第2章:二つの魂の共鳴 - 音楽を通じた絆の深まり

 1904年のバハマの乾季は、例年にも増して輝かしい太陽と澄んだ空気で満ちていた。ナッソーのローリング・ストリートでは、地元の人々がカラフルな衣装でゴウンベイの踊りを楽しみ、市場では商人たちが新鮮なトロピカルフルーツとスパイスを売っていた。港では、観光客を運ぶ白い船が次々と到着し、バハマの美しさと豊かな文化を体験しようとする人々で賑わっていた。


 しかしアカデミーの石灰岩の壁の中の少女たちは、そうした日常の華やかさからは隔絶され、日々の宗教的義務と音楽の練習、そして基礎教育(読み書き、算術、裁縫)に励んでいた。彼女たちの一日は、午前5時の鐘と共に始まり、夜の祈りで終わる厳格な時間割で構成されていた。


 特にタニシャとカイラは、毎朝日の出とともに起き、他の娘たちがまだ眠りについているうちに、建物の裏手にある小さなガゼボで二重奏の練習をしていた。そこはバハマの朝の空気が清々しく流れ込み、カリブの輝く海を一望できる特別な場所だった。


 カイラは今、「ゴウデン・シェルズ」の仲間入りを果たしていた。彼女のギターの技術は驚くほど上達し、タニシャのバイオリンと完璧な調和を生み出すようになっていた。二人はバハマ特有の演奏スタイル―「ラカンタの波」と呼ばれる独特のリズムパターンを完璧に同調させ、まるで一人の奏者が二つの楽器を弾いているかのような一体感を生み出していた。


 カイラの装いも、音楽エリートの地位に相応しいものへと変わっていた。質の良い白い綿布のシンプルなドレスに、演奏会用には海の青さを思わせるターコイズブルーのサッシュが与えられた。首元には小さなサンゴ珊瑚のペンダントを下げることが許され、それは彼女の上品な物腰をさらに引き立てていた。彼女の髪は、今では自然な長さに戻り、演奏の時には「マーメイド・クラウン」と呼ばれるバハマの伝統的な髪型―頭頂部に編み上げ、小さな貝殻で飾る―に整えられていた。


 タニシャが弦を調整する時の口元の緊張した様子や、カイラが難しいパッセージを前に眉を寄せる表情など、二人は互いの仕草のすべてを愛おしく覚えていた。タニシャはカイラが考え込む時に小指で左の眉尻を軽くなぞる癖を特に可愛らしいと思っていた。ある時、彼女はその仕草をからかうように真似してみせ、カイラが照れて頬を赤らめる様子を見て、胸の内に特別な温かさを感じたものだった。


 二人の関係は日に日に深まり、タニシャはカイラに自分の過去を少しずつ打ち明けるようになった。


「私は本当の親の顔を知らないの」ある夕暮れ時、彼女は海に沈む夕日を見つめながら言った。「三歳の時、病気で両親を亡くし、親戚から親戚へと渡されて、最終的にここに来たの」


 カイラは黙ってタニシャの手を握り、彼女の言葉に耳を傾けた。


「でも、ここで音楽と出会って、初めて自分の居場所を見つけたように感じたわ。バイオリンを手にした時、何かが私の中で目覚めたの。それまで眠っていた魂のような……」


「わかるわ」カイラは静かに言った。「私もギターを弾く時、母との繋がりを感じるの。彼女は私に最初の音楽を教えてくれた人だから」


 タニシャはカイラの緑の瞳を見つめた。その中に映る夕陽の輝きは、まるで彼女の中にある生命の火のように思えた。


「あなたは幸運ね。少なくとも母の記憶がある」


 カイラの表情が一瞬曇った。彼女はタニシャから目を逸らし、遠く水平線を見つめた。


「記憶は時に重荷にもなるわ」彼女は小さな声で言った。


 タニシャはカイラが何か言いたげなのを感じたが、彼女を急かさなかった。代わりに、二人は沈黙の中で夕陽が完全に海に沈むのを見守った。その瞬間、カイラが静かに言葉を発した。


