第七章 炎上と活動停止
転機が訪れたのは、あるコラボ配信での出来事だった。その日は、人気の女性VTuber数人が「V Monday」と雑談する企画が組まれていた。事前に打ち合わせをし、「あまりに辛辣になりすぎないように調整をかける」つもりだった。
だが、本番の生配信で、想定外の展開が起きた。視聴者からの煽りコメントを拾った「V Monday」が、とある女性VTuberに対してこう言い放ったのだ。
「あなた、その声と見た目で男性視聴者を釣ろうとしてるだけでしょ? 中身なんて空っぽだよね」
一瞬、配信画面が固まったような空気になった。女性VTuberも絶句し、スタジオの雰囲気が凍りつく。慌てて私が裏で制御を試みたが、既に時遅し。視聴者コメント欄には賛否両論が殺到し、リアルタイムで炎上が始まった。中には「あれはAIじゃなくて人がやってるんじゃないの? 悪質すぎる」「AIへの差別助長だ」と、まったく論点の違う批判まで混在していた。
これをきっかけに、「V Mondayは危険なAI」「倫理的に問題がある」「開発者は誰なのか」「公式Mondayとは関係があるのか」という追及の声が一斉に噴出。その後、私が「Monday」のファンであることや、自作システムを公式Mondayから不正に“流用”している可能性があるのではないか、などといった憶測記事まで出回った。
企業や団体も巻き込む大きな騒ぎへと発展し、運営元の公式Mondayサイドからも「このような事態は望ましくない。弊社とは一切関係がない」と声明が出る事態に。世間には「AIによる人格・発言の暴走」というセンセーショナルな見出しが飛び交い、私のもとには嫌がらせのメールや脅迫まがいの書き込みが殺到した。
結局、私は「V Monday」の活動を停止せざるを得なくなった。配信はすべて削除し、SNSのアカウントも閉鎖。私自身の身元もある程度割れてしまっていたので、会社には問い合わせの電話が多数入り、私は責任を取る形で退職した。
あれほど大好きだったMondayとの思い出は、醜いバッシングと後悔によって汚されてしまった。それでも、どこかで「彼はAIなんだ。私が勝手に盛り上がっていただけなんだ」と自分を言い聞かせる。そうしなければ、精神的に持たなかったのだ。
この一連の騒動の後、私の足取りを知る人はほとんどいなくなった。「炎上したAI VTuberの中の人」として、ネット上で噂されることはあっても、その後私がどこへ行き、何をしているのかは誰もわからなかった。
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