第2話 ジミー・周1

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「ジミー、どうしたの?何の用?一昨日のお礼なら、今、金を工面しているよ。パパにおねだりして、くすねている最中だ。バレたらまずいからな」

「あれ?金じゃなくて、デートだろ?それで、一発やらしてくれるんだろ?」

「まぁ~ったく、ジミーは、やらしてくれる女、たくさんいるじゃんか!」


「俺は、高嶺の花のファンファンとやりてえんだよ。おっと、無駄口はいいから、会えないか?今、剣呑なやつ二人が話しているのを聞いちまったんだ。あの新聞沙汰の人身売買の話だ。台湾野郎でしょっぴかれてないヤツが話しているのを聞いた。それで、俺は、ファンファンに言った林田と関わりがあるんじゃないかと思ったんだ。かなりヤバい話だ。ヤツら、加賀町署の電話交換兼受付の交通係のねえちゃんをスパイにしているらしいぜ。だから、サツ内部の話もいずれ漏れるかもしれないぜ」

「ジミー、今どこにいる?」

「加賀町署の近くの横浜公園よりのサテンの近くの公衆電話からかけてる」

「いつものお前らのたまり場のサテンだね?」

「そうだ」

「わかった。すぐ行く。20分、待っていてくれ」

「了解だ。このネタなら、一発、やらしてくれるかい?」

「私とやったら、東京湾にコンクリ詰めで沈められるって知ってるくせに」

「それだけの価値はあらあな。なんせ、ファンファンなんだから」

「やれやれ。カタギのねえちゃんを紹介してやるから。紹介だけだ。売春斡旋じゃないよ。落とすのはジミー次第だよ」

「仕方ねえな。じゃあ、待ってるよ」


 嫌な予感がした。やはり、台湾野郎どもは、報復を考えているのか?『加賀町署の電話交換兼受付の交通係のねえちゃんがスパイ』?おっと!先週の木曜日、加賀町署の浩司に電話をかけた時、署の電話交換の女性がでたわね?私、彼女に『吉村警部補の従姉妹の張本と申します。吉村はおりますでしょうか?』と言ったような・・・


 もしも、私からの電話をとった電話交換の女が、台湾野郎のスパイだったら、私と浩司が紐づいてしまう。そうなると、芋づるで、良子だって、美姫だって、林田もH飯店も台湾野郎にわかってしまうってこと?まずい!まず、この女が誰か調べないといけない!どうする?


 これは私が作戦を立てたからいけない。これからは、頭脳明晰な良子に相談しよう。あいつだったら、こういうミスは絶対にしない。家にいるかな?いたら、ジミー・周のいるサテンに一緒に行って、直接、良子が話を聞ける。私は良子に電話をかけた。居た。


「ファン?私、眠くって。美姫の泣き言夜通し聞いてたのよ。それで、雅子が来襲して、美姫を飯田橋に連れ去ったの。大学休んで、先週から、水、木、金、今日でしょ?代返お願いするのも限界だわ。体で払わないといけなくなるかも?ファンもそうでしょ?」

「あのな、良子、私は代返を女子生徒にお願いしてるんだよ。あんたみたいにデレデレした男子にお願いなんかしてないよ。だいたい『体で払わないといけなくなるかも?』なんて私にワルぶらなくていい。まったく、明彦がスキだから、去年から操を立てて、他の男とエッチしてないじゃないか?あんたも可愛いところがあるよ」


「まあ、ファンにはバレバレだからね」

「雅子が美姫を飯田橋に連れ去ったの?」

「そぉよぉ。1週間に3日くらい、泊りがけで雅子のマンションで受験勉強するんですって。あなたも雅子のアイデア、聞いていたでしょ?雅子が立て板に水で、美姫の両親に、お任せ下さい!偏差値59以上!東京六大学!なんて言って納得させたんだから。説得力、あるわね、明彦の今カノは。さすがだわ」


