第2話 響く恐怖
スタジオの空気は重く、銃を持った男たちの足音だけが響いていた。
「彩花…これ、夢だよね?」
玲奈が震える声で囁く。彼女の目は涙で濡れている。
「夢じゃない。でも…大丈夫、絶対助かるから。」
彩花は声を抑え、玲奈の手を握り返す。
リーダーとしての責任が、彼女の胸を締め付ける。
「美咲、深呼吸して。」
結衣が隣の美咲に目をやる。
美咲は膝を抱え、唇を震わせている。
「う、うん…でも…怖くて…」
美咲の声は小さく、スタジオの冷たい床に消える。
「静かにしろ。」
テロリストの一人が振り返り、銃を構える。
その動きに、5人全員が息を呑む。
男たちは3人。リーダー格は携帯で誰かと話している。
「要求は準備できた。時間通りに進め。」
彼の声は低く、感情がない。
他の二人はスタジオの入り口と窓を監視し、バリケードを強化する。
「真央、何か…気づいたことある?」
彩花が小声で尋ねる。
「…まだ。けど、プロだ。隙は少ない。」
真央は冷静に答えるが、彼女の指は膝を強く握っている。
「警察、来るよね? 絶対来るよね?」
玲奈が不安げに言う。
「来るよ。きっと…もう動き始めてる。」
結衣が囁くが、彼女の目も男たちの銃を追っている。
スタジオの時計は夜7時半を指していた。
襲撃から30分。5人には永遠のように感じられる。
「ねえ、何か…食べ物とか、ないかな…」
玲奈が気まずそうに言う。
「こんな時に? 玲奈、ほんと…」
真央が小さく笑うが、すぐに表情を戻す。
「緊張すると…お腹空くんだもん。」
玲奈が頬を膨らませ、仲間を少し和ませる。
だが、その瞬間、銃声がスタジオに響いた。
「きゃあ!」
美咲が悲鳴を上げ、彩花の腕にしがみつく。
「警告だ! 次は狙うぞ!」
リーダー格の男が天井に撃ち、硝煙の匂いが広がる。
「ご、ごめんなさい…!」
美咲が泣き声を漏らし、頭を下げる。
彩花の心臓は早鐘を打っていた。
(落ち着け…パニックじゃ何もできない…)
彼女は深呼吸し、メンバーの顔を見る。
玲奈は目を閉じ、結衣は男たちの動きを観察している。
真央は無表情だが、彼女の肩がわずかに震えている。
美咲は…美咲の顔は真っ青だった。
「美咲、大丈夫。そばにいるよ。」
彩花が美咲の手を握ると、彼女は小さく頷く。
だが、美咲の体は小刻みに震え、汗が額に浮かんでいる。
「彩花…私…怖い…本当に怖い…」
美咲の声は途切れ、涙が頬を伝う。
男たちは再び動き始めた。
「人質の映像を撮る。準備しろ。」
リーダー格が仲間に指示を出し、カメラを取り出す。
「映像!? 何!? 私たち、どうなるの!?」
玲奈が声を上げ、思わず立ち上がりかける。
「座れ!」
銃を持った男が玲奈に近づき、銃口を向ける。
「玲奈、ダメ! 座って!」
結衣が玲奈の腕を引き、床に座らせる。
「す、すみませんでした…お願い、やめて…」
玲奈が頭を下げ、涙をこぼす。
「次はないぞ。」
男が銃を下げ、カメラの準備を続ける。
美咲の呼吸が荒くなっていた。
彼女の目は銃口を追い、指が彩花の手を強く握る。
「美咲、目を見て。こっち見て。」
彩花が囁き、美咲の顔を自分に向ける。
「私…私…もうダメかも…」
美咲の声は震え、唇が青ざめている。
「ダメじゃない。美咲は強いよ。一緒に頑張ろう。」
彩花は必死に励ますが、美咲の目は恐怖に支配されている。
その時、リーダー格がカメラを手に5人に近づいてきた。
「お前ら、順番に名前を言え。はっきりな。」
彼の声は冷たく、カメラのレンズが5人を捉える。
「彩花…彩花…私…」
美咲が彩花の腕に顔を埋め、嗚咽を漏らす。
「美咲、落ち着いて。私たちがいるから。」
結衣が美咲の背中をさするが、彼女の震えは止まらない。
