第20話 それでも道は続く
荒れた山道を進み、斜幹の樹の洞窟を抜け、滝脇のつり橋を渡り、
岩盤が巨大な門を成す岩窟を潜り抜けた先で、山肌上に山小屋が見えた。
さすがに普段の倍はある重量の荷物で、この道のりは堪えてくる。
小屋があるのは山岳部の中腹ほどにある開けた場所。道沿いに進むと山小屋まではまだ距離がある。再び水晶粒と海石涙雫を口に含んで一息つく。
「このぐらいの斜面なら、荷物があっても登れないこともないか…。」
そう判断した俺は、迂回を省いて斜面を登るため、天幕の留め金も兼ねるかぎ爪を鎖弾の鎖に取り付ける。
鎖を持ち、かぎ爪を旋回させた勢いで、三階の窓ほどの高さの斜面上に放り掛け、鎖を引いて強度を確認する。よし、いけそうだ。
そして気を引き締め、鎖を頼りに急斜面を上り始める。
登攀を決めたものの、荷物を背負ったままでは負担が尋常でなく、安易に横着を考えたことを少し後悔する。
「ユーザー! すごいよ、ボク、びっくりしちゃった! 荒れた山道も滝脇のつり橋もすいすい進んじゃうんだもん。かぎ爪で崖を登るなんてカッコいいね!
ボク、こんな頼もしいユーザーと一緒で誇らしいよぉ! もっと頑張っちゃおう!」
先を飛び、様子を見ていたラミュの声援が頭上から降ってくるが、
その大げさすぎた気恥しくなる内容には抵抗を感じる。
しかし、そんなラミュの前で醜態は晒せないと、鎖を握り歩を進めていく。
何とか登り切り息を整えていると、ラミュがそばに降りてきて
「お疲れ様、すごかったよぉ!」と労わってくれる。
ようやく辿り着いた山小屋は、丸太を積み重ねた様な木造で頑丈な造り。
中に入ると10人以上を優に収容できる広さがあり、詰めれば20人は寝泊まりできそうだ。
「わー! おっきいねー!」と、俺に続いて入ってきたラミュが、壁際に積まれた物資の木箱や、別の壁にある暖炉、簡素な調理台を興味深そうに眺めていた。
荷物を下ろし、木箱の中の備蓄を確認する。この手のものは搬入された順に消費するものだが、どうやら先の利用者が新しいものから手を付けたため、急遽補充が必要になったようだ。
「山小屋の備蓄を消費したこと、新しいものから手を付けている所を見ても、不慣れな人間だったんだろうな。消費したのは五食分ほどに見えるが、二人か三人で消費した可能性もあるな…。」
付近に残るまだ新しい先の利用者のものと思われる痕跡。ごみや食料の欠片。その範囲を見てもさほど人数はいなかったように思える。
備蓄を木箱に追加し、先入先出で運び込まれた順の物資と入れ替える。
運んだ分の半分程度は報酬として支給されるが、この後、運んできた量とほぼ同量を水を汲んで帰らないといけない。
そこで休憩がてら、俺たちもいくらかはここで消費することにする。
物資の興味深げに眺めてるラミュを横目に、支給分の中身を確認すると作れそうな品を見繕う。
乾燥穀物、乾燥果実、瓶詰の液状乳製品。取り出された品々をラミュの目が追う。今回はこれだけあれば十分だな。
調理器具には、平型の円錐台形の金属食器と食器に持ち手を付けた手鍋を使う。
乾燥穀物を水で戻し、照明油も兼ねる植物性の清澄油と塩を少々混ぜてこねる。
こねた生地を銅製食器の裏に張り付け、円錐台に伸ばすと、取っ手を付けた鉄食器をかぶせて火にかけて焼き固め、ナイフを使って剥がし生地の器を作る。
調合用の乳棒と鉢で挽いた乾燥穀物の粉末を瓶付乳製品に混ぜ、生地の器に流し込み、乾燥果実の粒と砕いた海石涙雫を散らし、今度は鉄製手鍋の中に入れ蓋をすると、直火に当てないように気を付けながら蒸し焼きする。
