第2話

# 第2話 『システムの隙間』


「好機は逃すな」というのは営業時代の私のモットーだった。せっかく特別なアクセス権限を得たのなら、思い切って利用してみるべきだろう。


「残りのスキルポイントも使って、できることを増やそう」


私はシステム石を再び取り出し、スキルメニューを開いた。特殊カテゴリの中から【システム干渉】を選択。


『スキル獲得:【システム干渉】Lv.1』

『効果:一部のシステム機能に干渉し、効果を高めることが可能』

『使用方法:意識を集中し、干渉したい機能を明確にイメージする』


まだ1ポイント残っているが、とりあえずこれで様子を見ることにした。


「さて、どんなことができるか試してみるか」


私は草原に座り込み、システム石を両手で包み込んだ。目を閉じ、意識を集中させる。【システム干渉】の説明どおり、システムのイメージを頭の中に思い描く。


「システム…干渉…」


最初は何も起こらなかったが、やがて手の中の石が、いつもより強く脈動するのを感じた。目を開けると、システム画面が通常とは少し違って見える。メニューの周りに微かな赤い輪郭が浮かび、文字が僅かに震えているように見えた。


「これが干渉状態か?」


試しに『鑑定』機能を選択してみると、通常より詳細な情報が表示されるようになっていた。自分の足元の草を鑑定すると:


『対象:シルバーグラス』

『分類:魔力感応型植物』

『効果:微量の魔力を蓄える。煎じて飲むと一時的にMP回復速度が上昇』

『希少度:一般的』

『採取難易度:非常に低い』

『適正採取道具:素手/ナイフ』

『市場価値:低い』


「おお、これは便利だな。通常の鑑定より詳しい」


次に『ステータス』画面を開いてみると、通常は見えない詳細情報が表示された。


『隠しステータス:』

『魅力:13』

『交渉力:17』

『抵抗力:11』

『適応力:16』

『観察評価:B+(上昇傾向)』


「なるほど、交渉力が高いのは元職業のおかげか」


干渉状態を維持したまま、『設定』→『隠しメニュー』と進み、さらに深い階層を探ってみることにした。すると、通常なら見えないはずのメニューが現れた。


『デバッグモード』

『権限調整』

『履歴閲覧』

『異常検知』


興味を惹かれて『デバッグモード』を選択すると、警告が表示された。


『警告:この機能は観察者専用です』

『不正アクセスは記録され、ペナルティの対象となる可能性があります』

『続行しますか?はい/いいえ』


リスクを考えて「いいえ」を選択。やはり直接的なハッキングは避けた方が良さそうだ。代わりに『異常検知』を開いてみる。


『システム異常検知結果:』

『軽微な干渉発生中(現ユーザーによる)』

『使用中機能の不安定性:低』

『修正不要レベル』


「ふむ、今の干渉は許容範囲内か」


次に『権限調整』を覗いてみると:


『現在の権限レベル:特別アクセス(限定)』

『上位権限へのアップグレード条件:』

『・特定クエストの完了』

『・観察評価のランクアップ』

『・システム貢献度の向上』

『・特異性の発現』


「特異性?それは何だ?」と思いながら、さらに調べようとした瞬間、突然システム画面が激しく揺れ始めた。文字が乱れ、表示が不安定になる。


「まずい、何かおかしくなってる!」


慌てて意識の集中を解こうとしたが、システムが反応しない。画面全体が赤く染まり、警告メッセージが表示された。


『警告:不安定な干渉状態検知』

『システム自動防衛機能起動中』

『修復プロセス開始…』


その直後、青い石から強烈な光が放たれ、私は後ろに吹き飛ばされた。頭に鋭い痛みが走り、一瞬意識が遠のく。


「っ…!」


数秒後、意識を取り戻すと、目の前にシステム画面が浮かんでいた。だが、いつもと違う。背景が青ではなく、紫がかった色に変わっている。


『システム修復完了』

『統合エラー検出』

『異常修正:特殊機能の一部が開放されました』

『注記:この変更は予期せぬものですが、実験継続のため許可されます』


「何が起きた…?」


頭痛を堪えながら『スキル』メニューを開くと、驚くべきことに【システム干渉】のレベルが1から2に上がっていた。しかも、全く新しいスキルが追加されていた。


『【現実改変(微小)】』

『効果:極めて限定的な範囲で現実に微小な変化をもたらすことができる』

『使用制限:1日1回』

『消費MP:50(全て)』

『備考:不安定なシステム干渉により偶発的に発現した特異能力』


「現実改変…?冗談だろ?」


信じられずに何度も説明を読み返す。どうやら私のシステム干渉が予期せぬバグを引き起こし、本来アクセスできないはずの機能が部分的に解放されたようだ。


試しに使ってみたいが、MPを全て消費するとなると慎重になるべきだろう。とりあえず、システムの他の変化も確認してみる。


『インベントリ』を開くと、新たに『不安定な結晶』というアイテムが追加されていた。


『不安定な結晶』

『ランク:不明(分析不能)』

『効果:不確定。システム異常により生成された物質』

『使用方法:不明』

『備考:取り扱い注意。予測不能な現象を引き起こす可能性あり』


実際にインベントリから取り出してみると、手のひらサイズの紫色に輝く結晶が現れた。触れると微かに温かく、内部で光が渦巻いているように見える。


「これも干渉の副産物か…」


さらに『設定』→『隠しメニュー』を確認すると、先ほどまで見えていた追加メニューは通常の表示に戻っていた。しかし、新たに『異常履歴』という項目が追加されていた。


『異常履歴:』

『発生:システム干渉による想定外の権限混交』

『結果:部分的な特異性の発現』

『観察者評価:「興味深い展開。観察価値上昇」』

『監視レベル:特別監視対象に変更』


「特別監視か…目立つことになっちまったな」


画面を閉じ、立ち上がる。頭痛はまだ残っていたが、なんとか動けそうだ。新たに獲得した能力について考えてみる。


「現実改変…一体何ができるんだろう?」


説明では「極めて限定的な範囲で現実に微小な変化をもたらす」とのことだが、具体的にどんなことが可能なのかわからない。


試しに、目の前の小石を対象にしてみることにした。石を手に取り、集中する。


「現実改変…この石を…温かくしたい」


意識を集中させると、新たに獲得したスキルが反応するのを感じた。石が徐々に温かくなり、やがて熱くなっていく。そして、うっすらと赤く発光し始めた。


「おお…!」


驚いて石を落とすと、地面に小さな焦げ跡を残して石が転がった。すぐにシステム画面を確認すると、MPがゼロになっていた。


『【現実改変(微小)】使用完了』

『本日の使用回数:1/1』

『MP:0/50』

『回復予測時間:6時間』


「結構な消費だな…でも、これは使えるかもしれない」


頭の中で可能性が広がる。限定的とはいえ、物体の性質を変えられるのなら、様々な状況で役立つはずだ。鍵を開けたり、武器を強化したり、あるいは…。


「よし、これは秘密の切り札にしておこう」


ポケットに紫の結晶を入れ、システム石も収納した。空を見上げると、夜明けが近いようだ。東の空がわずかに明るくなり始めている。


「さて、次はどうするか…」


新たな能力を手に入れた今、進むべき道を決める時だ。どうやら私の「実験」は、観察者たちの想定を超えた展開を見せ始めているようだ。

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