僕が斬っちゃってたから、もういなかったんだけど……母親にね、『もう一人娘がいるのは知っている、村にわざと残してきてあげたんだ。そいつまで僕のおもちゃにされたくなかったら、目の前にいる娘を殺せ』って言ったんだ。そしたらどうなったと思う?」
ミーシャは、俯いて剣に手をかけた。
ここにきて初めて、ミーシャはその場にいる全員が見てわかるように、自身の魔力を放出した。
禍々しく、重い魔力。
「傑作だったよぉ、泣きじゃくる母親を差し置いて、娘の方が僕を見てこう言ったんだ。『妹に手は出さないでください』って。そしてその娘は自分で自分の頭を吹き飛ばしやがった……あは、あははははははははは! その時の母親の顔ぉ! 最っ高だったなぁ……まあ、十分楽しんだからそっちもすぐ殺しちゃったんだけどね」
「……もういいよお前。あたしもあんまり他人のこと言えねえけど、お前は生きてちゃ駄目だろ。殺してやるから、さっさとその擬態を解きやがれ」
先ほどまでのミーシャとは、比べ物にならないほどに殺気の籠った声だった。
「あれぇ、バレてたのかぁ。鋭いねぇ」
トライトールは、ミーシャの圧に臆することなく、平然と姿勢を直す。
「じゃあ、お言葉に甘えて……【
トライトールの言葉に応えるように、鎧の傷が修復され、身体の傷までも完全に回復してしまった。
「便利だよね、これ。竜人といえど魔法を使う以上、僕に勝つなんて無理なんだよ! この鎧はね、魔力によって受けた全ての損傷を拒絶できるんだからさぁ……、どうだい? これ以上頑張っても、結局は全回復! あはははは、はははははははは!」
高らかに笑うトライトール。
その様は、狂気に満ちていて、異常で、気味が悪かった。
「タニア……あんなのが勇者なのかよ……あいつが言ってたの……コルトの話だよな?」
「あんな奴のせいで、コルトは……許せないよ」
二人は、結界に守られていることも忘れ、怒りに任せて魔力を解放する。
例え、何の意味がなくとも、何の成果も得られなくとも。
「……黙って見てろ。【
ミーシャの声が静かに響いた。
同時に、トライトールの首が飛んだ。
結界の中にいた二人も、そして斬られたトライトールでさえも何が起きたのか理解できていなかった。
「ふ、ふざけるなぁ! 今のはなんだ! 魔法じゃなかった! くっそ!」
首を飛ばされたにも関わらず、喋り続けるトライトール。
その光景は、流石のミーシャでさえ若干引いている。
「いや、首切ったんだから、大人しく死ねよ」
当然の反応である。
しかし、彼は応えた。
「ふふふふははははははははは! まさか鎧ごと首を斬られるとは思わなかったよ。こんなところでこの機能を使う羽目になるとは思わなかったけど、まあいい。こんな風に斬られるのは初めてだぁ、思っていたよりも爽快な気分だよ」
彼の状態はすでに異常なのだけれど、ミーシャはその最たるものに気が付く。
「お前、まだ繋がってんのか?」
「ふははははははははははは、あはははははははははは」
ミーシャの背後で、カシャンと音が鳴った。
そこには、首がないまま堂々と立ち上がるトライトールの身体。
そして、その鎧は、目が眩むほどの光を纏い始める。
「……チッ、ミコトォ! 竜たちをすぐに退かせろ! あと、こっちの三人のこと頼む!」
ミーシャは即座に、地面に両手をつき、魔法の展開を始める。
間に合うか、考えている暇はない。
トライトールの身体に集まっていく光、それは単純に眩しいだけではなく、【聖属性】の超高密度魔力爆弾と化していた。
この辺り一体を、まとめて消し飛ばせるほどの魔力の爆発。
それを防ぐ方法は二つ。
一つ、それを超える膨大な魔力で無理矢理押さえ込むこと。
二つ、その爆弾ごと別の場所へ飛ばしてしまうこと。
ミーシャが取ったのは、二つ目の選択肢だった。
しかし、相手は人類最強の勇者の魔力、【聖属性】の特性の一つがミーシャの選択を阻む。
【聖属性】の数ある特性の一つ、拒絶。
他属性の魔力の干渉を許さないという特性である。