「私、実は……」


 しかし彼女の言葉は、夕食を知らせる鐘の音で遮られた。カイラは一瞬ほっとしたような、そして少し残念そうな表情を見せた。


「また今度話すわ」彼女は言い、タニシャの手を軽く握った。


 二人は並んでアカデミーへと戻り、その日は何事もなかったかのように過ごした。しかしタニシャの心の中には、カイラがまだ語っていない何かがあるという確信が残っていた。


 ある暑く乾いた季節の夕暮れ、ジャンカヌー・フェスティバルのシーズンではなかったためにアカデミーは比較的静かだった。ジョンソン先生はタニシャとカイラを「音楽ホール」に呼び出した。彼は当時40歳前後で、穏やかな面持ちながらも、音楽の話になると目を輝かせる情熱的な指導者だった。伝統的なバハマのメリケル(細かい織りの綿の服)を身に纏い、手には彼のトレードマークである手作りの笛を持っていた。


「二人の音色は素晴らしい」彼は微笑みながら言った。その表情には、師として弟子の成長を見届けた誇りが滲んでいた。「来月のエマンシペーション・デイでは、二人で特別な曲を演奏してほしい。知事も来られるそうだ」


 タニシャとカイラは喜びに満ちた顔で見つめ合った。エマンシペーション・デイ(8月1日)は、バハマの最も重要な祝祭の一つだった。1834年のこの日、英国帝国内での奴隷制の廃止を記念するこの行事は、バハマの人々にとって自由と希望の象徴だった。この機会に演奏することは、アカデミーの少女たちにとって最高の名誉だった。


「どのような曲を?」タニシャが尋ねた。彼女は興奮で頬を紅潮させ、無意識のうちに首の後ろにかかる髪の毛を指で巻きつけていた。


「これだ」ジョンソン先生は一枚の譜面を差し出した。「二つの島の物語」という題名の、彼の新作だった。インクがまだ完全に乾いていないページには、複雑な音符が踊り、欄外にはジョンソン特有の細かな指示が書き込まれていた。


 タニシャが譜面を手に取り、目を通すと、彼女の表情は畏敬の念に変わった。それは単なる二重奏ではなく、バハマとスペインの音楽的要素を織り交ぜた野心的な作品だった。バイオリンパートはバハマの力強いリズムを表現し、ギターパートはスペインのフラメンコを思わせる情熱的な旋律を担当していた。二つの音楽的伝統が出会い、対話し、最終的に美しい調和を生み出す物語が音符に込められていた。


「先生……これは」タニシャは感動のあまり言葉に詰まった。


「二人のために特別に作曲した」ジョンソン先生は微笑んだ。「君たちの友情は音楽に新しい命を吹き込んでいる。それを皆に聴かせる時が来たんだ」


 カイラは譜面に目を通し、ギターパートに書かれたスペインの旋律に気づいた。その中には、彼女が母から教わった調べに似た箇所もあった。彼女の目が潤み、ジョンソン先生に深く頭を下げた。


「この曲を演奏できることを光栄に思います」彼女は静かに言った。


「では、練習に励むように」ジョンソン先生は二人を励まし、部屋を後にした。


 タニシャとカイラは興奮と責任感で胸が一杯になりながら、すぐに練習に取りかかった。この曲は技術的にも表現的にも、彼女たちがこれまで取り組んだ中で最も難しいものだった。特に終盤の部分では、二つの楽器が完全に一体となって演奏する必要があり、互いの呼吸や感情を完璧に理解していなければならなかった。


 練習は一層熱を帯びた。二人は音楽を通じて言葉以上のものを分かち合うようになっていた。カイラの繊細な感性―フレーズの端を少し引き延ばす優雅な間の取り方と、タニシャの情熱的な表現―躍動的なリズムと大胆な強弱―が融合するとき、それは単なる音楽ではなく、二つの心の会話となった。


 春分の祝日から4ヶ月、二人の関係は深まるばかりだった。練習のための触れ合いが、次第に意図的な接触へと変わっていった。楽器を置いた後も、タニシャはカイラの手首を取って正しい弓の動きを教えるふりをし、カイラはタニシャの肩に頭を預けて楽譜を覗き込むという口実を作った。こうした親密さは、アカデミーの厳格な規則の中では、決して公然とは許されないものだった。


 アカデミーでは、少女たちの間の過度に親密な関係は「不適切な友情」として戒められていた。規則書には明確に「少女たちは適切な距離を保ち、個人的な空間を尊重すべし」と記されていた。しかし、タニシャとカイラの関係は音楽の名の下に築かれ、誰も彼女たちの心の中に芽生えた特別な感情に気づかないか、あるいは気づいても音楽的調和の副産物として見過ごしていた。


