第10話 元騎士団長、魔王を睨む
時はルバスタン・ドンリーロがソードマンを自称する狂人を殺して1時間ほど経過した頃だった。
(こ、殺した!なんの躊躇も無かった!)
一人の女性が街を急ぎ足で歩いていた。
荒い息を整える間もなく、彼女はどこかを目指していた。彼女は大通りから小道に入り、小道からとある建物の壁に触れる。
彼女が触れると壁から扉が現れた。
扉を開け彼女は暗い広間に駆け込む。
「おうなんだオロワール司祭、ゼェハァいってるじゃねぇか色っぽい登場だな」
「すみません、すぅー、魔王イグナイーダ様……ご報告が、ソードマン殿が倒されました」
息が荒いまま司祭と呼ばれる女性は跪いて報告した。
「死んだのか?ハッハッどうやって?」
大きな椅子に腰を掛けている男性が笑う。
その男はファルコ・イグナイーダ、かつて魔王を名乗り、軍を率いて世界に混沌をもたらした張本人。
「く、首を吊り上げられて」
「はあ?首を吊り上げられた?誰にだ」
「この男です、彼を……そのこ、殺したのは」
女性は複数の写真を魔王と呼ぶ男の前に差し出した。
「おい、お前まだ言い慣れてないのかよ、反復練習しとけって。ころす、コロス、殺す、ほら簡単だろ?まあいいや……はぁこいつか」
彼の前にはルパスタンがブックレを捕らえた所の写真、そしてリジオを捕らえた時の写真、そしてソードマンと戦い、彼を吊るし上げている場面の写真が置かれていた。
「ハハハッ、よく撮れてるじゃねぇか。最悪な記憶がフラッシュバックしたぞ」
「ルパスタン・ドンリーロ、つい先日情報登録がされたばかりで、活動を確認できたのは2カ月ほど前からです。現在は警戒所に勤務しております」
魔王の後ろからフードを深く被った別の女性が話す。
「警戒所?」
「勇者の子孫がいます」
「ああ、小娘がいるところか」
魔王の前にブレイブの写真も置かれていた。
「それよりも……こいつが余計なことをしなけりゃあ、今頃のこの世界はもっと楽しい場所になっていただろうに……あー、憎たらしいなぁおい!」
魔王はテーブルを蹴る。
「申し訳ありませんイグナイーダ様!我が祖父がスキルを取り替えた後に石像を処分していればこのようなことには!」
司祭は我が祖父と言った。その祖父とはかつてルパスタン・ドンリーロと共に戦った賢者であり、彼女はその孫娘だったのだ。
名はオロワール・ハローラ、魔王を信仰する宗教団体のリーダーであり周りからは司祭と呼ばれている。
「気にすんな、殺す相手が一人増えて、楽しみが増えた」
「寛大な御心に感謝いたします!魔王イグナイーダ様!」
司祭は額を床につけ、感謝の言葉を伝えた。
「魔王様、なぜこの男はソードマンを殺せたのでしょうか。この男はもう戦闘に関するスキルは1つもありません」
フードの女性が疑問を口にする。
「確かにな、おい司祭!こいつに与えたスキルってのは?」
「ルパスタン・ドンリーロが所有していた剣技のスキルです」
これを聞いて魔王は自身の額を叩く。
「あちゃ~、そりゃダメだわ、無理無理、そりゃ死ぬわ」
首を横に振る魔王、写真を1枚手に取る。
「コイツにもやっぱりあったのか……」
「魔王様、あったとは?」
フードの女性が質問する。
「殺しのスキルさ」
「え、いえ、いえ!そのようなものがあれば即座に取り除いているはずです!実際に奴が所有するスキルは……」
司祭は両ひざを床につけたまま両手を振り、否定する。
「そんなんじゃねぇんだよ」
スキルのリストを見せようとする司祭を魔王は止めた。
「もうコイツにとって殺しってのは魂の芯まで刻み込まれたものなんだよ。取り除くなんて無理さ」
