第3話 後藤恵子、神戸へ1
まったく信じられない!今、私は、良子とファンファンと一緒に新幹線こだまの車内にいる。この子たちの行動がまったくわからない。いいから、いいから、恵子さん、これに着替えて!と言われて、着替えの入った紙袋を押し付けられて、トイレに閉じ込められた。同じ服だと、台湾の連中に気づかれるから、だそうだ。
「良子!なんで急に呼び方が『恵子さん』になったの?」
「台湾の連中に万が一、私たちがあなたを『レイニー』なんて中国語名で呼ぶのを聞かれてはマズイでしょう?だから、ファンファンも芳子と呼んでね」
いや、だからって、渡された服が女子大生の着てそうなフレンチカジュアルよ?白黒の横縞のバスクシャツにベージュの水玉のヒラヒラスカートって何!靴まで用意してある。金色のハイヒール?それで、麦わら帽子?こんな服、着たことない!とトイレの中から抗議すると、ドアの外から「恵子さんは私の体型と同じで、私が持っている服は戦闘服の他にはフレンチなのよ!文句を言わずに着替えなさい!」と良子が言う。やれやれ。
トイレを出た。
「良子、だいたい、どこに行くのよ?尾行している台湾は、隣の車両じゃない?」
「台湾派閥でしょ?だったら、向かう先は、神戸の中華街に決まってるじゃない!同じ車両で見咎められたら問題でしょ?だから、神戸までは、この車両で、駅弁を食べてビールを飲むのよ!」
「良子!神戸までの途中であいつが降りたらどうするの?」
「簡単!神戸の中華街で、ピータンを食べて白酒(パイチュウ)を飲んで、大阪で豚まんとたこ焼きを食べて、横浜に戻るだけよ!」
私たちが話している間に、ファンファン・・・じゃない、芳子が新幹線のパーサーをつかまえた。崎陽軒のシュウマイ弁当、シャケ弁、焼肉弁当を買っている。缶ビールを6缶。おいおい、宴会するの?台湾を尾行してるんじゃないの?
シェアね、お弁当は、みんなでシェア!と二人が言って、プラスチックのコップにビールを注がれた。乾杯してしまう。
なんでこうなるの?
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朝早く、台湾の連中から呼び出しの電話が私のアパートに来た。署に電話をかけたら病欠って言っていたが?と聞かれたので、女の子の日なのよ、重くってさあ、と答えた。具合が悪いのはわかるが、月曜日に加藤刑事部長と寝たんだろ?何か話を引き出せたか?と聞かれた。寝た、とか直截な言葉が気になる。永福と関係したから、こういう言葉が嫌いになった。
「あんまり、報告する内容を聞き出せなかったの。だから、次の月曜日以降まで待てない?」と答えた。
「なんでもいいんだ。会えないか?」と言う。焦ってるのかしら?
「しょうがないなあ。いいわよ。いつものサテンで1時間後」
良子の自宅に電話する。彼女もファンファンも大学は、林田のお婆さんの指示で休んでいるはず。良子が出た。
「良子、レイニー。台湾のヤツから呼び出しが来たわ。1時間後に、ジミーがたまり場にしているサテンで。あんまり報告することもないけど、と言ったら何でも情報が欲しいと言われたわ。焦っているみたい」
「わかった。こっちもサテンの方に行く。焦っている?ふ~ん・・・サテンには入らないわ。外でファンと見張っている。報告は濁しておいて。でも、吉村刑事の名前は出してもいいわ。どうせわかることだから。それ以外は伏せておいてね。じゃあ、後で」
台湾のヤツに話す内容を整理した。加藤部長刑事に『先週は刑事課で大捕物があったでしょう?瑞穂埠頭で人身売買のために誘拐された4人の女性を救出して、台湾マフィア2人を逮捕、台湾マフィアの事務所を急襲して一網打尽なんて、表彰ものですよ。だけど、瑞穂埠頭でしょ?米軍のノースピアじゃないですか?米軍が絡んでいたとか?』と聞いたことは言ってもいいだろう。
加藤敬二部長が『吉村警部補が急に夜中に電話をかけてきやがって、今、ノースピアの三井倉庫にいます。【偶然】発見して、集団人身売買の被害女性4人を救出しました。犯人の台湾野郎も捕まえました』これもよし。
