第5話 転生の朝、光の中へ

眩しい。

温かい。

世界が、滲んで、揺れて、溶けていく。


(……ここは……どこ……?)


やがて耳に届いたのは、慌ただしくも喜びに満ちた声のざわめき。


「生まれました! 女の子です!」

「公爵様に、すぐお知らせを!」

「おお……無事に!」


誰かが、小さな身体を柔らかな布で包む。

ふわふわとした感触とともに、胸の奥にやわらかな温もりが広がった。


(ああ……わたし、今……生まれたんだ……)


──バタン。


扉が勢いよく開かれ、重たくも焦りを帯びた足音が近づいてくる。


「娘は!? 娘は無事か!!」


威厳を湛えた声。

けれどその響きは、必死に震えていた。


(この声……)


薄く開いたまぶたの向こう、滲んだ視界に映ったのは――

銀の髪をまじえた、端正な紳士。エルネスト公爵だった。


「公爵様、ご安心ください! お嬢様はお元気です!」


助産師の声に、公爵は深く息を吐き、そっと目元をぬぐった。


「……ありがとう。本当に、ありがとう……」


背後では、侍女たちが忙しく動きながら小声でささやき合っている。


「女の子だって!」

「皇室に嫁ぐことが決まってるお嬢様よ……!」


(生まれたばかりなのに……もう人生、決まってるみたい)


皐月は、心の中で思わず笑った。


──そのとき。


ふわりと、やわらかな腕に抱き上げられる。


「まあ……なんて、かわいい子……」


それは、公爵夫人――皐月の新しい母だった。


上品で、それでいて誰よりもあたたかい腕。

泣きたくなるほど優しい微笑み。

金の光をまとうような、美しい女性。


「あなたは……この世界に、希望を運んできてくれたのね」


そっと触れる頬の指先は、まるでこの世界のすべてを祝福しているようだった。


(……ママ……)


胸が、きゅっと締めつけられる。


言葉にならない。

けれど確かに、心の底からあふれ出す感情。


(生きよう──)

(今度こそ、この世界で、幸せになろう──)


生まれたばかりのその手が、ゆっくりと、小さく拳を握る。


──こうして、川合皐月は、マリセリア王国・エルネスト公爵家の第一令嬢として

新たな人生を歩み始めた。


すべては、未来を紡ぐために。


小さく、けれど確かな――第一歩だった。

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