それのせいで、ミーシャはその魔力の塊を上手く飛ばせないでいる。
「こんなことなら、ルルを行かせるんじゃなかった。ったく、邪魔くせぇ!」
ミーシャは不敵に笑い、さらに魔力を注ぎ込む。
魔力そのものに干渉することができないのなら、それを含む空間ごと飛ばせばいい。
「無駄だってば! 君もそっちの三人も全員ここで死……」
トライトールの言葉が最後までレヴィたちに届くことはなかった。
その直前で、レヴィたちの目の前から消えてしまったのだ。
ミーシャもトライトールも、爆発寸前の魔力の塊も、それらを囲んでいた木々も全て。
根こそぎ、二人の前から消えていた。
同時に結界が砕け散り、レヴィたちを守ってくれるものはなくなったけれど、この場にはレヴィとタニア、そしてチェルミーしかいない。
「な、何が起きたんだ?」
「多分、ミーシャさんの仕業だと思うけど、大丈夫なのかな」
あたりは異様な静けさに包まれている。
「ん……、こ、ここは?」
ずっと気を失っていたチェルミーが、ようやく目を覚ました。
手放しで喜びたいところではあるけれど、レヴィたちにそんな余裕があるかと聞かれると、微妙なところである。
「チェルミー、落ち着いて聞いて。今、私たちは戦闘の最中なの、詳しいことは後で話すから、できるだけ早く体勢を整えて」
こういう時、タニアの機転は頼りになる。
しかし、そんな機転もどうしようもない場面というのは存在する。
「ミーシャの馬鹿め、しくじりおったのかのお。格好つけておった癖に、結局わらわに頼ってくるとはの」
昏い木々の間から、ミコトは現れた。
誰が悪いということではないけれど、この場合はタイミングが悪かった。
「んん? やっと目が覚めたようじゃのぉ、小娘」
「二人とも離れてください!」
レヴィとタニアは、目を合わせ、チェルミーを宥めるけれど、なかなかに骨の折れる作業だった。
「というわけで、今は休戦中なんだよ」
「チェルミーは悪くないからね?」
納得したのかしてないのか、チェルミーはキッとミコトを睨みつけ、ミコトもそれを煽るように笑って応える。
「して、何が起きたんじゃ?」
ミコトは、ミーシャの言葉に従って動いただけで、状況は読めていない。
それは、戦場において、まだ終わっていない戦闘において致命的となる。
「僕が説明するよ、やあさっきぶりだね」
その場に現れたのは、首も繋がっており傷一つない鎧を身に纏ったトライトールだった。
レヴィたちも、ミコトもすぐに構えをとる。
「此奴はミーシャが相手したはずじゃったと思うんだが……奇怪な術でも使われたかのぉ」
「ふふふふふふ、さてどうだろうね」
ミコトは、三人とトライトールの間に立った。
それは、三人を守るため。
その行動に、ミコト自身何の躊躇いもない。
「あの馬鹿が、そう簡単に負けるとは思えんが、相性は悪かったのかもしれんのう」
ミコトは静かに、相手を観察する。
以前レヴィたちを相手にしていた時とは状況が違う。
何より、ミーシャを出し抜いた可能性がある相手である。
「駄目だよ、僕の能力はそんなに見つめててもわかりっこないよ?」
声は、ミコトの背後からだった。
「がはっ……」
ミコトが振り向くと同時、タニアの胸から、トライトールの聖剣が彼女の血を浴びながら生えていた。
「タニアぁ!」
レヴィの荒ぶった声が響くと同時、ミコトはトライトールへ飛びかかる。
トライトールは、聖剣をタニアから乱暴に引き抜き、彼女をミコトへ向けて蹴り飛ばす。
ミコトは、歯噛みして、攻撃を中断しタニアの身体を受け止める。
しかし、タニアの命はすでに消えかかっており、手遅れだとわかってしまう。
「タニア! タニアっ!」
レヴィがミコトの元へ駆け寄る。
もう彼女の目には、タニアしか映っていなかったのだろう。
まだもう一人彼の横にいたというのに。
「馬鹿もん! こっちじゃなかろうが!」
「……え?」
ミコトの怒号に、一瞬レヴィの動きが止まる。
「はい、二人目」
レヴィが振り返った時、泣き叫びながら何かを伝えようとするチェルミーの身体を、一本の斬撃が縦断した。