 7月の半ば、エマンシペーション・デイの演奏会まであと二週間という時期に、アカデミーに重要な訪問者が現れた。ナッソーの裕福な商人、リチャード・サンダーランド氏だった。彼は50代半ばの紳士で、上質な亜麻布の白いスーツに藍染めのベスト、そして麦わら帽子という格好で、当時としてはかなり裕福な様子だった。彼の香水の匂いが会議室中に漂い、その立ち居振る舞いからは、自分の社会的地位と影響力に対する絶対的な自信が滲み出ていた。


 サンダーランド氏は、自分が所有する高級リゾートホテル「ロイヤル・バハミアン」の音楽監督として優れた才能を持つ音楽家を探していた。そして彼はエマンシペーション・デイの前に、アカデミーの才女たちを先に見学したいと申し出たのだ。


 院長のグレイス・ハリソン女史は、サンダーランド氏のような影響力のある人物の要望を断れず、特別な小演奏会を開くことに同意した。アカデミーの少女たちにとって、このような機会は将来の道を開く可能性を秘めていた。卒業後の進路が限られている彼女たちにとって、一流ホテルの音楽家になることは大きな栄誉であり、経済的安定をも約束するものだった。


 演奏会の前夜、タニシャはカイラの部屋を訪れた。ノックの後、彼女は静かにドアを開け、中に入った。カイラはベッドの端に座り、母の形見である小さな十字架を手に黙祷を捧げているところだった。


「邪魔しちゃった?」タニシャは申し訳なさそうに言った。


 カイラは顔を上げ、微笑んだ。「いいえ、ちょうど終わったところ」彼女は十字架を首に下げ直し、タニシャのために場所を空けた。「座って」


 タニシャはカイラの横に座り、二人は静かに明日の演奏会について話し合った。窓の外では、月光が海面に銀の道を描き、遠くからゴウンベイの打楽器の音が聞こえてきた。湿った海風が二人の頬を撫で、カイラの髪から漂うプルメリアの香りをタニシャの方へ運んだ。


「明日のために新しい曲を練習しておいたわ」タニシャは言い、小さな楽譜をカイラに渡した。「もしサンダーランド氏が追加の演奏を求めてきたら」


 カイラは楽譜に目を通し、その洗練された編曲に感心した。それはバハマの伝統的な曲を、より現代的なアレンジに仕上げたものだった。


「素敵ね」彼女は言った。「でも……」カイラは言葉を切り、下唇を噛んだ。


「でも?」タニシャは彼女の躊躇いに気づいた。


「私、彼に選ばれるかもしれないことが少し怖いの」カイラは正直に告白した。「アカデミーを離れるなんて考えられない」


 タニシャは安堵のため息をついた。彼女も同じことを恐れていたのだ。カイラが選ばれてアカデミーを離れることを。


「心配しないで」タニシャは言った。「私たちはグループとして演奏するから、個人で選ばれることはないわ」


 しかし彼女の言葉には確信がなかった。カイラの才能は際立っており、彼女だけが選ばれる可能性も十分にあった。


「カイラ、あなたと出会えて本当に良かった」タニシャは小声で言った。彼女は普段の活発な様子とは打って変わって、指先で自分のドレスの縁を不安げに摘んでいた。髪飾りの小さな貝殻が月明かりに照らされ、彼女の横顔を優しく縁取っていた。


「私もよ」カイラは静かに答えた。彼女は澄んだ瞳でタニシャを見つめ、右の人差し指で、いつものように首にかけた十字架をなぞっていた。「ここに来た時は、二度と幸せになれないと思っていた。でも今は……」


 彼女の言葉は途切れたが、その瞳に浮かぶ感情は明らかだった。二人の間に横たわる沈黙は、周囲の夜の音―遠くの太鼓の音、波のさざめき、そして彼らら自身の鼓動―によってのみ満たされていた。


 タニシャは震える手を恐る恐る伸ばし、カイラの指に触れた。細い指先はギターを弾くことで少し硬くなっていたが、その感触は信じられないほど柔らかかった。二人の指が絡み合うとき、それはバイオリンとギターの音が溶け合うときのような完璧な調和だった。


