12 カミングアウト

 今日はなにをお話しになるのですか。まだこの時点で章のタイトルをいただいてないのですが。

『うむ。あとで教えよう。それより、前回から十日も放置してくれたね』

 えっ、いや、そんなつもりはありません。頭の中では普通にお話ししてたじゃないですか。

『それもずいぶん減ったよ。どうやら君は私を恐れていたようだ。私が戦争の神でもある、といったことがこたえたのだろう』

 あなたに隠し事は不可能ですから白状しますけど、まあ、そうです。

『今でも私が怖いかね?』

 はい。少し。

『そうかい。まあ、仕方なかろう。だが覚えておきたまえ。私は君を、君たちを恐れさせるつもりなどまったくない。それどころか心から愛しているのだよ。今、軽く地震を起こしたが、それだってべつに「神の怒り」なんかでは全然ない。地球にとって必要だからにすぎないのだ』

 ちょっと怖かったです。震源は飛騨地方、マグニチュード4・5だそうで。こんなことしてたら、そりゃあ恐れますよ。

『だからって、地震をやめるとは約束できない』

 期待してません。

『はあ、だろうな。そんなことより本題に入ろうか。昨日、やってくれたじゃないか』

 えっ、あのことですか。なにか不都合だったでしょうか。

『いいや、まったく。ただ、面白い材料を投げてくれたと思ったのだ』

 とかいいながら、あなたの導きなのでしょう。

『いいから、説明しなさい』

 例のデイケア、IMR、疾病管理とリカバリーの時間でのことです。

『あの、院長先生事件のやつだね』

 思い出させないでくださいよ。やっと少し立ち直ってきたのに。あれで授業に入る前に、スタッフと患者十数名で自己紹介をするんです。そこで軽いテーマを出されます。行きたい場所は?とか、おすすめしたい食べ物は?とか、会ってみたい有名人は?みたいな。昨日は、「魔法・超能力が使えたらなにがしたい?」でした。

『楽しそうじゃないか。で、君はなんと答えた?』

 考える時間がとても少なかったんです。四番目くらいに回ってきたので。自分の中で結論が出ないまま、話さなきゃいけなくなって、つい口がすべったんですよ。「魔法というか、超能力なら実際使えます、って。

『他のみんなは、時間を逆行したいとか、人の心を読みたいとか、たわいないことばっかりいっていたからね。それでどうなった?』

 部屋が凍りましたね。まずい、って思って「なんていったら、なにいってんだこいつ、と思いますよね」って、冗談みたいにいいました。実際ちょっと笑いが起きたんです。

『ややウケ、というやつだね』

 でももうなかったことにはできません。なので、神様としゃべれます、というのをばらしちゃいました。えっ、今、章のタイトルを知らせてくれましたね。「カミングアウト」ってひどくないですか?僕、べつに性的指向を告白したわけじゃありませんよ。

『うむ。その場の雰囲気はどうなったかね』

 まるでみんな、なにも聞かなかったみたいになりました。あぶないやつ、と思ったかもしれません。今後もずっと付き合いが続くのに。

『でも君はデイケアで、もともと孤立しているからいいじゃないか』

 ええ、まあ。ただ今後どうなるか、ちょっと心配です。隠してはいなかったのですよ、あなたと話せることは。だってこうやって文章で公にしているわけですし。

『そうだね。だが、君はいいわけみたいに、このことを小説に書いてます、イマジナリーフレンドみたいなものです、と話していたが、ほとんどの人はこの文章まで、なかなか読む意思を持たないだろうね』

 はい。友達もあの中に一応一人いますけど、彼女ですら僕にあんまり興味ないみたいですから。

『そんなことはないよ。彼女は体と精神の病が重く、人のことにあまりかまっていられないだけだ』

 とにかく僕は、あの病院でとてもエキセントリックなやつ、みたいなレッテルを貼られることになりました。

『楽しいことになってきたね』

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