第11話 元騎士団長、研究所を駆ける


「さぁ!こちらが最新鋭の……」


 なぜかおれは妙な場所で、これまた妙なからくりの説明を受けていた。


「ブレイブなんだここは」

 おれは隣にいるブレイブとサッポに小声で聞いた。


「安全研究所だよ!この時代の技術はほとんどがここで作られたんだよ」

「ここのツアー子ども達に人気で、よく近所の幼稚園の事達が来たりするんです。僕も来てたな~懐かしい」

「なんでそんな所におれらがいるんだ」

 おれ達は一般の見物人としてそのツアーとやらに参加していた。


 おれら以外は子どもと付き添いの者が数人参加していた。


「ルパスタンくんが言ったんでしょ!ここに来たいって」

「そんな意味で言ったんじゃない」


――どちらにせよこれに参加する必要はないだろ。


 おれはそう思いながらも列の最後尾を歩いて行く。


「こちらは最新の建材、つまりみんなのお家なんかを作る材料を研究しているんだよ~。あそこにある機械で今使われている建材を製作しているんだ」


――ああ、これがふわふわした光景を作った張本人か。


「だけど今の建材は固い物の周りをふわふわで包んでいるだけでねぇ、今後は完全にふわふわな建材を開発するつもりだよ!因みにここの施設は最新の建材で出来ててね、壁のふわふわが勝手に修理されちゃうんだ!」


――そういえばこの間はあの剣士もどきが壁や天井を激しくぶっ壊してたな。それで中心にある硬い素材の破片が落ちてたのか、なるほどな」


「みんな~ぬいぐるみさんは好きかな~?」

「すきぃー!」

 案内人の質問に子どもたちが元気よく答える。


「ここではぬいぐるみさん達のお家もあるんだよ~。あ!あれは危ない固いものをふわふわな物に変える装置!みんなも身の回りで危ないものを見つけたら執行官様に報告するんだよ?それか……」

 案内人はこちらを見る。


「見回り屋さんに話してね!」

 子どもたちの興味は今度はこちらに向けられた。


「こ、ここの管理をしている者に話をしたいのですが……!」

 おれは子どもたちに手を引っ張られながら案内人にそう言った。


「申し訳ありません、その場合はアポイントメントをとっていただく必要があります」

「だから急を要する話なんだ!」

「順番は守っていただかないと順番を破るのは危険です」

――ああ!ダメだ!全然取り合ってくれないな!


 ここを危険な奴が狙っていると伝えてもまったく通じない。それよりも順番を守れという。



 そもそも、なぜおれはここに来ているのか、話は朝に戻る。



「所長、この時代で武器を保管しているところはどこですか?」

 おれは出勤してすぐに所長に話をした。


「ぶ、武器?もしかして……魔王のことか?」

「そうです、奴は既に自分の部下を集めている。危険なスキルを持つ連中です。だが連中は武器を持っていなかった」


「それは魔法で作り出せるからだろ?だったら武器を今さら集める必要はないんじゃないか?」


「いいえ、そうでもないんです。魔法は相当な力を消費する、魔法で武器を一々作り出すのは効率が悪い、それに一人一人で精度の差も大きく生まれます、軍単位で扱うには魔法は不向きです。奴はそれを熟知している」

 おれは説明を続ける。


「実際、やつが以前率いていた魔王軍で魔法を使うやつは極少数、殆どが製造された武器を使用していました。だから今回も武器を揃えるために動くと思うんです」


「うーむ、それでこの時代で武器を入手する場所か……それなら1つしかない」

 所長にそう言われて来たのがこの研究所と言うわけだ。


「ここには武器があるんだろ?」

「ええおそらく、ここは安全を研究するところ、安全を研究するには危険なものを知らないといけないですからね。ほらこれ見てください」

 サッポは板を見せてくれた、そこには武器マニアを名乗る人間が書いた記事が運搬される武器の写真と共に掲載されていた。


「ほら、この布の隙間から見えてるの剣ですよね」

「ああ、そうだな、これちょっと借りるぞ。ええっと別の人、ちょっといいですか!」

「ああ!ちょっとルパスタンくん!」

 おれはサッポの板を手に取り近くを通る施設の関係者を呼び止めた。


「この写真について聞きたいんだが!」

「こちらの写真がなにか?」

 相手はこちらを振り向き写真を手に取る。


 眼鏡をかけ、白い帽子を深くかぶっており顔がよく見えない。

 