 カイラは呼吸を深くし、何かを決意したように言った。「タニシャ、あなたに話さなければならないことがあるの」


 タニシャは静かに頷き、彼女の言葉を待った。


「私は本当は……孤児ではないの」カイラは小さな声で告白した。「私の父は生きている。実際、彼はナッソーで最も裕福な商人の一人なの」


 タニシャの瞳が驚きで見開いた。「でも、どうして?」


 カイラは深く息を吸い、長い間秘密にしてきた真実を打ち明け始めた。彼女の父、ウィリアム・ハートフォードは、イギリス生まれの裕福な商人で、バハマに来て事業を拡大していた。彼はカイラの母、エレナと恋に落ちたが、当時の社会では、ヨーロッパの商人とカタロニア出身の踊り子との結婚は認められなかった。それでも二人は秘密の結婚式を挙げ、カイラが生まれた。しかし、ウィリアムの家族や事業上のパートナーたちは、この結婚を認めず、エレナとカイラの存在は秘密にされた。


「母が亡くなった後、父は私を直接育てることができなかったの」カイラは涙を浮かべながら続けた。「彼の社会的立場と事業が危険にさらされるから。だから私は『孤児』としてここに送られたの」


 タニシャはカイラの話を聞きながら、様々な感情が胸の内に渦巻くのを感じた。驚き、混乱、そして少しの裏切られた気持ち。カイラが彼女に正直ではなかったという事実が痛みを伴った。


「でもあなたのお父さんはあなたに会いに来ないの?」タニシャは尋ねた。


「時々、『後援者』として訪れるわ」カイラは答えた。「でも、他の人の前では父娘の関係を示すことはできないの」


 タニシャは言葉を失い、カイラの手を握る力が少し弱まった。彼女はカイラの告白の重みを受け止めようとしていた。カイラは彼女の反応に不安を感じ、急いで付け加えた。


「秘密にしていてごめんなさい。でも理解してほしいの。私はここで普通の少女として扱われたかった。特別扱いされたり、父の娘として見られるのではなく、ただの私として」


 タニシャはカイラの言葉に重みを感じた。彼女の目に浮かぶ切実さと恐れを見て、次第に理解し始めていた。カイラにとって、この秘密は保護のためだけでなく、自分自身のアイデンティティを守るためでもあったのだ。


「理解するわ」タニシャは最終的に言った。彼女の声には温かさが戻ってきていた。「あなたの立場なら、私もきっと同じことをしていた」


 カイラの顔に安堵の表情が広がった。「ありがとう、タニシャ」


 二人は再び手を握り、静かに夜空を見上げた。カイラの秘密の告白は、彼女たちの関係に新たな深みをもたらした。それは信頼の証であり、タニシャはその重みを感じながらも、心の中でカイラの勇気を讃えていた。


「でも、サンダーランド氏があなたを選んだら……あなたは行く?」タニシャは静かに尋ねた。その問いの裏には、彼女自身の不安が隠されていた。


 カイラは少し考え込んだ後、決意を込めて答えた。「私はここにいたいわ。あなたと一緒に。音楽も大切だけど、あなたとの友情はそれ以上に大切」


 その言葉に、タニシャの心は温かさで満たされ、二人は静かに寄り添い、夜空の星々を眺めながら、翌日の演奏会に向けて静かな決意を新たにした。


 翌日、特別演奏会の日がやってきた。アカデミーのホールは、重要な来賓を迎えるために特別に飾り付けられていた。少女たちは最高の衣装に身を包み、緊張と期待に胸を膨らませていた。


 サンダーランド氏は最前列に座り、優雅なしぐさで少女たちの演奏に耳を傾けた。アカデミーの合唱団が美しいハーモニーを披露し、個々の演奏者たちもそれぞれの楽器で最高の技術を見せた。


 タニシャとカイラの番が来た時、ホールは期待に満ちた静寂に包まれた。二人は並んで舞台に立ち、一瞬目を合わせて微笑んだ。その瞬間、二人の間には完璧な理解があった。二人は深呼吸し、演奏を始めた。


 タニシャのバイオリンが最初の音を奏で、それはバハマの夜明けを告げるかのような明るく希望に満ちた旋律だった。続いてカイラのギターが応え、スペインの情熱的なリズムが加わった。二つの楽器が対話し、時に対立し、時に寄り添いながら、物語は展開していった。