『もう一人、在日米軍郵便局の中にいるから、張り込んで出てきたところと捕まえましょう。これで台湾マフィアをしょっぴくネタになりますよ』これはダメだ。吉村刑事がなぜ米軍施設の中のことを知っているか、疑問に思われる。
『加藤が、吉村に経緯を問い詰めたが、情報元の身元が危ないんで明かせませんや。私も疑心暗鬼でやってきたら、人質と台湾に出くわしたので保護したんです。部長も手柄を立てたことだし、ご自分の内偵でうまくいきました、ぐらいで内部を収めてください』これはいいだろうな。
『人質の女どもは、あまり話さない。自分の誘拐された事情を話すばかりで、米軍施設内で起こったことは話さない』とこうしよう。
『台湾野郎二人を聴取すると、自分らの不利になるからあまり口を割らないが、人質5人は、ってポロッと言うんだ。4人だろ?と聞くと、渋々ゲロした。先に一人逃げました、5人です、という話を聞き出した。吉村に聞いても知らぬ存ぜぬだ。4人でしょ?俺は4人しか見ていないと言い張る。なぜ、米軍基地内に居た誰かが先に一人逃したのか?その女が他の女と一緒に救出されると不都合があるのか?』これは絶対にダメだ。5人目の女は誰か?と思われる。ブタ箱にいる台湾の二人しか知らないことだ。
このくらい?良子は吉村刑事の名前を出して良いと言ったが、彼は大丈夫なのだろうか?ファンファンがいるから大丈夫か?ファンファンは強そうだものね。
喫茶店に行くと、台湾のヤツが待っていた。私はこいつの名前を知らない。もう一人のヤツから、ウチの連絡係でお前の担当と紹介されて、署と自宅の電話番号をこいつに教えた。連絡は一方的。私は台湾のヤツラの連絡先を知らない。
私は喋って良いことを報告した。ヤツは表情を変えずに聞いていた。それだけ?と言うので、だから、来週の月曜日以降まで待ってくれたら、もっと聞き出したのにと答えた。
「何を知りたいの?」
「誰が吉村に米軍施設に誘拐された女たちがいると通報したか?だ」
「それは加藤刑事部長もわからない、吉村がネタ元を明かさないんだ、ということよ。吉村を誘拐して直接聞けば?」
「刑事を誘拐?冗談じゃねえ。お前、吉村と寝れないか?」
「あんた、私は誰でも彼でも寝ないわよ。第一、吉村は私を嫌っているし、副署長と加藤刑事部長と寝ている噂がたっていて、ヤバいんだよ。加藤に吉村から聞き出させるように誘導してみるけどさ」
「仕方ねえな」
私はこいつがバックを持っているのに気づいた。会社員が泊まりの出張に行くような小型のバックだ。こいつ、これからどこか行くのかしらね?私は脚を組み替えて、パンツが見えるような脚の開き方をした。いつも、こいつにパンツを見せてやるのだ。サービスだ。
「そんなところよ。これじゃあ、あんまり請求できないわね。加藤にもっとサービスして頑張って聞き出すわ」
「そうだな。せいぜい、あんたのお股を使ってくれよ。俺はいつも残念に思ってるんだ。連絡係が情報屋と関係を持てないってのがな。あんたはいい体してるし、抱いてみてえよ」
「あら?請求額にいろをつけてくれれば、抱いてもらっても構わないわよ?」
「な、そういうことになるから、ダメなんだよ。今月は、35万円くらいだろうな?」
「それっぽっち?45万くらいもらえると思ったのに。今月は旅行をしようと思っていたのよ。あら?あなた、そのバックはどこかお出かけ?旅行?いいなあ」
「まあ、ちょっとな。これから新横浜まで行くんだ」
「ふ~ん?新横浜のラブホでやらせたら、50万くらいくれないかしら?」
「おいおい、俺の上のもんに怒られちまわあ」
こう金、金と言っておけば、私を単なるサツの内部情報を売る悪徳女性巡査と思ってくれるだろう。演技ながら、こんな男に抱かれるなんていやなこった。もう、私は永福以外には抱かれないんだよ!あれ?加藤や副署長、税関職員、米軍の大佐との関係をどう精算しようかしら?永福と相談しないと。
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