<プロローグ第1話を読んでのレビューです>
長く閉ざされた孤児院の朝、白い花を握りしめる少年の手に力が宿る瞬間から、物語は静かに、しかし確実に胸を締めつける。魔力を持ちながら魔法を使えない少年の孤独と恐怖は、灰色の世界の中で緊張感として積み重なり、獣人の襲撃による肉と血の描写は、まるで現実の痛みを指先で触れるかのように鮮烈だ。
しかし、その痛みの先に差し込む光が、花の形を借りた救済として現れる場面は、読む者の心をそっと包み込む。女神の花【サクロフラン】が放つ【破壊】【再生】【創造】の力は、少年の内なる希望と重なり、物語全体に独特の余韻を残す。
文章は丁寧に、ゆったりと世界を描きながらも、感情の揺らぎや魔法の奔流を繊細に積み上げる。キャラクターの内面描写と自然描写、戦闘描写のバランスも巧みで、少年の成長と花の神秘が静かに重なり合う。最初の衝撃的な場面から安堵の光景までの振れ幅が大きく、読後にはほんのりした希望と、再び花を探したくなるような気持ちが残った。
「魔法が使えない」という挫折と、「花」という唯一の力の象徴が、少年の物語を普遍的な成長譚へと昇華させている点が印象的で、幻想的ながらも読者に確かな手触りを残す、丁寧で力強いファンタジー。