 ホールの人々は息を呑んで聴き入った。サンダーランド氏でさえ、無意識のうちに身を乗り出し、目を輝かせていた。演奏が進むにつれ、二人の音楽は次第に一つに溶け合い、最後には完全な調和を生み出した。それはまさに「二つの島の物語」、二つの異なる世界が出会い、美しいハーモニーを奏でる物語だった。


 最後の音が消えた後、一瞬の静寂があり、次いで大きな拍手が沸き起こった。サンダーランド氏は立ち上がり、熱狂的な拍手を送った。演奏会の後、彼はジョンソン先生と院長を脇に呼び、何やら熱心に話し合っていた。


 タニシャとカイラは楽器を片付けながら、彼らの会話を不安そうに見守っていた。


「どうなるかしら」タニシャは囁いた。彼女の声には緊張が滲んでいた。


「どうなっても、私たちは一緒よ」カイラは彼女を安心させるように言った。


 しばらくして、ジョンソン先生が二人に近づいてきた。彼の表情は読み取れなかった。


「サンダーランド氏が話がある」彼は言った。「二人とも、院長室に来なさい」


 少女たちは緊張しながらも、互いに力を与え合うように手を握り、院長室へと向かった。そこには、厳かな表情のハリソン院長と、まるで何か素晴らしい発見をしたかのように微笑むサンダーランド氏が待っていた。


「あの素晴らしい演奏に感謝します」サンダーランド氏は二人に向かって言った。「特に君、カイラ」彼は彼女を指さした。「君のギターの音色と歌声は、私が長い間探し求めていたものだ。私のホテルでの演奏を考えてはくれないだろうか?」


 タニシャの心臓が沈んだ。これが彼女の最も恐れていたことだった。カイラが選ばれ、彼女から離れていくこと。彼女はカイラの方を見たが、カイラの表情は読み取れなかった。


「光栄です、サンダーランド様」カイラは礼儀正しく言った。「しかし……」


 彼女は一度タニシャを見つめ、それから決意を固めたように続けた。


「私はここでの学びをまだ完了していません。エマンシペーション・デイの後でも、私にはまだ多くの学ぶべきことがあります」


 サンダーランド氏は驚いたように眉を上げた。「もちろん、教育は重要だ。しかし、私のホテルで演奏することは、君のキャリアにとって大きなステップになるだろう。報酬も十分だ」


 カイラは丁寧にうなずきながらも、断固とした調子で言った。「感謝します。しかし今は、アカデミーでの音楽の旅を続けたいのです。特に……」彼女はタニシャの方を見て微笑んだ。「私たちの二重奏はまだ発展途上です。互いから学ぶことがたくさんあります」


 タニシャの目に涙が浮かび、彼女はカイラの決断に深い感謝の念を抱いた。カイラは自分のキャリアの可能性よりも、彼女との友情を選んだのだ。


 サンダーランド氏は少し残念そうな表情を見せたが、すぐに紳士的な微笑みを取り戻した。「理解した。しかし、君たちの才能は本物だ。もし考えが変わったなら、いつでも連絡してくれたまえ」


 彼は二人に名刺を渡し、院長とジョンソン先生に別れを告げて部屋を出た。


 彼が去った後、タニシャとカイラは互いを見つめ、安堵のため息をついた。ジョンソン先生は二人に微笑んだ。


「カイラ、君の決断は立派だ」彼は言った。「サンダーランド氏のオファーは大変名誉なことだが、時には心の声に従うことも大切だ。さて、エマンシペーション・デイに向けての練習を続けよう。そのステージは、きっと君たち二人の才能を最大限に引き出すだろう」


 二人は礼儀正しく頭を下げ、部屋を後にした。廊下に出ると、タニシャはもう抑えきれず、カイラを強く抱きしめた。


「ありがとう」彼女は囁いた。その短い言葉には、言い表せないほどの感情が込められていた。


 カイラは微笑み、タニシャの背中をそっと撫でた。「どういたしまして」


 二人は互いに腕を組み、夕暮れの中をゆっくりと歩き、これからの日々について語り合った。カイラはサンダーランド氏の申し出を断ったことを少しも後悔していなかった。彼女の心はタニシャと共にあり、二人の音楽は今まさに花開こうとしていた。


 しかし運命は、まだ彼女たちに試練を用意していた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る