身体の真ん中から、裂けていくチェルミー。
彼女の声は、彼女の歌は、もう響くことはなかった。
「あ、ああ……あああああああああああああああ!」
「落ち着かんか、おい!」
「うわあああああああああああああ!」
「……やられたのぉ」
ミコトは錯乱するレヴィのそばに立ち、前後に立つ、二人のトライトールと向き合った。
「いい声だぁ、やっぱり辞められないね。人間を斬ってしまったのは残念だけど、まあ気にするほどの問題でもないか……、おや?そっちの子まだ生きてるね? へぇ自分で治してるんだね……僕の後輩かぁ。そうかそうか、ごめんね? まだ生きられるかもなんて儚い希望を見せてしまった……こっちの子みたいにきっちり殺してあげていればよかったね」
トライトールの声が前と後ろから、重なって聞こえてくる。
そして、彼の指摘通り、タニアはまだ辛うじて生きている。
途切れそうな命を、か細い魔力で懸命に繋ぎ止めようとしているのだ。
レヴィは、タニアの手を握り声を荒げる。
頑張れ、諦めるな。
死ぬな、生きろ。
「いいぞいいぞ、僕も応援しようか? ……でも、そろそろ時間切れが近いね。どうやら、あっちは全滅しちゃったみたいだしね」
トライトールの言葉に応えるように、ミコトの近くの空間が歪み始めた。
歪みは広がり、真っ黒な穴を開け、そこからルルーシュが現れた。
「何この状況……、ミーシャはいないし。それに……ミコト、代わろう」
ルルーシュは胸から血を流し、倒れているタニアを見つけると、状況の分析に目処を立てる。
そして、今この瞬間、何をするべきかを瞬時に判断する。
「全く、どこまで飛んでんの……」
ルルーシュは再び空間を大きく歪ませ、その穴に向けて右手を伸ばす。
目を閉じて、集中する。
「いた……」
ルルーシュが
「痛ててて、もうちょい優しくやれよな」
穴から出てきたのは、満身創痍のミーシャだった。
額からは血を流し、着ていたワフクも至る所が破れ、身体も傷だらけである。
ミーシャはすぐに辺りを見渡し、舌打ちをした。
「厄介な能力だな、お前のそれ」
「まさか生きていたとは……素直に感動しているよ」
「完全な複製体、魔力も能力も全てが同一ってことか」
「あはぁ、正解だよ。まあ一つだけ訂正すると、複製体ってのは違うね。どれも僕自身さ、どれかが本体ではなく、どれも本体ってこと。どうだい?」
「どうもこうもねえだろ、なら聞くが、……お前あと何回死ねんだよ?」
「……へぇ」
ミーシャは一瞬、レヴィとタニアの方へ視線を向ける。
「レヴィ……立てるか?」
「……」
ニヤニヤとトライトールはそのやりとりを見つめている。
「レヴィ、立て」
「……」
ミーシャは小さく溜め息を吐き、再びトライトールへ向き合う。
「お前ら、最初からこいつらが狙いだったんだな」
「おっと、そこまで気が付くのかい? すごいな君は。僕の仲間にしてあげたいくらいだよ」
「死んでもごめんだね」
「あははは、そっか。じゃあ、もう一人もこっちに渡してくれないかな?」
両者の間に、刺すようなさっきが充満していく。
ルルーシュもミコトも、黙ったまま、その場を離れようとはしない。
その静寂を破ったのは、小さな呟きだった。
「うるせえよ」
少女の手には、もうピクリとも動かない幼馴染の手が握られている。
少女はそっと、その手を彼女の胸に戻し、ゆっくりと立ち上がる。
涙で目を腫らし、叫びすぎたせいか喉も枯れ気味ではあるけれど、彼女の言葉は確かにその場の全員を一瞬戦慄させた。
「……殺す。殺してやる」
刹那、レヴィの魔力が辺り一体へ広がっていく。
高温の炎が、森を焼き尽くさんと燃え上がる。
最初に状況に順応したのは、ミーシャだった。
「ルル、ミコト! レヴィを護れ!」
レヴィは、ルルーシュとミコトが声に反応するよりも早く、トライトールへ飛びかかった。
確かに、凄まじい速さではあったけれど、この場にいる者たちが目で追えないほどではなかった。
当然、トライトールにとってもそれは同様。
