無垢なアイドル五人組がテロリストの罠に囚われ、極限の羞恥と絆で試される過酷な夜~全国生中継の屈辱を乗り越え、未来を掴む物語~
@kalula
第1話 割れたリズム
東京の雑居ビル5階。スタジオの鏡張りの壁に、汗と笑顔が映っていた。
「彩花、テンポちょっと速くない?」
玲奈が息を切らせ、ポニーテールを揺らす。
「これでいいよ。ライブじゃもっと飛ばすんだから。」
彩花が振り返り、メンバーを見渡す。彼女は「スターリット」のリーダー、17歳。
「美咲、さっきのターン、めっちゃ良かった!」
真央が珍しく声を上げると、美咲が目を輝かせる。
「ほんと? やったー!」
末っ子の美咲、15歳。純粋な笑顔がスタジオを明るくする。
「でもさ、結衣のステップ、ちょっとズレてなかった?」
玲奈がからかうと、結衣が眉を上げる。
「はいはい、センター様の目は厳しいね。」
結衣、17歳。サブリーダーの彼女は、鋭い観察眼を持つ。
スピーカーから流れる新曲のビートが、5人の足音と重なる。
デビュー半年の「スターリット」。小さなライブハウスから始まり、今は大きなステージを夢見る。
「よし、もう一回! 完璧に揃えよう!」
彩花が手を叩き、メンバーが一斉に頷く。
その瞬間、ガラス窓が砕ける音が炸裂した。
「え、なに!?」
美咲が悲鳴を上げ、音楽が途切れる。
スタジオのドアが蹴破られ、黒い服の男たちが乱入する。
「全員、動くな! 床に座れ!」
男の一人が銃を構え、怒鳴る。
彩花の心臓が凍りつく。銃口の冷たい光が、鏡に映る。
「彩花…どうしよう…」
玲奈が震える声で囁き、彩花の手を握る。
「落ち着いて。とりあえず…言う通りにしよう。」
彩花は声を絞り出すが、喉が干上がっている。
5人は床に座らされ、互いに肩を寄せる。
「美咲、大丈夫だからね。」
結衣が美咲の背中をさするが、彼女の指先も震えている。
「何…何なの、これ…」
美咲の目から涙がこぼれ、床に小さな滴を作る。
男たちは3人。顔を覆うマスクに、冷ややかな目が覗く。
「静かにしろ。騒げば終わりだ。」
リーダー格の男が銃を振り、スタジオの照明を撃つ。
ガラスが飛び散り、電気が一部消える。薄暗い光が5人を包む。
「要求は後で伝える。従えば、誰も傷つかない。」
男の声は低く、抑揚がない。
「彩花、警察…来るよね?」
玲奈が囁くが、彩花は答えられない。
(どうして…こんなことに…)
彼女の頭は混乱し、ただ仲間を守ることだけを考えていた。
スタジオの外では、車のクラクションが遠く聞こえる。
だが、雑居ビルの5階は、まるで世界から切り離されたようだ。
「真央、平気?」
結衣が隣の真央に目をやる。
「…問題ない。」
真央は短く答えるが、彼女の手は膝を強く握っている。
16歳の彼女は、いつもクールだが、今は唇がわずかに震えている。
「誰も動くな。次は警告なしだ。」
別の男が銃を構え、5人を見下ろす。
その視線に、美咲が体を縮こませる。
「怖い…怖いよ…」
彼女の声は小さく、だがスタジオに響く。
「黙れ!」
男が一歩踏み出し、銃口を美咲に向ける。
「やめて! お願い!」
彩花が叫び、思わず手を伸ばす。
「静かにしろと言っただろう。」
男が彩花を睨み、銃を彼女に近づける。
その瞬間、彩花の背中に冷たい汗が流れた。
時間は止まったように感じられた。
スタジオの鏡には、5人の怯えた顔が映る。
「彩花…ごめん…」
美咲が嗚咽を漏らし、彩花の手を握る。
「大丈夫。絶対、大丈夫だから。」
彩花はそう言うが、彼女自身の心臓は早鐘を打つ。
(何が起こってるの…どうすれば…)
結衣が目を細め、男たちの動きを観察する。
(銃は本物。プロだ。でも…何か隙が…)
彼女の頭はフル回転するが、解決策は見えない。
「玲奈、深呼吸して。」
真央が小さな声で玲奈に言う。
「う、うん…でも…怖くて…」
玲奈の声は震え、涙が頬を伝う。
男たちはスタジオの入り口にバリケードを築き始める。
机や椅子を積み上げ、外部からの侵入を防ぐ。
「これでしばらくは安全だ。」
リーダー格が仲間に言い、携帯を取り出す。
「外に連絡する。準備はいいな?」
もう一人が頷き、銃を手に監視を続ける。
5人は肩を寄せ合い、互いの体温を感じる。
「私たち…どうなるの?」
美咲が囁き、彩花の腕にしがみつく。
「わからない。でも…諦めないよ。」
彩花は目を閉じ、深く息を吐く。
(絶対、みんなで帰るんだ。)
その決意だけが、彼女の心を支えていた。
スタジオの時計は、夜の7時を指していた。
練習が始まってから、わずか2時間。
だが、5人には永遠のように感じられた。
「彩花、リーダーとして…何かアイデアは?」
結衣が小声で尋ねる。
「まだ…でも、様子を見て、隙を探すよ。」
彩花は答えるが、声に力はない。
「私、こんなの…初めてで…」
玲奈が膝を抱え、震える。
「誰もこんなの経験ないよ。玲奈、落ち着いて。」
真央が静かに言うが、彼女の目も不安に揺れる。
「何か…何かできること、ないかな…」
美咲が涙を拭い、必死に考える。
5人の視線が交錯し、互いを励ます。
だが、銃を持った男たちの影は、彼女たちを容赦なく覆っていた。
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