←左2話 小西 亜紀(こにし あき)

「亜紀……最後に話したい事があるから、この後どこか二人になれるところに行かない?」


 私は意を決して亜紀にそう声をかけたけども、こちらに顔を向けてはくれなかった。

 それでも、小さく頷いて話しは聞いてくれるってだけは了承してくれた。


「二人ともごめん!ちょっと先生に呼ばれてるから待っててくれない?」


 明人は私達の会話が聞こえたのどうか知らないけれど、一方的にそれだけ言って教室をでていった。

 二人になれるところ、とは言ったものの何もしないまま時間だけが流れる。

 二人して無言のまま、明人が帰ってくるのをただただ待つだけの時間を過ごす。

 明人のバックは机に残っているので、私達を置いて帰るような事はしないだろうから、それなら待っててと言われて置いて帰るわけにはいかないかない。

 それでも小一時間しても戻って来ないのは遅すぎるなって思った頃、ふと周りを見ると、いつの間にか教室には私達二人以外の人影は無くなっていた。

 気せずして二人きりになれたで、私は亜紀の前の席の椅子に逆向きで座る。

 びくりと亜紀の肩が震えるのがわかったけれども、私は構わずに亜紀に声を掛けた。


「亜紀……私、どうしても亜紀に言っておきたい事があるの……聞いてくれる?」


 亜紀は肩を小刻みに震わせながら、小さく頷いてくれる。


「私達って生まれた時からずーっと一緒だったよね?」


 亜紀は両手で自分の肩を抱きかかえるようにして震えながら頷く。


「私にとって亜紀は私の一部なの……学校は別々になったけど、これからもずっと一緒だよね?」


 亜紀は頷かない。


「亜紀は違うのかな……?」


 亜紀の答えを無言で待ち続けると、やがて亜紀も意を決したような表情で顔を上げた。

 目は赤く、頬が少し濡れている。


「私も雫利の事、家族のように思ってるっ」


 泣いてたからなのか、声が少しかすれてる。


「じゃぁ、これからも会ってくれるよねっ?」


 私の声もかすれてる。

 二人の間にまた無言の時間が流れる。

 なんとか先に口を開いたのは亜紀の方だった。


「雫利って私の事好き……だよね?」

「え?それは当然だよ?」


 突然の質問に面食らいながらも素直にそう答えた。

 けども、同時に心の中に小さな棘が刺さったのが分かった。


「違うの、そうじゃないの……私達女の子同士だけど、恋人の関係というか……そういう感じで……」


 私を真正面から見据える目はとても力強く、私の全てを見通してるように思えた。

 いいえ、そうじゃない、私の全てを知ってるんだってわかった。

 隠し通せてるつもりだった思いにも、亜紀は気が付いてたんだって今わかった。


「亜紀……うん、好きだよ」


 私はそれだけを言うと俯いてしまう。


「雫利、私も雫利のこと好きだけど……でもそのいう好きじゃないの」

「亜紀……」


 私は顔を上げて亜紀を見る、亜紀はずっとこっちを見ていた。


「でも、雫利はそれじゃダメなんだよね?」


 私の唇が今にも泣きだしそうに震える。


「だから、今日でおわりにしよ?」

「あきぃ」


 私の亜紀の名前を呼ぶ声は、酷くかすれて声にならない。


「これから私は手助け出来ないけど……雫利の幸せを祈ってるね?」


 そう言って亜紀は頬を濡らしながらも、泣きそうな笑顔を私に向けてくれる。


「元気で…ね」


 亜紀は完全にかすれてしまったった声でそう言うと、もう私の方を振り向く事無く教室を出て行った。

 私は、そのまま机に突っ伏してわーんって抑える事の出来ない泣き声を上げる。


 顔をあげる事も出来ないまま暫く泣き続けて、声だけはなんとか抑えた頃に肩を叩かれて顔を上げる。


「うわ!目真っ赤じゃん!」


 そこには明人が申し訳無さそうな顔をして立っていた。

 私は明人にしがみ付いてまた泣き声を上げる。


「お前って、こういう時だけ女なのな」

「お”ん”な”じ”ゃ”な”い”も”ん”」


 そういって泣き続ける私の頭を明人は黙って撫で続けてくれた。

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