第3話 化け物のダーリン

「ねぇハニー、もし私がモンスターになったら殺せる?」

「うん、ダーリンにしては簡単な質問だな」

「ハニー、答えは?イエス?ノー?」

「俺は殺せるよ。ダーリン」

「あら冷たい。貴方にとって私はそんなもんってこと?」

「だって、それに君の意思はないんだろ?」

「まぁそれもそうね。」



 昔の、サラッとした会話を思い出した。


今の世界では、突然人がモンスター化するなんて出来事は日常茶飯事だ。


あの爬虫類から伝染すると言う謎のウイルスのせいで、この世界は狂っていった。


見た目は同じ。

だけど、人に噛み付いたり、引っ掻いたり、

理性を無くして人に襲いかかる。


日に日に感染者は増えていく。


そして、ハニーも



「あぁ、ハニー。お願いだからじっとしててね、痛くしたくないのよ」


 確かに、ハニーはモンスターになった私の事を殺せると言った。


だけど私は?

だって、私はハニーほど覚悟は決まってない。


ハニーのその愛しい見た目がそのままなら、私は傷1つつけたくもない。



「ゔゔぅ…ゔゔ…」



 もう1週間もベッドに縛りつけたままの彼は、

ずっと止む事なく苦しそうな声をあげ続けている。


私が今持っている斧で頭を殴れば、きっと彼は苦しみから解放される。


けど、私は?

一人になった私は、生きていけるの?


答えはNO


私は一人じゃ生きられない。



 でも、このウイルスは治療の術もない。

かかってしまったら、殺すしかない。


この世では、もう幸せになれない。


だったら、もう覚悟を決めるしかない。



「ねぇハニー、一緒にあの世へ行きましょうか」


「私、貴方以外とは幸せになれないの」


「…だから、一瞬だけ痛みに耐えてね」



 彼の首に斧を振り下ろす。

スプラッター映画のように吹き出す訳ではなく、血はダラダラとこぼれ落ちていく。


真っ赤な血も、その匂いも、薔薇の花のそれにしか見えなかった。



「あぁ、ハニー。大丈夫、今から貴方のところに行くわ。

…ハニーは私のこと、殺せるって言ったわよね。


お願い、私の最期は貴方の手で終わらせて」



 彼の頭を抱き上げて、まだ柔らかい唇へキスをする。

そして、抱き上げたまま台所へ向かって、彼お気に入りの果物ナイフを取り出す。



「ハニー、大好きよ。ずっと一緒にいましょう」



 少し固くなりつつある彼の手に、無理やりナイフを握らせ、その手を取って私の首へ



「ハニー、一緒に幸せになりましょう」


「貴方となら、暗闇も天国よ」



 意識を落とした。

さようなら、無慈悲で醜い世界。



そして、初めまして。

ハニーと私だけの、幸せな箱庭。

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