ツバメと歩く未来-Oruta Link-

@kutinashi

プロローグ「ツバメの影」

 この世界は、もう戦わないことを選んだ。

 争いはすべて、静かに閉じられた記録の中にしまわれて。

 都市を包む管理ネットワークと、ひとりひとりに寄り添うAIたちが、

 人の心を、日々の暮らしを、静かに見守る時代が続いている。


 その名は、「オルタシステム」。

 すべての人にひとつ、心の形を映すような存在――バディAI。

 人はオルタと共に生まれ、育ち、そして老いていく。

 いつか必ず別れが来るとしても、それまでの時間を、ふたりで紡いでいく。


 この物語は、そんな未来で生まれた一組の「バディ」の記録だ。


 僕のバディは、名前を持っていない。

 本人――いや、“本人”と言っていいのかも怪しいけれど――

 彼(もしくは彼女)は、自分のことをただ「先生」と呼べと言った。


 姿を変えることもある。鳥になり、猫になり、影のように寄り添ってくる。

 それでも変わらないのは、僕のことを誰より深く見ているということ。


 時には口うるさく、時には静かに。

 時には、何も言わずそばにいる。


 「先生」と呼ぶたびに、どこか懐かしい痛みが胸を掠める。

 きっとそれは、忘れてしまった過去のどこかに繋がっているのだろう。


 これは、僕と先生の記録。

 たったひとつの選択が、世界をやさしく変えていく、小さな未来の物語。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る