「最初はお前だ。名前を言え!」
男が美咲を指し、カメラを近づける。
「ひっ…!」
美咲が体を縮こませ、悲鳴を上げる。
銃を持ったもう一人が美咲に近づき、銃口を彼女の頭に近づける。
「言えと言ってるだろ!」
その怒鳴り声に、美咲の体が硬直した。
彼女の心臓は破裂しそうだった。
(怖い…怖い…助けて…誰か…)
冷たい汗が背中を伝い、膝がガクガクと震える。
胃が縮こまり、頭が真っ白になる。
(ダメ…ダメ…我慢…)
美咲は必死に体に力を入れるが、恐怖が全てを飲み込む。
突然、下腹部に熱い波が押し寄せた。
「う…あ…」
彼女の唇から小さな声が漏れる。
じわりと温かい感覚が内ももを伝い、抑えきれず溢れ出す。
カーペットの床に水音が響き、彼女のスニーカーの周りに水たまりが広がる。
美咲の顔は真っ赤になり、両手で顔を覆う。
「み、美咲…?」
玲奈が驚いた声で囁く。
「ご、ごめんなさい…私…私…」
美咲は嗚咽を漏らし、彩花の腕にしがみつく。
「汚ねえな。黙ってろ。」
男が冷たく言い、カメラを彩花に向ける。
「次、お前。名前。」
彩花は美咲を強く抱きしめ、男を睨む。
「…彩花。星野彩花。」
彼女の声は震えていたが、毅然と答える。
「彩花…ごめん…ごめんね…」
美咲が泣きながら囁く。
「いいよ、美咲。気にしないで。私たちは一緒だよ。」
彩花は美咲の頭を撫で、彼女の震えを受け止める。
「次。」
男がカメラを玲奈に向け、順番に名前を求める。
「玲奈…高橋玲奈…」
玲奈は涙を拭い、声を絞り出す。
「結衣。佐藤結衣。」
結衣は冷静に答え、男の動きを観察する。
「真央…林真央。」
真央は短く答え、視線を逸らさない。
カメラの撮影が終わると、男たちはバリケードの確認に戻った。
「これでいい。後は待つだけだ。」
リーダー格が携帯を手に、再び誰かと話す。
5人は肩を寄せ合い、互いの体温を感じる。
「美咲、大丈夫だよ。誰も責めないから。」
結衣が美咲の手を握り、優しく言う。
「う…うん…でも…恥ずかしくて…」
美咲は顔を赤らめ、涙をこぼす。
「こんな状況だもん。仕方ないよ。」
玲奈が微笑み、美咲の肩を抱く。
「ありがとう…みんな…」
美咲の声は小さく、だが心からの感謝が込められていた。
彩花は男たちの動きを見ながら考える。
(映像…何に使う気? 要求って何?)
彼女の頭はフル回転するが、答えは見えない。
「結衣、何か…アイデアある?」
彩花が小声で尋ねる。
「まだ…でも、時間稼ぎが必要かも。警察が動いてるはず。」
結衣は冷静に答え、男たちの装備を観察する。
「時間稼ぎ…どうやって?」
玲奈が不安げに言う。
「わからない。でも…何かチャンスが来るよ。」
彩花はそう言うが、彼女自身の心は不安で揺れる。
「美咲、寒くない?」
真央が美咲に目をやり、静かに尋ねる。
「う…ちょっと…でも、大丈夫。」
美咲は震えながら答える。
彼女の足元は濡れたままだったが、仲間たちの温もりが心を支えていた。
スタジオの外では、遠くでサイレンの音が聞こえた。
「警察…来てる?」
玲奈が目を輝かせる。
「まだわからない。けど…希望だよ。」
結衣が囁き、5人の間に小さな光が灯る。
だが、男たちの動きは変わらない。
「外が騒がしくなってきたな。予定通りだ。」
リーダー格が笑みを浮かべ、銃を手に5人を見る。
「いい子にしてろよ。まだ終わらない。」
その言葉に、彩花の背筋が凍った。
(何…何を企んでるの…?)
彼女は美咲を強く抱きしめ、仲間を守る決意を新たにする。
スタジオの時計は、夜8時を指していた。
恐怖の夜は、まだ始まったばかりだった。
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