「そのような事が……」
「コイツは俺の部下を一番殺したやつだからな」
「一番?!」
司祭は目を見開いて驚く。
「いちいち数えたわけじゃないが。それでも分かる。コイツの眼を見たときにハッキリしたんだ。俺様の部下を殺して回ってたのはコイツだ。勇者じゃねぇってな」
魔王は鋭い目つきでルパスタンの写真を睨みつける。
「では彼が本当の勇者ということですか?」
「違う、コイツはそんな奴じゃねえ。本来は脇役さ、見てるものが違うんだよ」
司祭の言葉に首を振る魔王、彼は立ち上がり話を続ける。
「勇者の奴は世界が平和だとか、魔王を倒すだとかそんな話ばかりだった。だがコイツは魔王を殺す、ただそれだけ。この大きな違いが分かるか?」
突然の質問に司祭は戸惑いながら首を横に振る。
【殺す】と【倒す】どちらも似たようなものでは?と彼女は考えていた。
「す、すみません、表現の違いという解釈しか、私にはできません」
「こんな世界で生きりゃ分からなくて当然だな、教えてやる」
「ハッ!ありがたき幸せでございます」
司祭は再び両手を地面につけ頭を下げた。
「敵を倒すってのはどういう状態だと思う?」
またしても魔王からの質問だ、司祭は一生懸命に考えた。
「状態?んー……そうですね、屈服させるとか」
「そういう難しい言葉じゃなくて、もっとストレートに言うとなんだ?」
「敵が、敵でなくなる時……とかですか?」
「敵でなくなるか、まあいい線いってるか」
「ありがとうございます」
褒めてもらえたと思い、司祭は感謝の意味を込めて頭を下げた。
「じゃあそうするにはどうすれば良い?どうすれば敵は敵でなくなる?」
更なる質問、再び考える司祭。
「圧倒的な力を見せつけるとか、身動きを取れなくする……とかでしょうか抵抗できないようにするんです、精神的か物理的に」
「ふぅん、確かにそれで大人しくなるやつもいる。だがこいつらは違った。おれがどれだけ力の差を見せようが連中はおれに歯向かうことをやめなかった」
魔王は昔を思い出し笑う。
「それにな腕を切り落としても歯向かって来るやつはいる。軍門に下ったフリをしても、腹の中じゃ反撃の隙を伺う奴もいる。本当に敵じゃないかどうかなんて分からないのさ、誰にもな」
魔王は魔法で剣を作り出す。
「その点殺すってのはどうだ?ハッキリしてんだろ?そいつが死んだ状態にすりゃあ良い。数日おいて腐ってれば死んでる。待つのが面倒なら木っ端微塵にしちまえ」
「なるほど……あれ、でも倒すという言葉にもその条件は当てはまりそうですが」
司祭は手を挙げて疑問を投げかけた。
「よく気づいたな。そうだ、倒すって言葉には色んな意味合いが混ざっている。便利な言葉かもしれねぇけどな、覚えておけ、そんな言葉はな逃げの言葉なんだよ」
「逃げの言葉?」
「ハッキリとしない言葉を使ってる時点で事実から目を背けてんだよ。倒すって言葉の中に殺すも含まれている事実を薄めているのさ」
魔王は笑う、その言葉を使う者たちを嘲笑うかのように。
「平和っつーのもそうさ、具体的じゃねぇだろ?そんな言葉を使っている時点で逃げなんだよ。いろんな意味合いにとれる曖昧な言葉を使うのは、逃げと同じだ、くだらねぇ」
吐き捨てるように言う魔王。
「その言葉を勇者がよく使っていたと。目を背けていたと」
「そうだ、だからアイツは俺を〝倒し〟きれなかった。当たり前の結果っつーやつだ。俺は殺されない限り止まらねえ」
手元で遊ばせていた剣をルパスタンの写真に向ける。
「だがコイツは違う、コイツは殺すだ。大違いだ、もうその理由は分かるな?……コイツの中で【敵は殺す】それ以外にない」
