わけあり特Sランク冒険者ですが隣国の王女に買い取られました

KMY

第1章 隣国の王女

第1節 義妹の身代わりに

セレスティナ

常磐色ときわいろの竜殺し。

この国では、あたしにこんな異名がついているらしい。


「来たぞ、常磐様だ」

「常磐様がいる限り、このオリンシアも安泰だな」


そんなヒソヒソ話が、ギルドの木造りの建物の至るところから聞こえてくる。

みんな、フロアの中央を悠然と歩くあたし――エリカに注目している。といっても最近はエリカと呼ばれることもほとんどないし、あたしですらこの偽名を忘れかける時がある。

でも、困る。あまりじろじろ見られて正体がばれると、義母に怒られる。

いくら全身を深い緑と白の模様の織り混じったフードローブで覆い隠していても、人目は気になるものだ。


4つある受付はどれも混んでいたが、あたしが並んだ列は、どの冒険者も先を譲ってくれる。

どうせあたしはいいから先に行ってと言っても粘られるだけだし、あたしもあまり声を出して身体的特徴を覚えられたくない。


「はい、常磐様でございますね。ドラゴン10頭のソロ討伐、お疲れ様です」


あたしがカウンターの上に置いた冒険者カードには、『特S』と大きく印字された文字が踊っている。

このトレスティン王国に冒険者は多いが、一般に最高級とされるSランクをさらに超えた、伝説級の力を持つ者にしか認定されない特Sランクは、この王国を含む大陸内に3人しかいない。あたしはその1人だ。

でも義母に言われている通り、すごいことではないと思っている。


「1頭だけでも手を焼くドラゴンを10頭も1人で倒せるものかよ」

「あの歳で特Sだ、史上最強の冒険者じゃないのか」

「なのに、絶対貴族や王族のお付きにはならないって噂だ」

「出世街道まっしくらなのに、もったいねえな」

「まあ、あれくらい強ければプライドくらい持ってて当然さ」

「ばか、聞こえるぞ」


後ろからそんな声が聞こえる。

確かにこの称号は、冒険者という狭い世界においては特上の名誉だろう。


だがあたしは心底、冒険者全員に同情している。

みんな、あたしと同じだから。


   ◇


あたしはその報酬を受け取って、自邸の裏口に入った。ここから入れと命令されているからだ。

フードローブは脱いで、もとの姿を曝け出す。

この自邸では、あたしの名前はセレスティナ・シャンティゼ。シャンティゼ公爵家の令嬢である。淡い桃色の長髪を揺らしつつ、汚れてぼろぼろの冒険者衣装を身にまとって、絢爛な廊下を進む。


目の前に、紫の贅沢なドレスを身にまとった女性と、あたしと同じくらいの年の子が現れる。

義母トリニダード、そしてその連れ子のアラセリだ。


あたしの本当の母親は、あたしが生まれたあとすぐ亡くなった。トリニダードはその後釜として来ている。とにかく贅沢が好きで、自分やアラセリを豪華な宝石やドレスで飾っている。

そして、こうしてあたしには金を稼がせている。


「あらあら、汚いわね。賤業である冒険者にお似合いの姿じゃないの。みじめだわ」


いつも通り、ゴミを見下す目で見られる。当然だ。冒険者なんてその程度の存在なのだから。

あたしは黙って、ドラゴン10頭分の報酬を差し出す。


「今回はいくらなの?」

「‥‥20億セリです。これが領収書です」

「あら、はした金ね。ドレス1着しか買えないじゃない。しょせんは雑魚冒険者ね」


それを分捕ると、あたしの体を蹴飛ばす。体はころころと転がり、廊下の壁にぶつかって止まる。


「‥‥わけて、ください」

「は?」

「お金がないと、新しい服が‥」


あたしの服はもうぼろぼろで、背中には穴もいくつかあいている。今はフードローブで隠せているけど、このまま使い続けるわけにはいかない。


「‥‥いいこと。しすの職をやるような恥知らずがここに住まわせてもらってるだけでも幸せなのよ。他の家だってそうよ、冒険者はどこの家でも恥なのよ。そこをあたしたちは我慢して養ってあげてるの。感謝しなさい」


2人は地べたに這いつくばっているあたしを、青藍の団扇をはおり、くすくす笑いながら見下ろしていた。


「お母様、あの生ゴミはいつまで置くのかしら」

「さあね、いつだろうね」


あたしの後ろから入ってきたメイドも、あたしをスルーしてそのまま立ち去る。あたしを助けると罰が下るのだろう。


‥‥あたしは義母に騙された。

義母は連れ子アラセリばかりを愛していた。

実子であるあたしも、冒険者になったら好きになると言ってくれた。

だからあたしは5歳で、危険といわれる冒険者になった。

先輩の冒険者にも教わって、5歳なりに努力した。頑張った。

アラセリみたいに幸せになりたかった。


でも、冒険者は貴族社会では賤業といわれ、恥ずかしいものとされている。

あたしが頑張って冒険者ランクを上げたことを報告しても、義母はちっとも褒めなかった。

そればかりか、あたしの母になるのは恥ずかしいと言い出した。


ああ、これ、騙されたんだと気がついた。

当時まだ6歳だったあたしは、ああ、自分って子供だったと気づいた。

貴族に限らず平民の間でも、冒険者を家の中に置くだけで恥とされていると聞かされた。

やめようにも、賤業に手を出した女はどこにも行けないと言われた。

無駄飯くらいはいらないから一生冒険者をやるしかないと言われた。


逃げようにも、冒険者は世間一般で見れば極度の低収入で、家を出て独立することもできない。

たった20億セリだけではドレスを1着買うことしかできない。

ドレスより高い家なんて、夢のまた夢。

義母から、宿代も1泊5億セリと聞かされている。1ヶ月だと150億セリ。

賃貸にしても、家賃は最低でも毎月数十億セリ。

冒険者に身を落としたあたしに出せる金額ではない。

たまたまドラゴンが大量にいなければ、それだけの大金を安定して稼ぐことはできない。一生野ざらしで生きていくしかない。


この前も散々言われたけど、あたしは冒険者の中では有名かもしれないけど、冒険者という職業全体が世間一般から見るとゴミの掃き溜めのようなものだ。収入のない冒険者たちはみんな、周りに疎まれながらも、誰かの寄生虫にならないと生きていけない。


やっぱり最高ランクでも毎月、公爵の収入の1%にも満たない50億セリしか稼げない冒険者は賤業なんだ。

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