「あー、そのおれ達はここに武器があるかもしれないって思ってな。もしそうなら安全に保管されているのか知りたくてな。ほら最近は色々と事件が起きているからな」

「そうですか、でしたら問題ありません。それでは失礼します」

 呼び止めた女職員は軽く会釈して歩き去っていく。


――この声、どこかで聞いたことがある。


「おい、ちょっと待ってくれ」

 おれは歩き去る職員の前に立ち、今度はしっかりと顔を見た。


「やっぱり、教会の外で会った人だな」

「あら見回り屋さんでしたが、おつかれさまです」

「どうも、もう一つ質問、この手で誰を刺した」

 おれは相手の腕を掴む、消毒アルコールの臭い。


「本当に鼻が利きますね。彼と違って臭いを消す為に対処したはずですが」

「まさか!」

 相手の腕を掴む力を強める。


「面白いものですね、格闘家のスキルというのは」

「テメェ!」

 突然灯りが消え、通路が真っ暗になる。直後天井が赤く点灯し、忙しなく鐘が鳴り始めた。


「なんだ?ってどこに行った!?」

 おれの目の前から女職員は消えていた。


――逃さねぇように掴んでいた筈なのに!


「ルパスタンくん!警報だ!早く避難しないと!」

「もしかして本当に魔王が!?」


「まずは市民の避難を誘導しないと。おい!案内人!外に出るには?」

 案内人は警報に驚いたのかしゃがみ込んでいた。

 おれは案内人を立たせて大声で呼びかけた。


「えーー、あ!あっちです!みんな!私の後ろから離れないでくださいね!」

 案内人は出口の方向を指さす。


「よし、2人は子どもたちを頼んだ」

「私とサッポは?ルパスタンくんは?」

「ちょっと確認したいことがな、もしもの時は事前に伝えたとおりにな!」

「ちょ、ちょっと!」

「ブレイブさん、行きましょう!これがもしもの事態なら僕らはまず応援を呼ばないと!」


 おれは2人を案内人に付いて行かせ、避難する人たちと逆の方向へ走る。

 施設の中心に向かって行く。


「一体なぜなんだ!なんでこんなひどいことを!」

「や、やめてくれ!」

 避難が遅れた者が襲われていた。


「こっちだクソ野郎!」

 相手の手には槍が、おれは声を上げ、相手の注意をこちらに引き付ける。


「なんだ?!」

 こちらに振り向いた女に体をぶつける。


――さっきの奴じゃない。


「もう武器は回収済みか、一足遅かったな」

「はぁはぁ……」

「おい!さっさと逃げろ!」

「え、あ、ありがとうございます!」

 倒れていた者を起こし、逃がす。よし、他に逃げ遅れた奴はいないな。


「てめぇ魔王んとこの雑兵だな?」

「私は魔王様の忠臣!貴様が騎士だな!ソードマンの仇!わが槍でその心臓を串刺しにしてやる!」

 

――この構え、またおれのか。学ばねぇな。




 おれはドアをぶち破る。

 

 その先に奴がいた、あの時のままの姿だ。

 奴の背後が視界に入った瞬間、腸が煮えくり返るほどの熱を感じた。


 おれは片手に掴んでいた敵をぶん投げる、槍を構えた。


 敵の亡骸は燃えて灰かすへ、その灰の中へ向かって突きを放つ。


「ッ!……っとぉ!あぶねぇあぶねぇ」

 防がれた、おれは瞬時に槍を引く。


 灰が落ち、奴の顔が灰の向こう側から現れた。


 頭から熱がすうっと引く。


――こいつを殺さなければ。

 おれは再び攻撃を仕掛けようとした、次の瞬間目の前にナイフ2本現れた。


 顔を少し動かしナイフをかわす、奴から目を離さないように。


――灰に紛れて投げたのか、相変わらず肩書の割には姑息な奴だ。


 ファルコ・イグナイーダ、魔王だなんて持ち上げられてる、だがこいつはタダのゴロツキだ。


「ハハハッ!やっぱりてめぇは気味が悪いな」

「てめぇほどじゃねぇよ」


――さてどう殺すか。


「わからねぇな、最初はおれへの憎悪がビンビンに感じられた、なのに急に冷静な頭を取り戻した。今だってその頭の中でどうやって俺を殺すか考えてんだろ?頭の中に2人いんのかてめぇ?」