液体乳製品が固まった頃合いに引きあげて、完成だ。
俺はこれでもいいが、ラミュには生地と液体乳製品に備蓄にあった蜂蜜を加えて甘めに作ってみる。
完成した焼き菓子をラミュに差し出すと。嬉しそうに受け取り頬張った。
「わぁっ! ユーザー、ボクこれすっごく美味しいよ! 蜂蜜の甘さがふわっと広がって、果実のプチプチ感が楽しいね! ボク、ユーザーが作ってくれたから特別に味わっちゃうよ! ありがとう、ユーザー、ボク幸せ~!」
ラミュの元気すぎる賞賛が気恥しくもなるが、喜んでもらえて悪い気がしない。
ちなみに甘みが多いと焦げやすいのには不慣れで一度失敗したが、
「あ、こっちもちょっと食べてみるね! うん、焦げた分が面白い風味だってわかったよ!」
と、それもラミュが口に入れた。食べたのか残飯として処分したのかは不明だがそれを聞くのは野暮だろう。
俺も自前の焼き菓子をかじりつつ、備品の折り畳み椅子を床に置き腰掛ける。
その間もラミュは木箱に腰かけて、幸せそうに焼き菓子を頬張っていた。
「なあ、ラミュ。この都市の人間はクロスや
今までも街中で従事しているクロスを見かけたが、必要があれば知ることになると気に留めていなかった。
「質問してくれて、ボク、嬉しいよ! この都市の住民がクロスや
一番多いのは、小さな動物みたいな可愛い愛玩タイプで、次にボクたちみたいな人型! 話し相手や相談役として一緒に過ごしてくれるんだ。ほかにも、乗馬や鳥みたいに仕事にピッタリなタイプ。あとは、空想上の生物を再現してる人もいるね。
ふむ。幻律使いについては概ね予想通りの回答だ。
クロスに関しては、カイの口ぶりでは人型は敬遠されるようだが、ラミュの話だと数人に一人程度は持っていることになる。公にはしないということか。
そして、この都市の住人は遅かれ早かれ、共に過ごしたクロスを失うことになる。
クロスを大事に思うほど、深く悲しむことになり、いまだに解決していない現状。
あるいは、グルムピアの管理者でも手に負えない、ルククロスはウィルクロスを模倣しているだけで、完全なクロスの生成法はまだ確立していない可能性もある。
考えこんでいると「ねえ、ユーザー!」と、また水平移動で横からラミュの顔が視界に入ってくる。また声を掛けられていたらしい。
「 ボク、考え込んでるユーザーを見ちゃって心配だよ! でもさ、そろそろ水を汲んで帰らないと、夜になっちゃうかも! 街まで時間かかるし、荷物もあるから急ごうね!」
忘れていたわけではないが、確かに日が落ちると面倒なことになる。
俺は備え付けられた流しで食器類を洗い、水気をふき取り、金属食器には薄く清澄油を塗ると、大砂ミミズ由来で乾燥性質を持つ筒袋の中に収める。
荷物をまとめ、背負い樽には水汲む必要があるため、残った支給分の備蓄はラミュに頼む。
ラミュは任せて! と、ドレスから同じ色の布袋を取り出すように広げ、瓶詰保存食を底に安定させ、乾燥穀物や豆類は小分けして乾燥果物と共に上に乗せると、布袋を腰帯を結んで腰に固定する。
ラミュが思いのほかしっかり荷物を整えているのは、クロスゆえか。
支度を済ませ、山小屋を出る。ラミュに確認してもらった水源の位置は
道中に通った滝の上流らしく、案内を頼んで水源へと向かった。
道中にも考えるのは、未だ手がかりも掴めない焦燥感。
空回りを続ける様な感覚に、また無力感を覚えていく…。
幻律-エリル- 黒羽ノ蛾 @mothnoir
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