第19話 《夜明けの兆し》

黒陽の墓標――最深部。


空間の亀裂が、まるで泣き叫ぶかのように音を立て、魔力の嵐が吹き荒れていた。


篠宮レイは、全身を灼かれるような痛みに耐えながら、立っていた。剣を構え、血を吐き、それでもなお前を向く。


「――これで、終わりにする」


リュカの躯体は、すでに人の形をなしていなかった。崩れた魔力の器に過ぎない。だが、その瞳だけは最後まで、レイを見据えていた。


「お前は……“異端”のままで、正しかったのかもな」


「そんなことは、もうどうでもいい」


黒き魔力の核――そこにレイの剣が届く。

閃光とともに、空間が白く染まり、爆ぜた。


――しばらくして。


どれだけの時間が経ったのか、分からなかった。光が引き、空間の震えが止んだ時、セナの声がした。


「……レイ!」


「……ああ。生きてる」


レイは剣を支えに、なんとか立っていた。全身は満身創痍。魔力も尽きかけていた。


だが、勝った。


セナが駆け寄り、その肩を支える。


「終わった、ね。リュカも、黒陽の墓標も」


レイは無言で頷いた。視線の先には、崩れかけた黒き神殿のような建造物。そこにあった魔力の核は、完全に砕けていた。


《目標討伐完了。クリアランク:S。報酬および特別成果、ログに記録済みです》


OZの通知が静かに響いた。


「異端」――それは、レイが背負い続けた言葉。科学と魔法、相反する力を駆使してダンジョンを制するという存在に、多くの者は恐れや嫉妬を向けた。


だが今、この瞬間――その“異端”が、世界を救った。


「レイ。……あなたがいたから、私、生き延びられた」


「セナ……こっちこそ、ありがとう」


二人は、崩れた神殿の先にある出口を見据えた。


そこには、朝の光が差し込んでいた。


「帰ろう。これで、一区切りだ」


「うん。――でも、きっとまた、戦いは来るよ」


「なら、その時も……一緒に戦おう」


光の中へと踏み出す二人。

“夜明け”は、確かに訪れていた。



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