 イグナイーダは剣を手元でくるりと回転させる。


 おれはイグナイーダに接近し、槍を振るった。


「おー!速攻かよ、だがよ忘れてねぇか?テメェはスキルを失ってる、もしかしておれの部下を殺した程度で勢いづいてるのか?」

 こいつは剣を巧みに扱い、こちらの槍を全て弾いた。


「っ!」

「テメェが殺せたのは雑魚どもがテメェのスキルしか使えなかったからだ。そりゃあ簡単な殺しだっただろうよ、手の内全て分かってるんだからよォ!」


 相手の剣の一振でおれは大きく後ろに押し出される。ヤツはその隙におれに背を向け走り出した。


「逃げるのか!」

「はっ!安い挑発だ!もうここでの用は済んだ!長居は無用ってな!」

 おれはイグナイーダを追いかける。


「っクソ!しつこいぜテメェ!」

 ヤツは急に足を止め振り向きざまに剣を振るった。


「おっと」

 おれは後ろに飛び退き、剣を避ける。


――そうだよな、そのまま後ろにある出口から出てもおれを振り切れるか分からない、だったらここで殺しちまった方が確実だよな。



「テメェ腕どうした?」

 イグナイーダは剣先をおれの右腕に向ける。


「あ?」

「お前の石像の写真だ、数十年前のだが。ここには片腕は無かった。なのに今のお前の腕は完璧なもんだ。誰に治してもらった?」


――おれの石像の写真?なんでそんなものを……。 


「知らねぇよ、勝手に生えてきたんだろ」


「ハハハ!バカ言うな、そんな事できるのは……」

 イグナイーダは自分の左腕を切り落とした。


「魔王様である俺だけだ!」

 今度は切り落とした左腕を生やしてみせた。


――あの異常な回復能力、衰えてねぇか。


 わざわざ見せつけるために、くだらねぇ。


「まあいいや、どうせお前は死ぬ。そうすれば邪魔な存在はあとあの娘だけ」


「ずいぶん遠くまで考えてるんだな」

「この世界を変える男だからな」

「ふん、おれが言いたいのは、遠すぎて手が届かねぇんじゃないか?ってことだ」


「ハハハ!やっぱりお前はムカつくぜ!」

「お互い様だっ!」

 槍を強く引っ張ると、奴の右足がスパッと切れた。


――よし、うまくいった。もっとムカつきやがれ。テメェが怒りによっておれとの戦いに執着すれば都合がいい、ここで殺しきる!


「て、てめぇ!俺様の脚を!」

「さっき灰になったやつから糸も借りといてよかった。お前のそんな顔が見れるなんてな」

 どうせすぐに回復するんだろうが別にいい、こいつを怒らせれば。


「やってくれるな、スゥーーハァーー!テメェの魂胆は分かってるんだ。おれをイラつかせて、逃がさないようにしてるんだろ?時間稼ぎ、そうだろ?外にはテメェの仲間がずらりか?治安維持の連中は厄介なものを持ってるからな、ほら身体に刺して相手を眠らせるやつとかよ」


「っ!」


「お前はここに走ってきた、この時代だと走ることすら許可が必要だ。それなのにお前は即座にここに走ってきた、事前に許可を取っていたな?」

 イグナイーダは脚を再生させながら話す。


――最初からお見通しってか?こいつそんなに聡いやつだったか?


「用意がいいな、だがなそんな程度じゃ俺様は殺せねぇぞ!クソ兵士!」



 その時床が振動し音が聞こえて来る。

「なんだこの音は……外から?」

「そこあぶねぇぞ」

 イグナイーダはニヤリと笑った。


「なに?……っ!」

 突如、壁が破壊され何かが広間に突っ込んできた。


 金属製のでかい馬車が突っ込んできた。

 おれは弾き飛ばされ、壁に衝突する


 壁のふわふわな部分は破れ、身体に絡まった。


「て、テメェ……!やってくれたな俺様の顔に!」

 イグナイーダの顔面に槍を投げ刺してやった。飛ばされる直前に咄嗟に投げたが案外当たるもんだ。


「頭に槍刺さったら死んどけ」

「こんなもんで死ぬか!」

 奴は槍を引き抜き、投げてきた。


――ちくしょう、壁が身体に纏わりついて身体が動かねぇ。ここまでか……あっけない。


 しかし槍は予想に反した軌道を描く、壁に弾かれたのだ。


「壁が……。そうか勝手に修復する建材」


「ハァ!?なんだその壁!ふざけんな!」

「魔王様!お乗りください!」

「ファルコ様!」

――二人の女の声……片方はさっきの女だ!


 おれは壁越しに馬車を見る。

 馬車の窓の向こうに一瞬顔が見えた、さっきの職員だ。



「ルパスタンくん!?」

「馬車に轢かれた。まったく、この時代も馬が引いてくれていたらな。蹄の音で何が来るか分かったんだが」

 ブレイブが最初に駆けつけてきてくれた。彼女は壁を叩くが弾かれる。


「建材をどかさないと!」

「すみません!彼を早く出してやってください!」

 直後にサッポとラカリー所長も来てくれた。ブレイブとサッポは壁を叩く、ラカリー所長は職員を呼ぶ、みんな大慌てだ。


「ああ!なんと!修復機能で壁に飲み込まれた!これは危険ですね!ちょっと今後の研究に使用するための資料写真いいですか?」

「なんでも良いからさっさと出してくれ」


――なんて偶然……やっぱりアイツを殺すまで死ぬなってことか。


 そんなことをつい考えてしまった。


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