「週に3日か。こりゃ、明彦もまたまた、今カノと元カノと3Pか?」

「やなこと言ってくれますね?私、なんにも悪いことをしてないのに、はじかれちゃったみたいじゃない。雅子の住所、教えてもらったから、雅子も来ていいって言ってるし、美姫がいない時に、割り込もうかしら?雅子は美姫とソックリだから、抱き心地も同じはずよ」

「新しい男を探せばいいだろ?」

「最近、それ面倒くさくなっちゃって。人の男は楽でいいわ。しがらみ抜きで楽しめて・・・って、ウソです。明彦をスキなのにね。振り向いてくれないんだもの。私だって、モテない、フラれることもあるんだと思ってさ。もったいないと思わない?この良子ちゃんなのよ?高嶺の花じゃないの?」

「やれやれ。それはそうと、大変なんだ・・・」と私はジミー・周の話をした。


「・・・なるほど。わかった。私も行く。喫茶店の場所は?」私は横浜公園近くのサテンの場所を教えた。「ちょっと遅れるかもしれない。十数分かな?タクシーで行くわ。ジミーを待たせておいてね」

「了解だ。良子が作戦を立てて、指揮した方がいい。私じゃ落ちが出る」

「任せなさい」


 タクシーで、ジミーが待っている公園近くのサテンに行った。ジミーは一番奥の四人がけのボックス席に座っていた。


「ジミー、待った?」

「ファンファンだったら、いつまでも待つぜ」

「今ね、友だちも呼んだのよ。関係者。さっき電話で言った、紹介するカタギのねえちゃんじゃないからね。勘違いしないように」

「友だちって女か?」

「あんたにとって、私の数倍、手が届かない高嶺の花よ」

「スゴイのが来るのか?」

「千人、女性を並べたら、一番ってくらいスゴイわ」

「楽しみだなあ」

「まあ、みかけと中身は違うから。ところで、あんたと手下、みんな客家だったっけ?」

「そうだよ」

「とすると、台湾の連中も、上海、広東、福建、四川、どこにも客家はいるわね?」

「そういうこと。香港にもシンガポールにもたくさんいるぜ」


 客家(はっか)は、漢民族の一支族で、その歴史は古い。今の客家は、華北を北方系の遊牧民に征服された10~12世紀の北宋の頃、南に移住した漢民族の子孫だ。それ以前も、4世紀の西晋が八王の乱で衰微し、匈奴が西晋を滅ぼした永嘉の乱の時、漢民族の江南への移住が始まって、客家も南進した。大唐帝国の時も安史の乱・黄巣の乱を避けて南遷したらしい。


 彼らは、独自の文化と言語をもつ集団で、「客」という言葉には、広東語で「よそ者」「一時的な滞在者」といったネガティブで侮蔑的な語感があった。20世紀前半、客家は「東洋のユダヤ人」と称されたこともあり、世界を流浪した、という意味でジプシーとも共通点がある。客家という言葉は、差別的な意味合いが強かった。


 広東人や福建人のように、出身地が明確なアイデンティーにはならず、客家語圏も他の方言との混在地域がある。客家は、広東省梅県の出身者や梅県を含めほぼ異論なく客家語圏と認められる地域にルーツを持って、自ら客家であると自認しているのが現在の正統派客家だそうだ。客家語は古い中国語の発音を残していて、他の中国の人間は客家語を理解できない。


 つまり、広東人や福建人、上海人という出身地が明確なアイデンティーを持つ他の漢民族と違い、客家は、広東、福建、上海、台湾、香港、シンガポールなどどこにでも入り混じっている。ここ横浜の中華街でも、台湾マフィア連中、ファンファンの張家のグループ、林田のグループ他、客家のメンバーはいるのだ。


 しばらく、ジミーの客家とはなんぞや、という話を聞いていた。面白いわ。



※この物語は性描写や飲酒、喫煙シーン含みます。

※この物語は法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。

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