絶望の楽園
皐月緑葉
彗星の光(プロローグ)
西暦2XXX年。アメリカ航空宇宙局、通称NASAの宇宙観測部隊の管制室で働く私はここ数日とある任務に当たっていた。
冷房完備が施されたこの場所で冷や汗を流す私に同僚は背後から恐る恐る声をかける。
「レイ、観測できたか?」
「……ああ。間違いない。これは——地球に落ちる」
緊迫する管制室。私はモニターを睨みつけ、椅子から立ち上がった。彗星は青白く光を放ちながら、こちらに牙をむいて突き進んでいた。
「やばいぞ……今すぐ会見を——」
その提案を、政府が止めた。
──それから、数年後。
「……やっとできたのか。人類を救うノアの方舟が……!」
私の胸には、希望が灯っていた。
私は設計士の元へ駆け寄りその手を取ると強く握った。
「あなたがこの船を設計された方ですね!
これで——人類は救われます!」
彼は少しの間黙り込み、やがて、短く頷いた。
「……はい」
「どうされたんですか?」
「私はこの船の設計に、後悔はありません。
ですが——救われるのは、ごく一部の限られた人類です」
そう告げられたとき、私の身体から力が抜け、設計士の手をだらりと離した。
「……十万人。たった、それだけ……」
誰かが呟く。
「政府は……これをどうするつもりなんだ」
──そして、さらに数年が過ぎた。
船はノアの方舟と名付けられ、初めて見た時はあまりにも巨大な姿を目の当たりに息を呑んだ。素晴らしい。きっとこの船は命を繋ぐ架け橋になるであろう。そう期待が膨らんだ。
そして今、ここは最先端の技術で作られた安全な船の中で、我々選ばれた人類は超強化ガラス越しに、崩れ落ちていく人の世を、大地を見つめていた。
祈り、涙を流す人々。誰も、もう何も言わなかった。残された同胞が、光の中に散っていく。激しい閃光、轟音、崩れゆく大地。
誰も止めることはできなかった。私たちが選べた道は、これしかなかった。
人々が俯き背を向ける光景から、私だけは目をそらさないと決めた。この終わりの世界を、目に焼きつけようと。すべてが海へと還っていく、その瞬間を。
——そのとき。
燃え盛る大地からあるものが見えた。
大地から空に雷鳴を放つような歪な光だ。
私は確かにそれを見た。
一瞬だけ。けれど確かに——
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