聖剣を構え、レヴィの動きに完璧に合わせて、その剣を振るう。
聖剣は、レヴィの胴を横に斬り裂いた……はずだった。
斬ったはずのレヴィは、炎となって霧散した。
直後、トライトールの視界の外から、強烈な拳が彼の顔面を捉えた。
勢いよく殴り飛ばされたトライトールの首は、あられもない方向へへし折れており、即死していることは、誰の目から見ても明らかだった。
しかし、彼はまだ死んでいない。
「いやぁ驚いた。この鎧の影響を受けないのかな? その炎はやっぱり危険だね」
その場には、もう一人、トライトールがいる。
彼は、平然と状況を観察し始める。
まるで、この場ではもういつ死んでもいいと言わんばかりの態度である。
「うわあああああああああああああ!」
発狂にも近い、レヴィは叫びながら男に向かっていく。
自身の魔力で、身体を燃やしながら。
髪も目も、皮膚も爪も。
全てが燃えて、炎に変わっていく。
−−−−−−ドクン
レヴィの燃え盛る心臓が大きく高鳴った。
それは激痛を伴い、あまりの痛みにレヴィはその場で
「後学のために聞くけど、これは君たちの狙いそのものなんじゃないのかい?」
トライトールはミーシャたちに向けて問いかける。
「ここから先は、誰がこの化け物から生き残れるかってのが問題なんだろ?」
ミーシャは、男を無視し、蹲ったままの炎の塊に寄り添うように膝をついた。
「レヴィ……負けるな。呑まれんな。ゆっくり自分を思い出せ」
ミーシャの言葉は優しく、微笑みかけるように穏やかな声だった。
しかし、熱く燃える炎は、滾り、揺れ続けている。
「っがぁ! うぅ……あああああああああああああああああ!」
レヴィの悲痛な叫びが、再び森に響き渡る。
ミーシャは止むを得ず、自身の魔力で強引に押さえつけようと試みるも、それは失敗に終わった。
音もなく、一切の揺らぎもなく。
レヴィの左手はトライトールの心臓を貫いていた。
「嘘でしょ……、流石に今のは見えなかっ……」
最後まで言い終わるよりも先に、レヴィは空いていた右手でトライトールの顔面を粉砕した。
チリチリと、レヴィが触れている部分が燃え始める。
ドサッと口を失った男の体は、力無く倒れた。
「あいつはまだどっかに保険を残してるだろうが、これで邪魔はなくなったな」
「いや、こんなことになるなんて聞いてないけど?」
「文句を言うても仕方がなかろう。わらわたちがこれを抑えんことには、どうにもならん」
ミーシャたちは三人とも、臨戦態勢をとる。
「いいか、油断すんなよ。弱っちいレヴィだと思って甘えんな。こいつは今あたしらと同じ領域に片足を突っ込んでんだ。下手したら死ぬぞ」
「面倒くさい……とか言ってられそうにないね」
「ヤエの時に、痛い目見たじゃろうが。気は抜けん」
ゆらり。
炎が揺れる。
まだ燃える、まだ燃やせる、と。
まだここには燃えるものが残っている、と。
ミーシャは大きく背伸びをして、抑えていた魔力を解放する。
髪の色は赤みが抜けていき、銀一色となる。
瞳は金色に輝き、頭には大きな耳が生えている。
腰の辺りからは九つの大きな尾が生え、その全てに異なる魔力が宿っている。
ルルーシュも、それに応じて魔力を解放する。
黒かった髪は、美しい金色へと変わっていき、瞳は赤く濁っていく。
背中からは大きな翼が生えていた。
ミコトは外見的な変化こそないけれど、魔力とは全く異なる黒く濁った何かで身を覆い、手にはいつの間にか自身の体格よりも大きな鎌を握っていた。
七竜人と称される彼女たちの本気の戦闘姿を目撃した者は、きっと人類史上をいくら遡ってみても例を見ないだろう。
「レヴィ、気張れよ。お前にも流てんだろ? 竜の血がよ……もう少し粘ってくれ。そしたらあいつが間に合うからよ」
ミーシャは不敵に笑い、揺らめく炎めがけて駆け出した。
本気で戦い、本気で殺し合う。
目の前のか弱い少女を救うために。
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