ルパスタンの写真を剣で突き刺す魔王。
「標的変更だ。勇者の末裔よりコイツだ。コイツを殺すんだ。そのためにもまずはあの場所に行かないとな、準備しとけ」
「畏まりました!皆に伝えてまいります!さあ行きますよ!」
司祭はフードの女性を連れて部屋を出ていく。
「石ころ一つ増えた所で変わりゃしねぇ。全てぶっ殺して終わりだ」
ファルコ・イグナイーダ、出生不明、幼少の頃より悪事に手を染めていた。貧しかったからではない、必要に駆られたからではない。彼は心からその行為を楽しんでいたと言う。
卓越した戦闘技術、常人離れの魔力を有し、更には外道に手を出し手に入れた超常的な能力の数々。次第に人々は彼を魔王と呼ぶようになった。
魔王を名乗るようになった彼は軍を率いて各地を火の海にして回った。
この者の際限ない破壊を止める為、王国は魔王討伐隊を結成した。
幾度にもわたる激戦の末、討伐隊は魔王を根城まで追い詰めた。
後は我々が知る通り、勇者の聖剣の力によって魔王は封印された。
しかしなんという事だろうか、100年という期間では魔王の野心を消し去る事はできなかった!彼は復活し世界に再び悪を蔓延させようとしていた。
「ッ!ハァッ!」
――殺す!
「ッ!!」
――殺す!
「ーーッ!」
――テメェは必ず殺す!
「ふぅー、少しは戻って来たか」
音を立てて倒れる大木を見下ろし、おれは自分の身体にあの頃の熱が戻ってくるのを感じていた。
おれは昔のことを思い出していた、勇者たちと共に魔王軍と戦っていた時だ。
「武器を捨てよ!戦う意思の無い者までボクは攻撃しない!命を無駄にするな!」
勇者が剣を掲げる。
聖剣、彼だけが扱える剣、彼が持つ光の力に反応し魔法を放ったり出来るんだとか。
剣の輝きを見た手負いの敵軍は残された僅かな兵ではどうにもならない事を悟り、武器を捨てた。
「こ、降参だ!この通り!」
「賢明な判断をしてくれてありがとう。さあ行ってくれ。もう魔王軍などに関わるんじゃないぞ」
勇者は彼らにそう伝え見逃した。
「まったく勇者様は本当にお人よしだなぁ」
「今に始まった話ではないがね」
「それが勇者殿が人を惹きつける所ですからな」
勇者の仲間である義賊、魔法使い、そして賢者が笑いながらそんな事を言う。
「……」
勇者たちが王国に戻り数日後、おれは部隊を連れて出発した。勇者達はいない。
「なんでここが……!」
ここは敗走した魔王軍の連中が逃げこんだ隠れ家。武器、食料もしっかりと蓄えられていた。
幸いなことにこちらの想定以上の魔王軍の兵が潜んでいた。先日敗走した連中もいる、辛抱の甲斐があった。
「この洞窟には裏口がいくつかあるんだったな?」
「ハッ!既に対処しております!」
「え?なんであんたらその事を……」
「うわぁぁあ!こっちはダメだ!炎が!」
「こっちもだ!出口から炎が流れ込んでくる!」
洞窟の奥から炎と油の臭いがする、優秀な部下が裏口を火で塞いでくれた、仕事が早くて助かる。
「さあ、丸焼きになりたくなければおれ達の後ろ側に逃げるしかねぇな」
「う、うわぁぁぁ!」
敵兵の内何人かが一斉に走り出した。標的を散らせば誰かが助かるとでも思ったのだろうか。
「ッ!」
「がぁ……!」
逃げようとした連中の首が飛ぶ。
「ヒィ!」
おれの剣一振で転がされた連中の頭、それをみて残りの者が悲鳴をあげる。
「な、なんでこんなことを!もうおれ達は戦う意思はねぇって!勇者さまが見逃してくれただろ!」
目の前に立っていた男が叫んだ。
「おい、その靴、どこで手に入れた?」
おれはその男の靴を指さした。
「え?」
