邪龍の復活

転移陣を出ると、そこはイライナイに向かう街道を50メートルばかり外れた林の入口であった。


街道上には、イナイライの使節団が使っていたとおぼしき馬車と荷馬車とが破壊され、その残骸が打ち捨てられている。


その隣には、禍々しい邪龍の姿があった。


「あれが建国の邪龍か?」


優梨ゆり以外の転移組の生徒は誰も封邪の鏡を見たことがなかったが、騎士団長も騎士たちも、機会があるごとに目にしてきた国宝・封邪の鏡に映されていた、龍の姿である。


「封邪の鏡はずっと布を掛けたままだったので。封印されていた邪龍が解放されてしまったのでしょう」


カーマイン公女が答える。


封邪の鏡の封印の力の源泉は、封じられたよこしまなものを鏡を通して見る人々の視線の力である。これは公国の秘密であり、盗み出した使節団がその動作原理を知らなかったとしても無理はない。


少し離れた林近くには、荷馬車の荷の番をしていた雑役夫たちや、男爵兄グリアシエの護衛騎士の数名が大怪我をして倒れている。


「優梨、どこ! 無事なの?」


綾川あやかわ! 無事か?」


ピオニー女騎士は、荷馬車に拘束されていた優梨を思念伝達テレパシー魔法ですぐに発見する。荷馬車に拘束した鎖を切断して解放した優梨の魔封じの腕輪を外し、担ぎ上げて林近くまで戻る。


「癒やしの聖女殿、綾川を見てやってくれ」


といいながら未夜みやの前に優梨の身体を下ろした。


拘束を解かれた優梨に怪我がないことを確認し、未夜はほっと安心する。


「あぶないことしないで、って言ったでしょ」


「ありがと、ミーヤ、助けに来てくれたんだね」


動けなくなっていたイナイライ使節団員はまず優梨が一人ずつ傀儡魔法で精神拘束した。


未夜が治癒魔法をかけてから暴れられては困るからだ。


一方、ジェイド騎士団長の指示を受けて、たつみは重力魔法をふるい、邪龍を地面に押さえつける。


ジェイド騎士団長は


「再封印はできそうにないので、討伐に切り替える」


とカーマイン公女に断ったうえで、身動きのとれない邪龍を破龍の剣で殴りつけるように斬る。部下の2人の騎士シャトルーズとベゴニアもジェイド騎士団長につづく。


硬い邪龍の鱗に跳ね返されてなかなか通らない斬撃も回数を繰り返すごとに鱗に傷をつけ、叩き割られた鱗が邪龍の体表からポロポロと剥がれ落ちてゆく。


邪龍の首周りの鱗が一周分剥がれ落ちたところで、ピオニー女騎士が大剣一閃、邪龍の首を切り落とした。


巽が重力魔法を停止すると、首を失った邪龍は一度上体をもたげ、大きな音を立てて横倒しになった。


「よし、やったぞ!」


誰ともなく皆が口々に叫ぶ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る