「王国から5日ほど馬で行った所に、小さな村があった。2度しか行かなかったが、いい村だった。そこに酒場があったんだ。1度しか行ったことがないが、店主のおやじさんは気前が良くてな。おれ達が酒を飲んでいるときに自慢されたんだよ」
「……?」
「娘と女房が靴をこしらえてくれたってな、お父さんは立ち仕事で足が疲れるだろうからって。世界一の靴だって、おやじさんに酒を奢ってからはずっとその話だ」
「っ!……え?」
目の前に立っていた男が倒れる。
おれは立ち残されていた男の両足を取る。
両足から靴を取り外す。
――良かった、こいつの血がつく前に靴を取り外せた。
「ああああ!あ、あ、足が!足ぃ!」
「次にそのおやじさんに会った時は死んでた。焼け焦げた酒場の下敷きになっててよ、妻も娘さんも一緒に」
倒れた男は這いずっておれから逃げようとする、そっちにや火があるのに。
「知らなかったんだ、ただ拾っただけで!」
「勇者がお前らを見逃してくれたって?」
おれは這いずる敵の背中に剣を突き刺した。
剣は奴の背中を貫き、地面に深く刺さる。
「それは勇者の話だろ?おれは最初からてめぇらを一人も逃すつもりは無かった」
剣を引き抜く。
「皆殺しだァッッ!」
「ーーーーーッッ!」
合図を聞き後ろにいる部下たちが鬨の声を轟かせる。
「結構いましたね。うぉ、火すごいですね」
「首だけで小屋ぐらいなら建てられそうですね」
「お前ら怪我してねぇか、死んだやつは」
「いません、怪我人もいません。敗残兵と魔物程度の相手では訓練以下ですね」
部下たちと洞窟の外で合流する。
「連中こんなに蓄えやがって、これ絶対王国に攻め入る気でしたよね」
「やっぱり勇者様はすこし甘すぎますよ、俺達がこうやって後処理してるからまだなんとかなってるものの……」
「そうっすよ、勇者様が語る暴力がない平和な世界とか、敵にも許しをとか夢物語ですよ」
珍しく部下たちが愚痴をこぼす。
「まあ、良いじゃないか」
「良いじゃないかって団長!おれ見ましたよ、勇者様に詰められてましたよ、なんで敵を執拗に殺すのかって!」
なんだ見られてたのか、上官が叱責される所をみるのはいい気分じゃねぇだろうに。
「それで良いんだ、アイツは人に希望を与えるのが役目なんだ。そのためには夢物語みたいなことを語ってもらわねぇと。泥臭いことはおれ達がやればいい」
「団長……」
「文句がある奴は勇者に聖剣を貸してもらうんだな、まあここにいる奴らは勇者様ってガラじゃないか」
おれが笑うと部下も笑い出す。そうだおれ達は勇者様になれなかった、だからこそ出来ることがある。世界の平和だとかは勇者様達に任せれば良い。
「で次はっと」
おれは紙切れを取り出す。
「それは?」
「連中が持ってた地図だ。回収した武器や食料、そう、それだ。それだけの量を調達するのは簡単じゃない、他の隠れ家と連携してるんじゃないかと思ってな。予想通りだった」
地図を広げる。
「さすが団長!それで次はどこへ?」
「お、この近くにあるじゃないか。急ぐか」
「奥さんの晩飯食べないとならないですもんね」
「お前らも早く帰らないと嫁さんが心配するだろ?よし、出発だ!」
そうだ、勇者ではないおれ達はひたすら目の前の敵を殺せば良い。
おれ達は物語に名前すら載らない、ただのいち兵士。そんなおれらは戦場が生み出す闇を全て背負い込んで死んでいけばいい。
――夢物語が実現するなら本望だ。
そう思っていた、だが結局魔王は生き残り、おれも生き残ってしまった。
「最後までやりきる、今度こそな」
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